禁断の味

 上崎と俺は、学生時代の悪友だった。なぜか気が合い、一緒にいろいろ馬鹿をやった仲だ。年月が流れ、今や俺はしがない三流ライター。そして上崎は三十代にしていくつもの企業を支配する超セレブの青年実業家様だ。何ヶ月か前、仕事の関係で久しぶりに上崎と会った。たちまち昔を思い出し、気がつけば仕事も忘れてお互いタメ口で話していた。それ以来短時間だが何度か会っている。上崎はもちろん超多忙な身だが、俺と二人で過ごす時間を随分楽しみにしているようだ。彼に言わせると、交友関係は広いが、地位や金の事を抜きにして腹を割って話せるのは、俺だけらしい。そして今回、上崎から連絡があって、珍しくまとまって自由な時間が取れたから、家に遊びに来ないかとの事だった。こうして今、俺は上崎の屋敷の客となっている。
 上崎の屋敷は、まさに大邸宅という他はなかった。どれぐらいの広さや部屋数があるのか、そしてどれぐらいの金がかかっているのか、庶民の俺には、見当もつかなかった。この大邸宅に、まだ独身の上崎は、わずかばかりの使用人たちと暮らしているらしい。俺は一瞬、上崎が大金持ちとはいいながら、実は随分さびしい思いをしているのではないかと考えてしまった。もっとも彼の忙しさなら、普段そんな事を感じている暇はないだろうが。
 学生時代の馬鹿な思い出話をしたり、上崎が用意した女たちとたっぷり楽しんだりしているうちに、夕刻が近づいてきた。上崎は「そろそろ晩飯の用意をしようか。」と言い、俺をある部屋に案内した。

 なんの飾りもないその部屋には、ただ長椅子が置かれ、そこに三人の少女が座っていた。歳は十六、七ぐらいで、三人とも全裸だった。みんな同じようなきれいな顔立ちで、人形のような微笑を浮かべていた。グラマーとはいえなかったが、少女らしい均整のとれた美しいプロポーションをしている。白い艶やかな肌に、桜色の乳首、下半身の茂みさえもが、かわいらしく美しい。「こいつらは、食用少女さ。まぁ一番安いAクラスだけどさ。」上崎は言った。今までも何度か食用少女を見る機会も、たまにはご相伴にあずかる機会もあったが、こんな間近で生きた食用少女を見るのは初めてだ。
「今夜はこいつをご馳走しよう。」上崎が合図をすると、調理師の格好をした大男が入ってきた。「うちの専属シェフの権藤だ。みかけはごっついが腕は確かだぜ。今から今夜の材料を締めさせよう。」「おい、締めるって、まさか。」俺は少しばかりあわてた。しかし上崎はかまわず「そうだな、どいつにしようかな。」上崎は少し考えてから「よし、おまえだ。」と右端の少女を指差した。指された少女は無言で立ち上がる。権藤がその少女に近づくやいなや、片手で少女の肩を押さえ、もう一方の手で頭をつかんで、ゴキッとひねった。一瞬の事だった。少女はあらぬ角度で首を曲げ崩れ落ちる。権藤は、まだビクビクと痙攣する少女の体を担ぎ上げて運び去った。その間、残った二人の少女は、騒ぎもせず、怯えた様さえ見せずに、無言で仲間の最期を見ていた。彼女たち食用少女にとって、これはあたりまえの事なのかもしれない。「こいつらには別の使い道があるのさ。そうだな、夕食までにはたっぷり時間があるし、おもしろいものを見せてやろう。」上崎はそう言って、ニヤリと笑った。

 俺が案内されたのは、地下室の一角、一見すると肉屋の厨房のような部屋だった。上崎によると、この屋敷の厨房はこことは違う別の場所で、今頃権藤があの少女を調理しているだろうという。大きな調理台のむこうに、鉄製の頑丈そうな扉があった。上崎が扉を開けると、中から薄紫の煙があふれ出し、香ばしいにおいがした。上崎に言われるまま、扉の中を覗き込んだ俺は、思わず息をのんだ。煙が漂うその中には、いくつもの肉塊がぶら下がっていた。なかには明らかに人間の腕や腿らしき物もあったが、なにより少女が一人そのままの姿で吊り下げられていた。「最近、燻製作りにハマってるんだ。こうやって食用少女を燻製や生ハムに加工してるのさ。取引先のセレブ連中にも、なかなかの評判なんだぜ。今ここにあるのは、そろそろ出来上がりだから、明日あたりさっきの連中を使って、また仕込みをやろうと思っているのさ。」そう言って上崎は笑った。
 

 そのあと、上崎が撮った燻製作りのビデオをみたり、ご自慢の燻製や生ハムで軽く一杯やったりしているうちに、夕食の時間となった。俺たちは食堂に移動した。食堂には、すでにさっきの少女が料理されて美しく並べられていた。テーブル中央の大皿の真ん中には、少女の首が飾られていた。額より上の部分は切り取られ、脳があったはずの空洞には、黄金色のフライが盛り付けられていた。「脳味噌のフライさ。新鮮な脳味噌でなくちゃ食べられたもんじゃないよ。」首を盛った大皿には、他に刺身やたたき、串焼き、空揚げ、茹でたばかりの腸詰、レバ刺しやハツ刺しも並んでいる。俺と上崎、それぞれの席の前に並べられた料理は何だろう。「それは腿肉の香草焼きさ。とても柔らかいぜ。それから乳房のマリネ、尻肉を蒸して胡麻だれをかけたもの、それに刻んだ腎臓入りのミートパイだ。」権藤にも助手たちがいるのだろうが、あれだけの時間で、よくこれだけの料理を作ったものだ。その時、俺は自分の前だけに置かれた料理に気付いた。デミグラスソースで煮込んだあわび貝のような料理だ。「これはなんだい。」と聞くと、上崎はまたニヤリと笑った。「わからないかい。アソコだよ。アソコ。」「アソコって、女の…」「そうとも、アソコの肉を土手ごと抉り取って、丸ごと煮込んだシチューさ。一人の少女から一皿しか作れない、特別なお客のための料理だよ。」「それは、ありがとうというべきなのかな。」「ははは、とにかく冷めないうちに始めようぜ。」

 こうして俺にとっては、生涯忘れられない夕食が始まった。上崎の言うとおり、権藤の腕は確かだった。この世のものとも思えない少女の味を楽しみながら、俺はふと考えた。こんな味を覚えてしまって、ただの庶民の俺は、明日から少女を食べずに我慢できるんだろうかと。
 
(おわり)
料理店『シベール』
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