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SESはエンジニアをダメにする

さて、久々(多分初めて?)のITエンジニアらしい話題です。
IT業界に身を置く人ならSESという言葉は知っているはずです(出なければ非常に恵まれた会社にいるか、モグリです)。
IT業界でない方のために、SESというのを簡単に説明しておきましょう。

正式にはSystem Engineering Serviceと言います。
通常はこの頭文字をとってSES(エスイーエス)と呼びます。

システムエンジニアが行うシステム開発に関する業務サービスの1つで、通常は委託契約(請負・委任・準委任契約)に括られています。
ようはシステムエンジニアの能力(労働力)に対して業務契約を行う形態です。

※請負契約、委任契約、準委任契約の違い
請負・委任・準委任契約は民法において条文化されています。

(請負)第632条
請負は当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

(委任)第643条
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効果を生ずる。

(準委任)第656条
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

このうち、民間企業同士で締結される契約は請負か準委任契約になります。
委任契約は法律行為の委託をさすため、相手方は弁護士、司法書士、国家機関、地方自治体などになります。
委任と準委任の違いは法律行為であるか否かで他は同じです。
請負と委任・準委任との違いは、

  • 仕事の完遂義務
    請負は絶対義務、委任・準委任は努力義務です。
    請負は仕事を完成(成功)させなければ報酬を得られません。
    委任・準委任は仕事をすることが目的であり、完成(成功)の有無は問われません(弁護士などが良い例で、裁判で敗訴し依頼者の意に沿わなかったとしても弁護報酬の支払い義務が生じます)。

  • 瑕疵担保責任義務
    請負は成果物の瑕疵(欠陥)につき修補や損害賠償の責任を負いますが、委任・準委任はこのような義務は負いません。
    但し、委任・準委任であっても善管注意義務(通常期待される程度の注意を払う義務)は負っており、専門家として期待されるだけの行為をしなければ、損害賠償責任を問われることもあります。

SES契約は労働基準法によれば委託業務の一種とみなされます。
このため、労務管理や指揮命令系統などが発注元企業から独立している点が、発注元企業の指揮命令下で業務が行われる派遣契約との違いです。
また、SESは殆どの場合準委任契約になりますので、請負のように仕事の完遂義務や瑕疵担保責任義務は生じません。

文章だと若干わかり難い(実際に非常にわかり難い)ので、派遣契約や請負(受託)契約との違いを箇条書きにしてみましょう。

派遣契約との違い
  • 労務管理が所属先企業の管理下に置かれる(発注元の勤怠ルールに束縛されない)
  • 発注元企業には指揮命令権がない(SES労働者に直接業務に関する指示、命令ができない)
請負(受託)契約との違い
  • 情報成果物に対する納品義務がない(システム完成や業務完遂はSES労働者にとって努力目標であり、義務ではない)
    ※納品物は勤務表のみとなる
  • SES労働者就労時間に対して賃金が支払われる
  • 基本的には客先に常駐して業務することになる
SESの問題点

さて、こうやって比較すると企業にとって非常にうま味のある契約形態のように見えます。
実際の所、中小零細のIT企業にとって、SES事業は非常に都合の良い仕組みなのです。
賃金はシステムエンジニアの能力に対して支払われるので、受託契約ほどのリスクはなく、比較的安定した売上と利益を見込めます。
また派遣契約のように特別な免許(一般労働派遣)や許可(特定労働派遣)は必要ありません。
※特定労働派遣は平成30年秋ごろに廃止になる模様です。

ですがSES事業の多くは客先(発注元)常駐型で、実体は殆ど労働者派遣となんら大差はありません。
指揮命令権や作業の完遂義務の有無についても殆ど有名無実化しており、発注元から直接作業指示が下りてくる、仕事が終わらなければ残業や休日出勤してでも終わらせるといったことが常態化しています。
労務管理は所属先会社にありますが、現実問題として社員は発注元に常駐しているので厳密な労務管理を行うことは極めて難しくなります。
これだけならまだマシなほうで、いわゆる真っ黒な企業では多重派遣すら横行しているケースもあります。
しかもSESで派遣されている労働者はほぼ常駐先の勤怠で拘束されており、所属先会社の仕事をすることはありません(月1~2回程度帰社日なる名目で自社に戻ることがある程度です)。
故にSESで外に出ている社員は所属先会社に対する帰属意識が非常に希薄になる傾向が強いです。

このように企業にとっては非常に都合の良い事業ではあるものの、労働者にとっては必ずしも都合の良い仕組みではないことがわかります。
もちろんベテランを中心に好きで色々な企業で腕を試したいと思うシステムエンジニアが居るのは事実ですが、少なくとも若い未熟なエンジニアがキャリアを積む場としてはSES事業は全く向かないどころか、逆に帰属意識が芽生えないまま所属先会社と距離を置いてしまう結果になりかねません。
故にSES事業が中心になっているIT企業では新卒採用が絶望的に難しい理由の1つにもなっているのです。

SESは何の価値も生み出さない

SES事業は有体にいえばピンハネ屋です。
ピンハネこそがSES事業における企業の利益になるのです。
ですが、それは派遣事業についても同じことです。
ですので、ピンハネ自体が悪と言っているわけではありません。

SES事業と派遣事業の明確な違いは、派遣事業(会社)は派遣法という独自の法律の下行われている合法的な事業である点です。
ピンハネと書くと悪しきイメージが付きまといますが、少し優しい言い方をすればマージンによる利益を抜くという行為になります。
ですので企業側は節度を持って行う義務があります。
この節度とは派遣法で定められている多重派遣の禁止、マージン率の公開義務だったりします。

もちろん派遣会社の中にも派遣法を無視した真っ黒な企業は存在しますが、それは今回の趣旨とは異なる問題ですので割愛します。
問題はSES事業においては法的に派遣法の適用外になってしまうため、派遣先で指揮命令や労務管理を受ける実質的な派遣事業であるにも関わらず、この派遣法を無視して節度のないピンハネを展開しているのが実態なのです。

SES事業で比較的ありがちなものとして、孫請け、ひ孫請けというのがあります。
まず結論をいうと、この構造はねずみ講やマルチ商法のような構図と非常に酷似します。

請負の構造

これがIT業界でよくみる多重下請け構造です。
矢印の流れが、そのままお金の流れになります。
通常、エンドユーザと一次請けとの契約は請負(受託)です。
一次請けから二次請けも請負(受託)契約が多いですが、SES契約もあります。
三次請け以降は殆どの場合SES契約か派遣契約になります。

そして、こちらはフリー画像で見つけたマルチ商法のイラストです。

マルチ商法

そっくりですね。
何がそっくりかというと、間に入ってマージンを搾取している人たちは何の価値も生み出していないという点です。
間に入っている企業が自社の技術者を派遣している場合は、一応自社の技術力の提供という価値は生み出しています。
ですが、自社の社員を使わずそのさらに下請け(協力会社)に丸投げして下請けの社員を派遣させることが横行しているのです。
このケースでは間に入っている会社はまさに何の価値も生み出さない、単にマージンを搾取しているだけの状態になってしまうのです。

SESは偽装請負や多重派遣の温床となる

先ほども書いた通り派遣事業は派遣法に基づいて厚生労働省の免許や許可を得なければ行うことが出来ません。
法律で厳格に管理されていますので、法律無視のブラック会社でもない限りは違法性はありません。

ですがSES契約は建前上は請負契約、あるいは準委任契約ですので、免許や特別な許可を得ることなくどの企業でも行うことが出来ます。
これが、偽装請負や多重派遣の温床につながるのです。

事実SESの世界では偽装請負という違法行為が公然の秘密として横行しています。
偽装請負とは、労働者が派遣先で他社から指揮命令されているにも関わらず、契約形態が派遣契約ではなく、請負や準委任契約になっている状態のことを言います。

自社に持ち帰って作業できる場合はともかく、客先に常駐して作業する場合、常駐先で指揮命令したほうが効率的だという主張も見受けられます。
確かにそれは至極もっともな主張ですが、そう思って客先で指揮命令が行われる状態で仕事を進めるなら、合法的に派遣契約でやれよというだけの話になってしまうのです。

でもSES事業者は派遣契約にはしたがりません。
派遣契約にしてしまうと、多重派遣によるピンハネが出来なくなってしまうからです。

さて、この偽装請負が横行すると労働者にとってどんなデメリットが生じるのか?
それは、本来自社にあるべき指揮命令の権限だけが客先に奪われるわけですが、指揮命令権のある雇用者に位置付けられている者に本来義務付けられているはずの、労働者を守るための義務や責任は客先では追ってくれないという状態に陥ります。
つまり客先は労働者に対して指揮命令はするけれども、その責任は負わないという異常な事態になってしまうのです。
もし客先で労働に対してトラブルが発生した場合、労働者は本来の雇用主に対して相談や救済を訴えることになりますが、雇用主は客先現場の状況は当然把握していませんので、客先への事実確認やなにやらで後手後手に回ってしまい、事態が悪化し間に合わなくなるケースも多々あります。

だからこそ偽装請負は法律で厳しく禁じられているわけですが、SESの現場では前述の通り公然の秘密として他社の人間が指揮命令しながらプロジェクトが進んでいくのです。

そして派遣法では厳しく禁じられている多重派遣もSESでは当たり前のように行われます。
派遣法では、派遣先に常駐し、派遣先社員の指揮命令下で働くことは認めています。
しかし客先からさらに別の客先に派遣されることは多重派遣として禁止されているのです。
よって、派遣契約の場合こうしたことは起こりにくいのですが、請負や準委任契約であるSESの場合は結果として多重派遣になるケースが多いです。
本来の客先(契約先)であるプロパー社員と共に、客先の顧客先に常駐して作業するというケースです(中にはプロパーが付かず1人で飛ばされえるケースもあります)。
最悪なのが、指揮命令権が契約先(客先)どころか、自分たちとは契約上全く関係のない企業の社員から行われることがあるのです。
この行為は偽装請負と同様当然違法行為ですが、SESではそこが曖昧にされてグレーゾーンでギリギリOKみたいな雰囲気で横行している実態があります。

まともな就労管理は不可能

SESではまともな就労管理は不可能です。
何故ならば偽装請負によって実質的に指揮命令権が自社になくなってしまうからです。

その主たる例が有給休暇の取得でしょう。
本来有給休暇は自分の直属の上司に申請して、承認されれば取得することが出来ます。
会社はよほどの事由がない限り申請を拒否することは出来ません(日程をずらすよう要請する場合はあります)。

しかしSESに出ているエンジニアの場合、自社だけでなく客先での許可が必要になります。
前述の通り有給休暇の申請はよほどのことがない限り、会社は拒否することができません。
ですが客先は労働者を直接雇用しているわけではなく、単に労働者の能力(労働力)に賃金を支払っているだけの立場なので、自社がOKを出しても客先で休んではダメだと言われる場合が往々にしてあるのです。

また勤務時間に関しても本来は自社の就業規則に定める時間で開始・終了するべきところを、客先のルールに合わせる形になります。
これについては必ずしも悪い方向に作用するとは限りません。
例えば自社では朝の9時スタートで18時定時の8時間労働だったとしても、客先側が9時開始で17時半終了の7.5時間労働といったケースもあり、この場合でも客先に合わせることになります(もちろん時短による給与天引きはありません)。
しかし他社の人間が残業しろと言われれば残業しなければいけませんし、休日出勤しろと命じられれば休日出勤しなければいけなくなります。

ただ、本当にここ1~2年の話ですが、残業・休日出勤の指示に関しては労働者に直接命じるのではなく、必ず労働者の所属会社を通すということを徹底している会社もあります。
働き方改革なんて言葉が登場する以前から、SES常駐先での長時間残業や休日出勤に関してはトラブルが多発している事項なので、近年では所属先会社が必ず自分たちを通すよう契約に盛り込むようになってきています。

とはいえ、これで自社の従業員の勤怠を完全にコントロールできるはずもなく、働き方改革などを導入するのはまず難しいでしょう。
結局毎月月末に自社に提出する作業実績報告書(ただの勤務表)を見て、長時間労働の実態をみてびっくりして、慌てて事実確認して対策をするという、結局後手に回ってしまうわけですが…。

長時間労働になりやすい

SESの現場では長時間労働に陥りやすくなります。
理由はいくつかありますし、それらの理由が複合的に重なり合うことで長時間労働かすることもあります。

1つは先ほどから書いている偽装請負の実態にあります。
自社の従業員が長時間労働化してくれば、普通の会社であればそれ以上ひどくならないようにマネジメントすることが出来ます。
しかし偽装請負の状態にある以上、自社の上司がマネジメントしようにもできません。

話の分かる優良な客先ならばSESで派遣されている人も含めて健全にプロジェクトが回るように(客先が)マネジメントをしてくれる場合もありますが、そもそも客先にはSESエンジニアに対して労務管理の法的責任はありません。
よってSESエンジニアに対して長時間労働の問題意識がどうしても希薄になってしまうのです。

もう1つの要因はSES契約そのものにあります。
よくあるパターンとして月 下限140時間~上限180時間で単価80万円というように月の労働時間の幅が決められており、下限上限ををはみ出した場合は時給換算で清算が入ります(下限割はマイナス清算、上限越えはプラス清算)。
上記の月 下限140時間~上限180時間というのは1日の定時が8時間勤務の会社なら非常に良心的な幅で、客先によってはもっと酷い内容もあります。
筆者が経験した中では7.5時間定時であるにも関わらず下限160時間~上限200時間というふざけた内容もありました。
つまり表向きは7.5時間定時で帰っていいよと言われても、契約では下限時間が160Hになっているので、本当に定時で帰ったら下限を割ってしまう月が多発し、毎月マイナス清算をすることになってしまうのです。
自社としてはマイナス清算だけはなるべくなら避けたいので、SESに出る従業員になるべく下限割はしないように稼働調整するよう指示がでます。
そうなると、本来必要のない残業を強いられることなるわけです。
また客先にとっても上限の時間までは追加料金(残業手当)が発生しないため、上限時間ギリギリまでこき使おうという流れになってしまうことも少なくありません。

筆者が体験した面白い(というと若干語弊がありますが…)体験だと、業務効率化しすぎてしまい下限時間をかなりしまわってしまったことがありました。
勤務時間が少なくなりすぎると、自社の営業や上司が良い顔をしないのはもちろんのこと、同じSESで来ている他社の社員やプロパー(客先の正社員)のヒンシュクを買って、逆に怒られてしまうケースもあるのです。
やるべきことをやって生産性を上げているのに怒られるなんて理不尽この上ないですが、現実としてそういうことがあるのですよ。

エンジニアが育たない

SESで求められる人材は、ズバリ即戦力です。
特に近年では高齢化が著しく、少し前なら敬遠されていた50代のエンジニアもSESに出ることさえあります。
これはITエンジニアの人手不足に起因するのですが、そもそもSESでは若いエンジニアは育ちません。
SESは即戦力となるエンジニアを募集しているのであり、経験の浅い若いエンジニアが修行する場ではないからです。
そもそも、社員教育というのは所属会社が責任をもって行い、自社内の案件で経験を積ませるのが常です。

SES事業を中心に据えるIT企業に新卒採用が絶望的である理由の1つばズバリこれなのです。
自社内に新人を育成する土壌がなく、必然的に中途採用の、それもある程度(少なくとも数年以上)のキャリアを積んだエンジニアしか採用できませんから、社員の平均年齢も高くなりがちです。
ですが、若い社員が入社して新しい血を入れなければ会社として大きく発展することは難しいでしょう。
SESは短期的に見ればローリスクで安定的な事業ですので経営者も手を出しやすいのですが、中長期的に見れば世代交代できる若い社員が入ってきませんし、入ってきても育てる土壌がありませんので結局そういう会社には未来はないのです。

自ら好んでSESに出るエンジニアや、好んでいなくてもSESに出ることにあまり抵抗を示さないエンジニアは、既に育成の必要がない、もっと言えばフリーランスでも十分にやっていけるレベルの熟練者だけなのです。

また、SESはやり方を誤るとエンジニアをダメにします。
ダメにするというのがやや抽象的な言葉であるなら、エンジニアを潰しかねないと表現してもいいでしょう。

SESの本質は前述のようにピンハネです。
SES企業がピンハネするにはエンジニアをどこかのプロジェクトに放り込む必要があります。
真っ黒な企業だとエンジニアの希望にそぐわないばかりか、スキルにも見合わないプロジェクトに強引に放り込まれることすらあります。
そのためにこれもまた違法となる経歴詐称までさせる企業さえあるのです。

そうやって放り込まれたエンジニアは、自分の希望していない仕事をやらされてモチベーションは大きく落ちます。
さらに自分の身の丈に合わない仕事をすることになれば、精神的に病んでいくのは必然なことでしょう。
筆者もそうでしたが、ITエンジニアに精神疾患を発症する人が多いのも、こうしたことが背景としてあるのです。

近年ではエンジニアの高齢化が進んでいると書きましたが、高齢のエンジニアが歓迎されるわけではありません。
受け入れ側も出来ることなら若くて経験値の高いエンジニアが欲しいに決まっています。
ですが、現状そうしたエンジニアは取り合いになっており、中々希望通りの人材は揃いません。
それでやむなく適齢年齢の上限を上げているわけですが、悪質なケースでは未経験のエンジニア志望者を囲い込み、自社で簡単にイロハを教育し、前述の経歴詐称をしつつSESとして放り込むなんてことも現実としてあります。
客先としても体力的に限界の近い高齢エンジニアよりも、多少経験が浅くても若くて生きの良い人材のほうが好ましいのです。
ですが、このようにエンジニアに仕立て上げられた人たちは理想と現実の乖離に思い悩み、結局潰れていきます。
筆者も、そうしたエンジニア志望の若者を多く見てきました。

ひいては日本のIT業界をダメにする

IT業界は本来であれば、あらゆる面で最先端を行く業界でなければいけません。
最新のテクノロジを駆使し、様々な業種、業界の業務効率化を提供する。
それがIT業界に身を置くものとしての使命であると筆者は考えています。
ですが、IT業界それ自体がSESという業態を許容してしまっているために、自らの業務効率化が阻害されているという、非常に皮肉的な状況に陥っています。
SESを良しとしない普通のIT企業の全てで、業務効率化が図られているかと言えば、決してそんなことはないでしょう。
受託請負は非常にリスキーなので、きちんとしたノウハウがないとそう簡単に手出しができるものではないからです。
ちょっとマネジメントを誤っただけで数千万円単位の赤字を出すことも珍しいことではありません。
そうした中にあってもノウハウを蓄積し、業務効率化を推進することが構造的には可能です。

ですがSES事業を中心に据えているIT企業は構造的に無理なのです。
業務が客先(派遣先)に依存してしまう以上、どこをどうやっても自社の作業効率化にはつながりませんし、下手をすれば前途有望な若者の芽を摘んでしまいかねないのがSESなのです。

SESの意義を見直してみる

ある識者やIT企業経営者の中にはSES絶対悪と断じ、根絶すべきと論ずる人も少なからずいます。
筆者も概ねその意見に賛成なのですが、SESを根絶することは恐らく不可能でしょう。
これは業界の構造的問題であり、SESを根絶することは、すなわちIT業界の破綻を意味するからです。
日本の町工場が日本の工業製品を支えているのと同様、ITのシステム開発も中小零細企業に所属する優秀な技術者が支えているからです。

SESを完全悪と決めつけるのはたやすいことです。
しかし現実問題として根絶が難しい以上、どうにかSESに意義を見出し、活用する方法を考えなくてはなりません。

SESや派遣は他社のノウハウや社風を吸収できる場でもあります。
ただ技術者を送り込み、ピンハネに徹するだけでは繰り返し各通り未来はまったくありません。
それをどうやって自社に持ち帰って還元するか。
客先に送り込んだ後の一歩先を考える必要があるのではないでしょうか。

SESでは人は育たないと書きましたが、それは若い未熟なエンジニアの話であって、即戦力級のエンジニアならばノウハウや社風を吸収することはそう難しいことではありません。
会社を経営していくにあたってSESが避けられないのだとしても、SESの意義を再考し、SESだけで終わらないビジョンのある企業ならば、まだ未来はありかもしれません。

SESに出されている人の自衛策

殆どの中小零細なIT企業はSES事業を中心に据えなければ立ち行かないという現実があります。
ある程度の規模を持った中堅クラスのベンダーでさえも、安定した売上や利益を期待できるSES事業部を持ち、リスクの高い受託開発事業の穴埋めをするケースもあります。

何度も書きますがSESではまともな労務管理は期待できません。
前述の通り長時間労働に陥りやすく、自社の営業や上司にアラートを発しても、その対応はどうやっても後手に回ります。
そうこうしている内に潰されてしまうなんてことも実際に多く見てきました。

ですので、SESに出されている人は自分の身は自分で守る必要があります。
所属会社や客先を信用するなと言っているわけではありません。
ただ盲目的に会社が守ってくれると思い込むのは危険だと言っているのです。
もちろん所属会社には従業員を守る義務がありますが、SESではそれが構造的に迅速に行えないのです。
だからこそ自衛策がどうしても必要になります。

最後に、筆者の経験則に基づくSESでの自衛策を披露して終わりたいと思います(参考になるかは保証できかねますし、当たり前のことなのですが)。

  • 面接時点でできることできないことをはっきりさせておく
    ※何らかの疾病を抱えているなら包み隠さず話すこと
  • 結果を残すこと

SESに出される前に客先との面談が1回以上必ずあります。
その際に、特にできないことについては包み隠さず確実に宣言すべきです。
ここを曖昧にしたり、見栄を張ったりすると必ず痛い目を見ます。
疾病を抱えているならそれも隠すべきではありません。
相手もよほど真っ黒な人間でなければ考慮してくれるはずです。
筆者の場合、原則残業はしない(できない)ことと、精神疾患を抱えていて、月1回通院していることは必ず宣言します。
これを契約前に宣言することで、最終的に成約に至らないこともありますが、成約できれば相手はその宣言を呑んだうえで契約したことになりますので、最悪のケースは回避可能です。

またSES契約は成果物などの納品義務や作業完遂義務がないことは前述した通りですが、だからと言って手を抜いた仕事をしていいという意味ではありません。
委任・準委任契約では善意を持って、最善を尽くす努力をするという義務は負うので、その範囲で努力してお客の望む結果をきちんと出す必要はあります。
極論を言えば、勤怠が良好で結果をきちんと出していれば文句はないはずなので、こちらが優位に立つためにもやるべきことはきちんとやっておくことは重要です。
もっと言えばもうやること(仕事)がないんですけど?どうしましょう?くらいの余裕を見せると、相手も遊ばせておくわけにはいかないので何らかのタスクを振ってくれますし、いざというときに我を通しやすくなります。
それでもなお、相手が真っ黒なことを要求する様なら自社、客先両方に宣言して、ケツまくって逃げればよろしいかと(笑)。