第六話:暗殺者は変装する
いよいよ、明後日7/1(月)に暗殺貴族二巻が角川スニーカー文庫から発売!
大幅な加筆修正と、マーハとエポナがもっと好きになれる、すごく力作の書き下ろしが読めるので書籍化版も是非!
ハンググライダーで飛行する。
やはり、これを作って良かった。
陸路とは違い最短距離をいける上に、移動速度も早い。
王都に馬車で行こうと思ったら数日かかる。
順調に飛行していると少々いたずらごころがわいてきた。
「ディアが作ってくれた魔法を俺も使ってみるか」
炎で熱した高圧ガスの噴射による超加速。
あれは俺の世界ではアフターバーナーと呼ばれるもの。
前知識なしにあれを生み出したディアのセンスは凄まじい。
そして、俺ならあの魔法をよりうまく使える。
「気をつけてよ。私の魔法でもけっこう機体から嫌な音鳴ってたし、風魔法が使えるルーグが本気でやったら機体が耐えられないかも」
「その変は計算してやるさ」
ハンググライダーの設計はもともと風での加速に耐えられる範囲で、限界まで軽量化してある。
ある程度のバッファはあるとはいえ、想定している速度を超えれば故障のリスクがつきまとうのだ。
「魔法はもうできてるの?」
「ああ、出発前にね」
何かと便利そうだったので、ディアの式を改変したものは作ってある。
改良点は二つ、一つ目は風の魔法を使うことでより効率的に周囲の大気を集めることに成功したこと。
二つ目は、無属性魔法を組み込み膜のようなものを生み出し、アフターバーナーの推進力による負荷を機体全体で受けるようにしたこと。
この改変した魔法を俺は【アフターバーナー】と名付けた。
これは移動だけじゃなく、戦闘にも使える。高圧ガスの噴射は究めて殺傷力が高く、実戦では移動しつつ高火力の攻撃を放つ使い勝手のいい魔法になるだろう。
その【アフターバーナー】を早速使う。
【多重詠唱】の力で火と風の魔力を同時に練り上げていき、【アフターバーナー】を詠唱を終わらせ、魔法が発動。
凄まじい速度で加速し、風圧で顔が引きつる。とんでもないスピード。
気持ちよすぎて、くせになってしまいそうだ。
わずか数秒で、【アフターバーナー】を終了した。これ以上やれば機体がばらばらになっていただろう。
「こいつはすごいな」
「あはは、最高だった。風の魔法を使えて、ルーグのばか魔力があったら、こんなふうになるんだね」
「そのようだ……こいつをうまく運用できるようにハンググライダーの設計を見直すか」
この推進力があるなら、多少重量が増えるとしても剛性をあげるべきだろう。
「それはいいけど、結局ルーグしか使えないんじゃ意味がないと思うよ。ほら、タルトが見えなくなったし」
「それもそうだな」
タルトが追いつけるように、風魔法もオフにして滑空する。
しばらくすると無線からタルトの声が届いた。
『そのぶわーってするやつ、速すぎて、追いつけないですぅ』
無線から聞こえるタルトの声は涙まじりだった。
たしかにディアの言う通りで【アフターバーナー】に対応できるハンググライダーが一つじゃ無意味か。
いや、待て、前提を変えよう。
「よし、決めた。【アフターバーナー】使用を前提とした四人乗りのものを作ろう」
飛行機ではなく、ハンググライダーを作っていたのは推力不足で軽さを優先したほうが速度がでるから。
しかし、脳内で計算したところ【アフターバーナー】があるなら、四人乗り+剛性確保のために重量を増しても、そちらのほうが速い。
「……どんな化物ができちゃうんだろうね。ちょっと怖いよ」
「まあ、期待しておいてくれ」
出来上がるそれは、もはやハンググライダーではなく、自家用ジェットだとか、そういう代物になるだろう。
完成が楽しみだ。
◇
王都郊外に着陸し、全員変装をする。
そのためのメイク、着付けは俺が行った。
そして、偽の身分証を用意してある。
今回の目的は、俺を罠に嵌めようとした連中が用意した証人たちの説得。
万が一にも、俺たちが王都に来たことを悟られてはならない。
「髪を染めるのはやだなぁ。髪が傷まないか心配だよ」
「そこは心配しなくていい。ちゃんと考慮してある」
ディアの輝く銀髪を気に入っている。それを損なうような真似はしない。
この染料は元々、オルナで売り出すために開発していたもの。
髪染めの染料は貴族や金持ちに需要がある。
需要と言っても、変装やお洒落のためではない。年配の方が白髪を隠したり、髪の艶を補ったりしたいというものだ。
オルナの化粧品はすべて、着飾るだけじゃなく、使用し続けることで健康になることを売りにしており、だからこそトッププランドとして君臨できている。
この染料も、髪が痛むどころかケアになる優れものだ。
「変装ってすごいです。ディア様の印象がすっごく変わりました」
そういうタルトも赤毛になり、髪型あストレートのロング。さらしを巻いて胸を潰し、しかもお嬢様メイクをしていることもあって、いつもと全く印象が違う。
タルトのどこか、親しみやすい雰囲気が消えて、まるで貴族の令嬢のようだ。
そんなタルトを見て、ディアが自分はどうなっているのかと鏡で見る。
「……ねえ、首から上はともかく、そこからの下の変装、毎日しちゃだめかな?」
「駄目だ。虚しくなるだけだぞ」
ディアの演奏は髪を黒くして結い上げ、メイクはあえて綺麗な肌を汚く見せ、そばかすが浮かんでいるように見せかける田舎娘風。そのくせ衣装は高価でごてごてしたものを選んだ。
どこからどうみても、王都に来て舞い上がっている成金の田舎娘。
普段の高貴で、人形のような美しさは見る影もない。
ぶっちゃけ、ディアの美貌を台無しにする変装。
だけど、ディアはそこはまったく気にせず、首から下、主に胸に注目していた。
パッドを詰めて胸を大きくしてあるのだ。
「これ、偽物なんだよね。どこからどうみても本物だよ。すごい、これ絶対売れるよ! 私、これが売ってたら絶対買うもん!」
「……かもしれないな」
胸に詰め物をすること自体は上流階級でもやっている者はいるが、わりと雑な作りで、ぶっちゃけ簡単にバレる。
固い布を使ったドレスなどを着込めば多少はごまかせるとはいえ、本物とは質感が違いすぎ、不自然さがでる。
その点、俺が作ったパッドと専用のブラを組み合わせると、どこからどうみても本物にしか見えない。形状も質感も完璧だからだ。触られてもばれない自信がある。
「すごいよ。柔らかくて、揺れて、うわぁ、いいな。あとね、言ってみたかったセリフがあるんだよ、今なら言えるね! 『胸が大きいと肩が凝って大変です』『走る時、バランスが崩れそうになるし、揺れて痛いです』『こんなの邪魔なだけですよ』」
ディアが満足気に、胸について不満を言い続ける。
言葉とは裏腹に、ひどくご満悦だ。
なぜか、タルトの顔がどんどん赤くなる。
そう言えば、この口調と声音、どことなくタルトに似ているような気がする。
「ディア様、ひどいです! それ、全部私が言ったことじゃないですか! しかも、私のモノマネしてますよね!」
「ふふふっ、仕返しだよ。持たざるものが、どんな思いでこの言葉を聞いていたか、私の怒りを思い知るといいよ!」
大凡、完璧な人間であるディアの唯一のコンプレックスだから、しばらく好きにさせよう。
二人のじゃれ合いを見ながら、俺は俺で変装をする。
「さて、行こうか。偽の身分証はなくさないように気をつけてくれ、それがないと王都に入れない」
「……あの、本当にルーグ様ですか。どこからどうみても可愛い女の子にしか見えないです。私より美人で、ちょっとショック」
「そうだよね。こんな綺麗な人、王都のパーティにもいなかったよ」
俺は女装していた。
これからのプランに置いて女のほうが都合がいいからだ。
俺の容姿は中性的なこともあり、ある程度の変装技術があれば、完璧に女性の姿になれるし、演技にも自信がある。
前世でも少年時代には女装して色仕掛けを利用し、ターゲットを仕留めたことがある。
「もしかしてさ、この胸を大きくする奴って、女装するために作ったの?」
「その通りだ。いつか使う機会があると思ってね。もっとも元の印象と離れる変装は、性別を変えることだからな」
タルトやディアを男装させることも考えたが、見た目が取り繕えても二人に男性の振る舞いは不可能であり、不審に思われる可能性が高いので選ばなかった。
「……ここまでするって、元からそんな趣味があったんじゃ」
「そういえば、昔からルーグ様はよく女性服を着てました!」
「あっ、初めて会ったときも、女性服を着ていたよ!」
二人が凄まじい疑念の目を向けてくる。
「勘弁してくれ、あれは母さんに無理やり着せられていただけだ……そんな趣味はない」
「うん、わかってるよ。ちゃんと私はわかっているから安心して」
「私はルーグ様がどんな趣味でもちゃんと受け入れますから!」
頭が痛くなってきた。
しょうがない、ひと仕事終えたら、いかに俺が男らしいか二人に教えてやろう。
俺の名誉を取り戻すために。
俺の男らしさを理解させるために、女の姿のままやってみるのもいいかもしれない。
そうするためにも、まずは降り掛かった火の粉を払うとしよう。
そのためのプランはすでに出来ている。
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また7/1に角川スニーカー文庫様から二巻が発売! ↓に表紙があります。書き下ろしや加筆修正をすごく頑張っているので是非読んでください
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