安倍晋三首相は二十七日、大阪市で中国の習近平国家主席と会談した。「永遠の隣国」として協力する考えで一致したというが、大切なのは外交成果の演出でなく、隣国としての真の信頼構築だ。
首脳会談で、安倍首相は「日中関係は完全に正常な軌道に戻った」と述べ、習氏が来春にも国賓として訪日することで合意した。
確かに、二〇一二年の日本政府による尖閣国有化によって長く凍(い)てついた日中関係は、昨年の李克強首相の訪日や安倍首相の七年ぶりの公式訪中で首脳往来が実現するまでに雰囲気が回復した。
だが、首脳間の真の信頼関係醸成が、両国関係を前向きに動かす力になったとは言い難い。
中国は一七年、習氏が進める「一帯一路」構想に日本が協力を示したことで歩み寄り姿勢に転じた。訪日した習氏には、米中貿易摩擦の悪影響を抑えるため日本の協力を得たいとの思惑が強い。
日本の対中接近には、北朝鮮による日本人拉致問題で中国の協力が不可欠との事情も横たわる。
今回の首脳会談では「永遠の隣国」を将来の日中関係のキーワードとし、ハイレベルの相互往来を強化する考えが示された。
そもそも地政学的に隣国の日中間で、あえて「永遠の隣国」を唱えるならば、粘り強く緊密な意思疎通を図り、真の信頼構築へとつなげるものでなければならない。
歴史を振り返れば、一九七二年の北京での国交正常化交渉で、田中角栄首相と周恩来首相は戦後処理の問題などで激しく応酬。その後、田中首相一行と面会した毛沢東主席は「ケンカはすみましたか。互いに言うべきことを主張しケンカしてこそ仲良くなれるものです」と言ったという。
半世紀近く前の毛氏の発言は、今の日中関係で欠けている点をついているとも言えそうだ。
外交的な蜜月ぶりを演出するよりも、両国首脳にとって耳が痛くとも、日中間の懸案解決や国際正義を守るため、率直に意見交換することが重要だ。
その意味で、安倍首相が習氏との会談で、香港での「逃亡犯条例」反対デモについて、「一国二制度」を守り、人権や法の支配を保障すべきだと指摘したのは評価できる。
尖閣周辺での中国公船の日本領海侵入はやまず、歴史認識も常にトゲとなる。難問解決はこれからが正念場。建設的な意見の応酬という「ケンカ」を通じ、「永遠の隣国」をめざしてほしい。
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