グラベルロードが世界的なトレンドとなっていますが、皆さんは本場アメリカでのグラベルレースをご存知でしょうか?
今回は、アメリカで活躍しているパナレーサーがサポートするグラベルレースチーム「Panaracer/Stan's NoTubes p/b Bicycle X-Change」のメンバーである竹下佳映(たけした かえ)選手に、この世界にのめり込んだキッカケからレースの現状まで気になっていたことをあれこれインタビュー!
現地発信だからこその情報を是非ご覧下さい。
Q(パナレーサー):
そもそもアメリカにはなぜ行かれたのですか?
A(竹下佳映選手):
17歳の時に飛行機パイロットになりたい! と思い立ち、家族の了解とサポートを得て19歳の時に一人米国へ。
海外は初めて、英語もままならない、頼る知人もいない状態でしたが、やる気と努力には自信あります。FAA(アメリカ連邦航空局)プライベート・事業用飛行士免許及び計器飛行証明を取得し、奨学金を貰いながら航空マネージメント学科・理学士号取得し、大学を卒業しました。
Q:
その頃、グラベルレースに出ている自分が想像できましたか?
A:
想像も何も、自転車がスポーツだとも思っていませんでした。
米国での大学生活当初、車免許が無かったので、移動用に自転車を購入すべく近所のバイクショップへ。そこで初めて、ママチャリ以外の自転車を競輪選手以外の一般人が買えるという事実を知りビックリ。エントリーレベルのロードバイクを購入しました。元々アクティブではあったものの、日本に居た時は自転車通学する以外は、特にスポーツに打ち込んでいたこともなかったです。余談ですが、飛行機免許を車免許より先に取得しました(笑)
大学卒業後、シカゴ郊外に引っ越し就職。新天地で友人も少なく、時間があると近所の森林公園で自転車に乗っていました。カラフルなスパンデックスを着て自転車乗っている人達をよく見るようになり、どうやら自転車はスポーツらしいということをやっと発見。その頃、飛行機はレンタルし頻繁に操縦していて、単純に飛び回るだけではなく、エアロバティック飛行を学ぼうかと思っていたんです。その矢先、知り合いになったライダーにトレーニングライドに誘われ、そこから数年を経てサイクリングが生活の一部となった今に至ります。
Q:
本格的にレース参戦し始めたのはチームに入ってからだと思うのですが、このチームに入ることになったきっかけは?
A:
2017年頭に、何年も放置状態だったSNSにたまたまログインしたら、PanaracerチームキャプテンのMr. Bob Cummingsからメッセージが入っていたのに気付きました…、それも何か月も前のが。直ちに彼に返信し、その日の夜には電話で数時間トーク。レースとグラベルへとても強いパッションを持ち、自分のチームを作り上げたMr. Bob Cummingsと話をする機会を持てたことにまず感動しました。彼とは直接の面識が無かったのですが、同じエネルギーを感じ、数時間話し込みました。これがパナレーサーとの第一歩。
パナレーサーと出会う数年前、カジュアルライドとセンチュリーライドから始まり、ローカルのクリテリウム、ロードレース、長距離レース、シクロクロスに挑戦しました。グラベルとの出会いは、2014年春の旅先で出会ったサイクリストに教えて貰ったのがきっかけです。「グラベル?何それ?でも面白そう」というのが第一印象。シカゴに戻り、グラベルイベントを探し、実際にやってみたら完全に嵌りましたね。最近は増えてきましたが、当時私の住むエリアではグラベル認知がまだまだで(そもそもグラベルロードが少ない)、2015・2016年に州外のかなり離れた場所まで個人遠征し、様々な地域のグラベルレースに参戦。どのレースもいい経験でした。
Q:
日本では「グラベルレース」そのものがまだ普及していないのですが、グラベルレースの面白さや楽しさを教えてください。
A:
グラベルイベント・レースは、ローディー、クロッサー、マウンテンバイカー、プロからカジュアルライダー、老若男女、自転車やタイヤの選択も問わずに、誰もが参加出来て同じコースを楽しめるのが、他のジャンルとは全く違う良いところだと思います。レース距離は100㌔以下から300㌔以上まで様々で、レース中の勝負はもちろんシリアスになりますが、単に楽しみたい・挑戦したい、というライダーも沢山いますし、全体的リラックスした雰囲気なのも良いですね。
公道から離れ(携帯電波の届く域からも離れたりします)、交通量の殆どない田舎の未舗装路を走りますから、長閑な農地や放牧地等の自然に溢れた景観を楽しめます。たまに草をかき分けて進んだり、線路超えたり(日本の綺麗な線路で無く、石ころでボコボコ)、途中小川が流れててシューズを水浸しにしながら渡ったり、道のない野原を走ったり、海岸の砂浜を他のライダーに衝突されないように走ったり、アドベンチャー満載。特にハードなコースの場合、完走した時の達成感は溢れるほどです!!!
Q:
凄いですね! ならばレースにトラブルはつきものだと思うのですが、印象に残っている出来事はありますか?
A:
農道を走ることが結構ありますが、農家の放し飼いの犬が追ってくる時がたまにあります。フレンドリーな犬もいますが、視界の端で捉えたのが牙剥いて噛み付く準備万端な犬だったら、競う相手がいなくても本気スプリント!
放牧されている牛十数頭が、のんびり草食べてるのではなく、結構な速さで走っているのを見た時も驚きました。コース沿いに横を走っているだけならまだしも、目の前でいきなり横切られたり道を塞がれたりすると、如何すればいいのか分からなくて困ります(苦笑)。間近で見ると本当に大きいですよ。
また、湖の向こうはカナダ、というエリアで260㌔レース最中、人っ気皆無の森林の獣道を駆け抜け、視界がぱっと開けたと思ったら、先に待っていたのは、なんとヘラジカの雄の成獣! とんでもない大きさでした。突進する可能性ありと聞いていましたが、そうなったら非常事態! 直ちに自転車から降り近くの大木の裏に隠れ、いなくなるまで避難待機となります。
さらに、酷い泥でレース中にリアディレーラーが壊れてしまったことがあります。そんなこともあるかと事前に勉強しておいたので、必要な道具はレース中に持っていて壊れた部品を自分で外しチェーン調整し、シングルスピードバイクに変えました。グラベルレースはサポートがつかないものが多いので、何かあったら自己責任で対処しないといけません。ライダー同士で助け合ったりするのも、基本的に「セルフ・サポート」がモットーなグラベルならではです。
まだPanaracerグラベルキングと出会ってない頃、非常に切れ味の良いゴロゴロ石の道で立て続けにパンクし、チューブレス仕様で始めたものの、330㌔レース完走までにチューブ6回交換したこともありました。今はそのエリアもグラベルキングSKでガンガン走っています。
Q:
MTB同様、コースや天候によって路面状況も変わりますので、使用するタイヤやサイズも状況に応じて変えられるのでしょうか?
A:
地域のグラベルタイプ、前日・当日の天気で、タイヤ選択は変わります。グラベルと一言で言っても、砂、砂利、小石、大きい石、岩、粘土状の泥から、小川、川、沼、雪、氷、ハードパック、農道、ファイヤーロード、獣道、シングルトラック、ダブルトラック、古くて窪みばかりの状態の悪い舗装路等、なんでもあります。岩ばかりのATVトレイルを走ったこともあります。
また、短い同じコースを何周もするのではなく、A地点からB地点まで、大きなループを描いてスタート地点に戻ってくる長距離が大半なので、一つのレースで何種類ものグラベルを走ることもあり、レース全体を考えてタイヤを選んでいます。
Q:
「グラベルキング」「グラベルキングSK」のお気に入りポイントを教えてください。
A:
グラベルキングはとにかく軽くてロードタイヤと変わりないパフォーマンスです。舗装が多いコースには最適。ロードでトレーニングする時に使ったりもします。ロードタイヤのライダーと一緒に走っても遅れは取りませんよ。
グラベルキングSKは、どんな場所でも頼りにできます。頑丈な作りだけど、重さや抵抗を感じないですし、酷く荒い場所でも自信を持って飛ばせます。こんなところ自転車が走るべき場所じゃないでしょう、と昔思っていたところだって問題なし!
Q:
驚きが連続する本場ならではのお話ありがとうございました。では最後に、日本でグラベルライドを楽しんでいる皆さんへメッセージをお願いします。
A:
日本は綺麗な道が多いので、なかなかグラベルイベントそのものが身近にないかもしれませんが、舗装されていない道を見かけたら、グラベルキング・グラベルキングSKで走ってみてください。その先にはアドベンチャーが待っていますし、新しいお気に入りのライドが見つかると思います。ロードライドより水分・カロリー消費激しいですから、十分に携帯して補給を忘れずに。
中西部を始めとして米国ではグラベルの人気上昇は凄いです。もし此方に自転車持ってグラベル乗りに来る機会がありましたら、レースイベントでお会いしましょう!
竹下佳映 (たけした かえ)
「Panaracer/Stan's NoTubes p/b Bicycle X-Change」グラベルレースチーム 所属
≪プロフィール≫
北海道札幌市出身、夏は猛暑、冬は極寒の米国シカゴ郊外に在住中。フルタイム課長勤務で仕事びっちりの合間にトレーニングとレースを捻じ込んでいます。同じくサイクリストの旦那とはトレーニングライドで出会い、日々様々な面でサポートを貰っています。
チームの一員として、7州から集まるチームメンバーのBob Cummings, Mat Stephens, Rob Bell, Michael Sencenbaugh, Mike Marchand, Karen Pritchardと楽しく激しく乗り回しています。 今、この瞬間が最高‼
≪主な戦績≫
2016年
・ヒリービリー・ルーベ 女子オープン4位
・ダーティ・カンザ 女子オープン9位
・グラベル・ワールド 女子オープン1位
2017年
・グラベル・ワールド 女子オープン2位
・ザ・エピック 女子オープン1位
・ミシガン・グラベルレースシリーズ 女子総合2位
・ベリー・ルーベ 女子オープン3位
2018年
・ベリー・ルーベ 女子オープン3位
・テキサス・チェインリング・マサカー 女子オープン1位
・オールドマン・ウィンター 女子オープン3位
・ランドラン・ワンハンドレッド 女子オープン2位
・グラベル・ナショナル 女子オープン1位