東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

スペースジェット 問われる「国産」の意義

 国産初の小型ジェット旅客機を開発している三菱グループが、主要な生産拠点を北米に移転する検討を始めた。日本国内での量産を期待してきた中部地区の航空機産業に、暗雲が垂れ込めてきた。

 三菱航空機(愛知県豊山町)は六月、二〇〇八年から「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の名称で開発してきた旅客機を「SJ(スペースジェット)」に改称した。設計変更などで計五回も初納入を延期し、ここ三年は新規受注がなかったMRJ。「三菱」を外して空間的な広さを強調した新名称には、負のイメージを取り除きたい、との思いがある。

 同社は、来年半ばの初納入を「必達目標」として事業戦略の転換を加速している。特に取引先企業が注目するのが、親会社の三菱重工業による、カナダの航空機メーカー、ボンバルディアの小型機部門の買収だ。三菱側が、北米にあるボンバルディアの生産拠点を活用するのも選択肢の一つ。SJの主力となる七十席級の小型機は北米が主な売り込み先で、需要があるところで生産するのが効率的なもの作りの鉄則だからだ。

 三菱航空機の水谷久和社長は、海外生産について「市場をにらんで必要性が出てくれば検討する」と語る。それが現実になれば、名古屋周辺での機体量産を待ち望み、先行投資を続けてきた地元取引先企業にとっては死活問題だ。

 名古屋で日本海軍の主力戦闘機「零戦」が生産されていた経緯などから、中部には航空機部品メーカーが集積する。一七年の愛知、岐阜、三重、石川、富山の五県の航空機関連の生産額は、米ボーイング向けなど約七千九百億円で、全国の約54%を占める。愛知、岐阜、三重、静岡、長野の五県は航空宇宙産業の「クラスター形成特区」に指定され、関連企業は税制などの支援を受けてきた。初の「日の丸ジェット」を支える態勢を整えるための施策だ。

 さらに航空産業は、中部の屋台骨である自動車に続く「次世代産業」としても期待されてきた。小型機で部品数が約百万点とされる航空機が量産されると、多くの雇用が生まれる。それだけに、国外に主舞台が移る構想に対し、関係者は神経をとがらせるのだ。

 三菱グループの取引先企業は中堅・中小企業が多く「海外拠点を持つことに消極的」(取引先首脳)なのが実態だ。機体を北米で組み立て、部品の大半を海外メーカーから調達するようになれば「国産」の意義が問われかねない。

 

この記事を印刷する

AdChoices
ADVERTISING

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】