第十二話:おっさんは打ち上げをする
称号とドロップアイテムを回収したので地上に向かって歩き始める。
「いつもの帰還用の渦がやたらと眩しく見えるな」
何気なく使っているそれが、長い極限生活を送っていたせいで尊いものに見えてしまう。
何十年も冒険者を続けていた俺ですら、【三竜の祭壇】には参った。
二度と来たくないと心底思っているぐらいに。
「珍しい。ユーヤがミスしてる」
「そうだね、あのユーヤ兄さんが素で宝箱取り忘れるなんて」
「……素で忘れていたな」
ボス撃破後には毎回ある、特殊なテーブルの宝箱。
それすら忘れていた。
今日は肉と酒で騒いだらしっかりと眠ろう。柔らかいベッドで泥のように。
「じゃあ、最後のお仕事。【解錠】はルーナにお任せ」
「何がでるかな、何がでるかな」
「きゅいきゅ、きゅいきゅい、きゅいきゅ、きゅいきゅい♪」
お子様二人組とエルリクがはしゃぎにはしゃいでいる。
さすがだ、おっさんよりよっぽど元気らしい。
ちらちら俺の顔を見て笑うティルが憎たらしい。
「俺も疲れてど忘れしたが、おまえらもいつものダンスを忘れてないか?」
強敵を倒したり、いいアイテムを手に入れたとき、お子様二人組は謎ダンスを行う。
それが今回はなかったのだ。
今までで一番辛い戦いだったと言うのに。
「忘れてた!」
「疲れすぎて、それどころじゃなかったんだよ!」
大慌ての二人を見て笑う。
なんとかこれで面目が保たれた。
そんな中でもしっかりとルーナは【解錠】を終わらせる。
「んっ、開いた!」
宝箱が開かれた。
何が出るのか楽しみなのは俺も一緒。
なにせ、ここの宝箱は最上級テーブル。他の宝箱と違い、最低でも何かしらの上位魔道具が出るのは確定している。
超特大の【収納袋】あたりがでると嬉しいんだが……。
「これっ、なに?」
ルーナが首を傾げている。
それは懐中時計のような大きさで、時計の代わりに液晶画面が用意されている。
「いいな、自動地図だ」
「それなに?」
「名前の通り、歩いていると自動的にダンジョンの地図が描かれる」
一部のダンジョンを除き、【再配置】の度に構成がリセットされるとはいえ、一度通った道をきっちり描いてくれるので迷いにくくになる。
それだけじゃなく、特殊なポイント。例えば採掘ができる場所だとか、罠が仕掛けられているところなどがそれを示す記号がつく。
ものによっては見落とすことがあるので、ありがたい。
「へえ、地図を書いてくれるのは助かるわね」
「それ以上に自分がどこにいるのかが表示されるのがいいんだ」
地図だけあっても、自分が地図のどこにいるのかを地形から読み取るのは意外と難しいのだ。
「これは売らないでとっておきましょう。生存率が上がります。……これで、今度こそダンジョンでやることは終わりですね。帰りましょう」
「んっ、でもちょっと待って」
「うん、あれをやらないとね」
お子様二人組が頷きあった。
そして始まるのは謎ダンス。
しかもいつもより長いスペシャル版。エルリクも協力していた。
これを見ると、探索が終わった実感がわいてくる。
それは俺だけでなく、セレネやフィルものようだ。
みんな微笑ましそうに二人+一匹のダンスを見ている。
ダンスが終わると二人に拍手をし、今度こそ俺たちは外に出た。
◇
外にでるなり、目を細める。
数日ぶりに浴びた本物の陽光。それがどうしようもなく心地よく感じる。
「街に近い位置に出口があって助かったわ」
「んっ、お外でお肉するなら早く帰りたい」
「まあ、その分、三竜の宝玉を回収して帰るのが面倒だがな。また、あそこまでいかなきゃならない」
「忘れてたよ! あれを捨てていくのはもったいないよ」
別の使い道があるわけじゃないが、宝石としての評価が高いうえ、美しく、記念になる。
「しっかり回収していくさ。明日にな」
どっちみち、【三竜の祭壇】付近に行く予定がある。
「それまでに盗まれてしまわないかしら?」
「大丈夫だ。あの場所を知っている奴自体がいないだろうし。それより、酒と肉だ」
「私も賛成です。早く行かないと席が埋まってしまいますよ」
「それはやだ!」
「急ごうよ、ユーヤ兄さん!」
お子様二人組が走り出したので俺たちも笑ってついていく。
◇
浮遊島で借りた宿の主に教えてもらった酒屋で食事を取る。
いい店を知りたければ宿の主か経験の長い受付嬢に聞くのが一番いい。
望み通りの店がそこにあった。
広々としたテラス席に俺たちは案内されている。
「おまちどう様、当店自慢のエールですよ」
運ばれてきたのはエールだが、他の店とは一風変わっていた。
金属製のグラス。
そして、このグラスには水滴が滴っていた。
無論、この店は洗ったばかりのものをそのまま出すようないい加減な店じゃない。
「それじゃ、【三竜の祭壇】突破を祝して、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
グラスをぶつけ合い、酒を流し込む。
「最高だな」
「ええ、とっても冷たいわ」
「エールだけじゃなくて、グラスまできんきんに冷やしてくれるのが嬉しいですね」
そう、水滴はグラスの温度が低いからだ。
この時代に冷蔵庫なんてものはないので、飲み物は常温で出てくるのが普通。
しかし、この店は元冒険者が主人で魔法を使って氷を生み出し、それを利用して冷やしてくれる。
エールは冷たいほうがうまく感じる。特にこんな暑い日には余計に。
「にがい」
「う~、なんかノリで飲んだけど、やっぱり
お子様二人組にはこの良さはわからないらしい。
苦味に隠れた甘さと喉越しこそがエールの良さだと言うのに。
「無理はしないでいい、お前たちはワインでもミードでも好きなものを頼め」
「んっ、そうする」
「えっと、メニュー、メニューっと、あっ、杏酒ってのがあるよ。甘くて美味しそう」
「ルーナもそれ頼む」
きっと、この二人ももう少し歳を重ねればエールの良さがわかるようになるかもしれない。
そうして、二人の追加注文がくるころ、それがやってきた。
「おっきいお肉!」
「うわぁ、いい匂いだね。それに肉汁が滴ってるよ」
「この店の名物料理らしいぞ」
それはでかかった。
皿にこれでもかと肉が盛られている。豚の肋骨周りの肉を骨ごとスパイスと調味料に漬け込んで焼き上げたスペアリブ。
手でもって、かぶりついて骨にくっついた肉をこそぎ落とす。
行儀は悪いが、骨周りの肉が一番うまい。
「うまいな」
口の中で肉汁が溢れる。
それに、何か特殊な調理法をしてあるのか、骨からの肉離れがとてもよく食べやすい上、肉が柔らかい。
名物料理になるのもわかる。
「ええ、とっても美味しいわ」
「肉って感じがしますね!」
こういう肉は久しぶりだ。荷物の重量を減らすために、あえて水分の少ない肉ばかりを選んだ。
携帯調理器セットで乾いた肉を水で戻せるため、そちらのほうが【収納袋】の容量が確保できたからだ。
「こいつをエールで流し込むと……ぷはー、たまらん」
「ユーヤ兄さん、おっさんくさいよ」
「おっさんくさいもなにも、おっさんだからな」
同様の理由で酒もほとんど持ち込めなかった。
飲水は携帯調理セットの水をそのまま飲んだり、嵩張らない茶葉を沸かしたりしていたのだ。
俺のような酒好きのおっさんにとって、ほぼ一週間酒が飲めないのは本当に辛かった。
太陽の下で、肉汁の滴る肉とエール。
最高に生きている感じがする。
「このお肉から紅茶の匂いがほのかにします。スパイスに隠れているのでわかりにくいですが」
「たしか、紅茶の成分に肉を柔らかくするものがあると聞いたことがあるな」
「だから、このスペアリブは紅茶で煮てから焼いているんですね。どうしてそんなことをしているのか不思議でしたが納得しました。この料理、本当に美味しいんで今度作ってみます」
言われるまでただ焼いているだけだと思ったが、さすがは料理のプロフェッショナル。
焼く前に煮ていることを見抜いた。
その調理法と紅茶の成分で肉を柔らかくすることが、この料理の秘密だったのだ。
「楽しみ! 普通の豚肉でこれだけ美味しいなら、いいお肉ならもっと美味しい」
「これを豚肉(上)あたりで作れば、想像しただけでヨダレが出るよ!」
お子様二人組は食べ物に関しては目ざとい。
さっそく飛びついてきた。
「ええ、そうしてみますね。……ここのお店、良い料理人がいるみたいなので、たくさん注文しましょう。スペアリブだけしか食べないのはもったいない。まだまだ盗めるものがありそうです」
フィルの眼が輝く。
料理人モードに入っている。彼女は料理でも勉強熱心だ。
だからこそ、色んな街をめぐりながら、どんどんレパートリーを増やしている。
「そういうことなら、一人前ずつ、片っ端から頼んでいくか」
「それいいわね。色んな料理を食べられるもの」
いつもは大皿で頼むが、今日は小皿で頼もう。
料理が届くのに時間がかかるが、それで今後の食卓が潤うなら、それに越したことはないのだ。
◇
三時間後には全員のお腹はぱんぱんになっていた。
……料理の平均レベルが高くついつい頼み過ぎた。
一人前をみんなで分けて食べるとはいえ、注文数が多くなれば量も増える。
「満足。もう入らない」
「げぷっ、苦しいけど幸せだよぅ」
「きゅいっ」
最後にはエルリクにも手伝ってもらう始末だ。
だけど、みんな幸せそうではある。
「本当に良いお店でした。さて、ユーヤ、そろそろ祝勝会は終わりにして、今後のことを聞かせてください」
「ああ、そうしようか。……次の目的地は決まっているんだ。ダンジョンでも言った通り、最強の装備を作るために材料を集める。ただな、全部の材料を取りに行くとなれば時間がいくらあっても足りない。だから、買えるものは買う」
「買えるものは買うと言っても、最高の装備に使うような素材が市場に出回るのかしら?」
セレネの言う通り、高位素材のほとんどは市場には出回らない。
しかし、何事にも例外はある。
「普通の場所にはないな。だからこそ、次の目的地はバルムンク。その街では、来週に世界最大のオークションが開催される!」
この世界でもっとも巨大な商業都市。
その商業都市で三ヶ月に一度開かれる超巨大オークションに参加する。
あそこなら金さえ積めば、通常では手に入らないレア物が手に入る。
ゲームのときはさんざん世話になった。
そして、買うだけじゃなく、出品者としても参加する予定だ。
あそこでは大散財と大儲けを同時にすることになるだろう。
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