千五百七十六年 一月中旬
予期せぬ来訪者があったものの、つつがなく年始の行事を終えた一月中旬。日ノ本を群雄割拠する国人達に激震が走った。
「皆も既にご承知のように石山本願寺にて謀反がありました。指導者であった
事件発生直後から本願寺の山門は閉ざされ、全ての門前に高札が掲げられた。
それには「救いを求めて集った
間者より第一報が
現場は混乱しており、本願寺内では火の手が上がったのか、煙が立ち上る場面すらあったという。
しかし、時間の経過と共に徐々に情報が集まり始め、昌幸の手によって集約・精査され裏が取れた情報が前述のものとなる。
軍議に居合わせた者すべてが唖然としてしまい、気が付けばしわぶき一つ聞こえない静寂が満ちていた。
頼廉と言えば本願寺勢の知恵袋であり、織田軍にとっては幾度となく煮え湯を呑まされた怨敵と言える。
頭数ばかりが多くて練度の低い本願寺勢力が、曲がりなりにも織田軍の精鋭と善戦を繰り広げられたのは、頼廉の存在によるところが大きい。
「今まで
「死亡説すら流れた頼廉ですゆえ、これを予想できたものは居りますまい」
「そもそも頼廉はどうやって兵を率いて本願寺へ入ったの?」
「前提条件として本願寺への主要な陸路及び海路は、佐久間様の手勢によって封鎖されております。頼廉は佐久間様の監視網にかかることなく本願寺へと入ったことになります」
「謀反が成功するほどの人数の兵が動いて見つからない筈がない……となれば封鎖される前に内側に入り込んでいたと考える方が自然か……」
「恐らくは難民に紛れ込んで内部に入り込み、機を見て一斉に蜂起したのではと推察します」
「本願寺への補給路は今や水路のみ、それも海側から遡上は佐久間様が封鎖済みとなれば、残るは闇夜に紛れて上流から川を下るしかない……そこに多くの兵を載せる余裕はないよね」
「侵入路が何処にあったにせよ、本願寺にて武装蜂起が起きた。これは事実にございます」
どれだけ実現性が低く見えても、不可能を排除して残ったものが真実に近い。
補給路の封鎖を担っていた佐久間が、信長から叱責されていない以上、信長自身も封鎖を潜り抜けて頼廉が本願寺に入ったとは考えていないのだろう。
更に言えば、静子が謀反の詳細について報告をした際も、信長は眉一つ動かすことなく淡々と聞き入っていた。
(まさか……今回の謀反、裏で絵を描いていたのは……)
折しも降雪が多くなる一月中旬である。雪深い日本海側の陸路は殆どが使い物にならず、残された街道は織田家の手の者が厳重に警備をしている状況だ。
本願寺で謀反が起こったと言う情報は、
「街道及び関所の人員を増員して。手が足りなければ、尾張の防衛に残してきた兵を動員しても構いません」
事件の黒幕を察した静子は、彼が望む結果を後押しすべく手を打った。即ち内部の情報を外部に漏らさぬよう封鎖するのと、外部からの干渉排除である。
「誰が裏で糸を引いているにせよ、今回の謀反は我々にとって利となる。この流れを良しとしない勢力に情報が漏れると困るから、本願寺の武装解除が済むまで厳戒態勢を敷きます」
「はっ!」
「関所では女子供の出入りを厳重に確認するように。情報を持ったまま他国に逃げられるわけにはいかないから。真田さんは、間者狩りを徹底してください。誰の手の者かを確認する必要もありません、発見次第始末するよう命じてください」
「ははっ」
この時代の情報は人によって運ばれる。つまり人の出入りを制限してしまえば、情報の移動を封じる事が出来る。しかし、人員の限界から全ての情報を完全に遮断することはできない。
通常人が通らないであろう山道などを、命懸けで駆け抜けられることまでは防げない。そこで静子はもう一計を案じることにした。
「更に情報の
「攪乱……ですか?」
「完全に情報を遮断してしまえば、そこに厳重に秘された何かがあると嗅ぎつけられる。それならばいっそ恣意的に情報を与えた人間を逃がせば、誤った情報を真実として喧伝してくれるでしょう? まあ荒唐無稽な話を吹き込んでも誰も信じないと思うから、真実を半分、共通の情報を3割、個別の嘘を2割混ぜて放ちます。真実と共通部分は全員が同じことを話すので、すぐに共有されるでしょう。最後の2割の嘘によって充分な精査が済むまで迂闊に動けなくなる
「なかなかにいやらしい手を使うな、静っちは」
口笛を吹いて茶化す慶次だが、静子の策が有効であることは疑いようもない。人の口に戸は立てられぬし、いつまでも秘密を秘密のままにしておくことなど不可能だ。
ならば、真実の情報という真水に、嘘という名の毒を混ぜる。そこに致命の毒があると知った上で、その水を口にできる者は少ない。
可能な限り何度も確かめ、毒が含まれていないことを確認してから、ようやく飲めるようになる。しかし、水と同じく情報には鮮度があり、その頃には既に無価値となっている事も忘れてはならない。
「情報戦ってのは地味な努力を積み重ねた方が勝利するのよ。外部に流す話が出来たら、外見の良い人を選んで情報を流して下さい。情報は誰から聞いたかというのも信憑性を左右します。裕福そうなもの、身なりの良いものからの情報は比較的受け入れ易いですから」
「こちらの息が掛かった商人たちには伝えないのか?」
「今回は本願寺から逃げてきた人、またはそれに接触した人っていう建前が重要だからね。何度も同じ手を使うと、見破られ易くなるんだよ勝蔵君。真田さんは本当に本願寺から逃げ出してきた人にも接触してください。味方を装って保護を申し出、こちらの望む情報を吹き込んだら逃亡を援助してあげましょう」
「ははっ、承知しました」
昌幸の返事に静子は満足げに頷いた。
静子達が開いた軍議から数日もすると、東国や西の毛利勢力下に於いて本願寺に関する様々な噂が飛び交う状態となっていた。
中には真実を命懸けで持ち帰ったものも含まれているのだが、既に玉石混交状態となった中から真実のみを拾い上げることなど不可能に等しくなっていた。
世の人々は本願寺で何か大きな事件が起きたという事実を知り、その結果として「本願寺が崩壊に至る状況となった。否、織田家が頑なに隠そうとしているが、実は本願寺が包囲を突破して織田家に迫っている」などと言う真逆の内容の噂話が無責任に振りまかれるようになった。
「難しい任務を見事果たして下さり、ありがとうございます」
「勿体なきお言葉」
静子は昌幸に感謝を告げた。どう転ぶか未知数の状況を見事制御しきると言うのは、口で言うのは容易いが、実行するとなると至難となる。
昌幸が稼いでくれた時間は、本願寺が開放されるまでの安全を担保する値千金のものとなる。事がここに至れば、静子が手を打たずとも武装勢力としての本願寺崩壊は避けれなかったであろう。
しかし、この一手によって無用の損害を防ぎ、本願寺平定後の日ノ本統一に向けた勢いを保つことができるのだ。
(敵を
静子は、頼廉の謀反を成功に導いた黒幕を信長だと確信していた。信長に裏を取った訳でも、本願寺側から情報が入った訳でもないが、事態が収束するまでは下手に動く訳にはいかない。
全てが終わった後、信長に確認すれば良いと考え、今は我慢することにした。
「それで、本願寺の状況はどう?」
「未だ山門は固く閉ざされておりますが、雑賀衆を乗せた船が川を下ったと聞き及んでおります」
「……傭兵を解放したってことは、武装解除は着実に進んでいるようだね。頼廉は何故謀反を起こしたんだろう? 下剋上の野心があったなら、今までにも幾度となく機会はあったはずだし……」
頼廉にその気があったのなら、軍を事実上把握していた彼ならばもっと早い段階で実権を握れたはずなのだ。
状況がこれほど悪くなってから権力を握ったところで旨みなど皆無であり、むしろ戦後処理に於いて割を食う可能性の方が高い。
「推測ではありますが、目星はついております。裏取りをしておりますゆえ、今しばらくお待ちくだされ」
「苦労を掛けます。でも、無茶はしないでくださいね。ここで無理をして有能な味方を失う愚は避けたいですから」
信長から明確な指示が無い以上、リスクを承知で深追いするよりも、リスクを抑えた上で可能な限りの情報を拾う方が上策と言える。
「高札の内容が事実なら、もうそろそろ結果が出る頃合いでしょう。恐らくは僧兵辺りが僧房に籠って抗戦してるんでしょうね。下手に蜂の巣を突く訳にもいきませんし、ここは静観しつつ情報を探りましょう」
「承知しました」
物見役からの報告では、時折山の中腹辺りから煙が立ち上っているのが目撃されている。
中央集権化されているとはいえ、特殊な社会構造を持つ宗教結社特有の問題が立ちふさがり、そう易々とは武装解除できないのだろう。
しかし、静子としても本願寺だけにかまけてはいられない。
(与吉君はそろそろ安土城の落成によって手が空くことになる。築城に関する引く手は
現状、織田家家臣団に於いて大きく面目を潰してしまったのが秀吉である。毛利を抑える橋頭保を築くという難行だが、それだけに見事果たせば一躍家臣筆頭に躍り出る可能性すらあった。
しかし毛利の守りは固く、別所を始めとした織田方に与する国人の裏切りを許してしまった。最終的に別所の調略に
「羽柴殿は兵数で
静子の軍も兵数で言えば中規模であるが、高い練度と充実した最新式の装備という優位性がある。それゆえ、少々の兵力差は力技で覆すことができるのだが、これは誰にでもできる訳ではない。
特に秀吉軍は兵数の割に率いる将が少なく、兵自体も武装農民や地侍、牢人などが多い。その為、秀吉に対する忠誠心ではなく、金銭欲に支配された軍隊となっている。
これは秀吉軍特有の事情と言う訳ではなく、この時代の武将がもつ普遍的な問題だ。ここで問題となってくるのは、秀吉自体が成り上がり途中の人物であることに起因する譜代の家臣不足である。
明智光秀や、柴田勝家、佐々成政や前田利家などは武家の出自であるため、代々家に仕える老将や側近などが揃っている。
しかし、足軽または百姓上がりと言われる秀吉には、そうした脇を固める人材が圧倒的に不足していた。
「……しがらみを持たないのはメリットでもあるけど、デメリットも大きいよね」
己の力のみで人を集める必要があったからこそ、人たらしとさえ呼ばれる秀吉の才能が開花したのだろう。
「さて……どう動かしたものか」
大判の紙に写し取った地図を広げ、各陣営の状況を整理する。頼廉の謀反によって毛利側は若干劣勢へと変化していた。
今までは間に本願寺を挟んでいたからこそ、直接対決を避けられていたという状況だったが、本願寺が織田方へと転んでしまえば、真正面から織田家と対決せねばならない。
対する織田家は、東国に若干不安はあるものの、中部地方から近畿一帯を完全に抑え毛利のみに注力できるようになる。
一方毛利は、虎視眈々と機会を窺う九州勢を背後に抱え、南には織田家と手を組んだ長宗我部が居座っている。
如何に毛利といえども、三方面から同時に攻められては一たまりもない。ここに汚名返上、
「羽柴殿が播磨の別所と丹波の波多野を討てば、再び毛利対織田の直接対決に持ち込める」
秀吉を毛利攻めに噛ませようとすると、彼に期待される役割は余りにも過酷となる。決して失敗が許されず、毛利攻めの要とも言える立ち位置にあるため、秀長が密かに静子へと協力要請を打診してきている。
自らの立身出世の為とは言わず、織田家の為というのを前面に押し出してくるところが小賢しい。
「そうは言っても私の軍を大量に動員されても困ると、我が侭まで言われるんだから面倒だよね」
静子軍を大量に引き込み、最新式の武装で以て役割を果たしたとして、それは果たして秀吉の手柄と認識されるだろうか?
それならばいっそ、最初から静子に任せて秀吉は引っ込んでおれば良いと言われてしまえば反論できなくなってしまう。
ゆえにあくまでも主役は秀吉軍でありつつ、突破力に優れる『程よい軍勢』の派遣を秀長から望まれていた。
選り好みをしている状況では無いのだろうが、今後の展開を考えるなら静子に借りを作ってでも手柄を立てねばならないのだろうと静子は察していた。
「うん、相談しよう!」
自分一人で考えたところで良い案が浮かばない。それを自覚した静子は足満、慶次、昌幸の三人を呼び出した。
「と言う訳で、みんなの意見を聞きたいな」
「向こうの要望通り、新式銃部隊だけを送れば良いんじゃないのか?」
経緯を説明した上で、静子が三人に意見を求めると、真っ先に慶次が投げやりに返す。
明らかに気乗りしない態度を隠そうともしない処を見るに、慶次にとって気に入らない点があるのだろうと静子は察した。
「羽柴殿の要求は、我らを矢面に立たせると言うのに、手柄は自分達が頂くと宣言しているに等しい。他人の
「まあ好き嫌いは別としても、此度のいくさ我らに『旨み』が無いのが気にかかる」
慶次の意見を受けて足満が実利面を強調する。足満にとって静子が出陣すると言うリスクを取るのに、それをするだけのメリットを得られないことが不満であった。
「確かに明確に何かを得られると約束して貰った訳ではないね。ただ、毛利に関しては上様も気を揉んでおられるからねえ」
「本当にどうにかしたいなら、直接静子に命があるだろう?」
「お二方と同意見です。上様が毛利攻めに静子様を指名されないのには、それ相応の理由がおありの筈。現状、何らご指示が無い状態で動くことに理があるとは思えませぬ」
慶次に続き足満も否定的な意見を述べ、最終的に昌幸もそれに同意した。静子としても元より多くの兵を送るつもりはなく、戦況が優位になれば早々に引き上げるつもりだった。
しかし、こうも否定的な意見が揃う以上、兵を送ること自体に良い感情を抱かないものが多いと思われる。
「あ、そうだ!」
協力要請を断ろうかと思いかけた静子だが、一つ気にかかることが思い浮かんだ。
「足満おじさん、狙撃兵を訓練してるって言ってたけれど、どんな状況?」
「現状で狙撃と言える成果を出せるのは五名ほどだな。銃弾を金属ガイドで連結した五連装弾は完成したが、装填する度に
「それでも相手に発見されない距離から先手を打てるなら上出来だよ。じゃあ、ここで実戦での最終調整をしてみない?」
静子の言わんとするところを理解した足満は、一瞬考え込む素振りをみせたが、すぐに表情を引き締めた。
「どうやら侍の出番じゃなさそうだ。んじゃ、俺は東国征伐でお声が掛かるまで英気を養うとするよ」
元よりやる気のない慶次は、自分の出番がないと判断するや興味を失って席を立った。
昌幸も同じく席を立とうとしたが、それを静子が手で制する。
「今回、狙撃兵の部隊を真田さんに率いて欲しいのです」
「某がですか!? しかし、率いようにも某は狙撃というもの自体を存じ上げませぬ。実情を良くご存知の足満殿が率いられるのが筋では?」
「足満おじさんだと、他人に理解を求めないからダメなの。一応協力要請に応じて派兵する以上、受け入れ先の部隊と連携も取れないといけないし、相手の反応を見ながら腹芸もこなせないとね?」
「なるほど、確かにそちらは某の得意とする処。狸の面目
静子の言葉に昌幸が笑みを浮かべる。釣られて静子も笑みを浮かべるが、社会不適合者のように言われた足満は仏頂面である。
「私から言えるのは、接敵するような戦闘は避けてかな?」
「それでは静子様が臆病者と呼ばれ、顔に泥を塗ることになりましょう」
「そもそも狙撃ってのはそういうものなんです。見つかった時点で負けと言っても過言じゃない、優秀な狙撃兵は臆病でないといけない。蛮勇を誇るために手塩にかけて育て上げた狙撃手を失う訳にはいきませんから」
「承知しました。それ以外の運用は某に一任頂けると?」
静子の覚悟を試すように昌幸が訊ねる。武士にとって不名誉とされる行為であろうと、必要とあれば実行するぞという内容が込められていると察した静子は応える。
「構いません。狙撃兵の性質を考えた上で、真田さんが一番上手く扱えると私は判断しました」
静子は昌幸の問いに対して、責任は自分が取ると請け合った。昌幸は表情を引き締めると、足満に向かって頭を下げた。
「某は狙撃と言うものを知りませぬ。今の某が狙撃兵を率いたとて、彼らの真価を発揮させてやることは叶わぬでしょう。そこで某に狙撃の『いろは』をご教示頂きたい」
「……付け焼刃は
昌幸は静子にとって不名誉となる行為も辞さない己を、足満が良く思わない事を承知で彼に教えを請うた。
手加減されては意味がない。狙撃とは何なのかを短期間で体得するためには必要な措置であった。
更に数日が経ち、石山本願寺に掲げられていた高札は下ろされた。それと同時に各門前に武器が箱詰めされた状態で山と積まれ、武装解除が為されたことを示す一方、引き続き門は閉ざされたままであった。
本願寺は戦力を放棄したものの、明確に織田の軍門に降る訳でもなく、かと言って毛利側と連絡を取ろうとするでもなく、沈黙を守り続けている。
頼廉の思惑が読めない各勢力は、それぞれに本願寺に対して使者を送るが、全てが門前払いされる結果となっていた。
武装解除を契機に、信長は佐久間に対して封鎖を解くように命じており、積荷を検められはするが物資の補給が再開された。
「どの事業も順調に成績を上げているね」
本願寺のことは一旦脇へ置いて、静子は自分が関与する各事業の定期報告書を読んでいた。事業を継続する以上、日々色々な問題が発生するが、それらは適切に処理され致命的な問題は起きていない。
「だいぶ経営を任せられるようになってきたね」
組織とはある目的に向かって取り組む秩序ある集団を指す。こう定義されるように組織に於いては、目的が非常に重要視される。
目指すべき明確な目標があり、それに向けて道筋をつけるのが戦略であり、より効率的な順路を決定するのが戦術と言える。
組織にとって目指すべき目的が明示され、組織員全員がそれを意識し、日々進捗状況を見ながら邁進する組織は強い。
逆に目的が定まっておらず、漠然と業務に取り組んでいる組織は、組織員の力を充分に発揮できず、組織全体が徐々に腐ってしまう。
「高い研修費を払ってMG研修に参加させてくれたお爺ちゃんに感謝だな。何が人生で役に立つかは判らないもんだね」
MGとはマネジメントゲームと呼ばれ、元ソニー社員であった西順一郎氏が1976年(昭和51年)に世に出した、経営者育成ゲームである。
ソニーが開発したゲームであるため、ソニーの思想や理念を受け継いだソニーマンを育成することを主眼に置いてデザインされている。
このゲームの優れている点は、経営とは何かを全く知らなくても、四則演算さえできればゲームを通して企業運営の勘所を押さえられることにある。
田舎の豪農とは言え、一国一城の主となる事が内定している静子は、祖父の紹介で14歳からMG研修に参加することになった。
経営の「け」の字すら知らない静子は、祖父から純粋にゲームと思って楽しんでおいでと送り出され、2日間の研修を終えて帰宅した頃には疲労困憊という様子だった。
しかし、回数を重ねるにつれ理解が深まり、参加者との交流も増え、楽しんで自発的に取り組むようにすらなった。
研修の性格上、この研修を受ける対象は新入社員や経営者及び幹部社員であることが多い。そこに女子中学生が交じるのだ、皆が静子を可愛がった結果、取引のある銀行と経営について具体的な数字を使って語れる女子中学生が出来上がった。
MG研修を通じて知り合った著名な経営者たちの入れ知恵もあって、経営計画に銀行員を巻き込み融資利率の引き下げを実現するまでになった静子の姿があった。
MG研修を勧めた祖父としては、ゲーム形式で経営を学べるなら静子にも出来るかもしれない。異例の抜擢を受けて当主となることが内定した静子にとって、箔が付けられれば御の字だと思って申し込んだのだが、本人に予想以上の適性があったのは嬉しい誤算だと言える。
因みに初回MG研修から帰った静子の疲労ぶりを見た静子の祖母をはじめとした女性陣からは、自分達の都合で静子に無理をさせていると
「アレのお陰で経営を判り易く他人に伝えられるし、自分と同じ視点で経営を見られる人を育てられる。著作権的にはアウトなんだけど、一応西先生の名前は入れているからお目こぼしして貰おう」
静子は自分が全ての経営を見ている状態はダメだと考え、自分以外にも経営者を育成しようと文官候補から数字に強い面々を抜擢して簡易版MG研修を仕立てて一緒に取り組んだ。
アラビア数字はおろか、アルファベットにすら拒否感を示す彼らをなだめ、一緒にゲームをやった。どうやればもっと良い成績が出るのかを互いに語り合い、やがて各々が独自の戦術を編み出すようになった。
やがて彼らと数字を交えて経営計画を語れるようになり、彼らは更に部下へとMGの和を広げていくという好循環が始まった。
いずれは静子の学校でもカリキュラムに組み込もうかと思う程に設備も充実し始めている。
こうして事業の運営を配下に任せる事ができ、静子に余裕ができる体制が整った途端に飛び込みの依頼が入るのは、運命のいたずらと諦めるしかない。
「四国は長宗我部氏が頑張っているから、裏から少しサポートすれば十分だね。雑賀衆は結局殆どが商売に戻ったから、傭兵集団としての雑賀衆は店じまいかな」
本願寺を脱した雑賀衆は、信長の斡旋もあって真っ当な商売へと舵を切った。
いくら傭兵稼業に固執したがったところで、武装を整えるための銭すらないのでは話にならない。そんな状況であっても生きていくには飯を食わねばならず、信長は彼らに初期費用の融通さえ申し出た。
雑賀衆と織田家の確執は命のやり取りをしただけに簡単には拭えないが、それでもこの融資を恩義と感じる人々は多い。
彼らが雑賀衆の主流派となっていけば、いずれ織田家との確執も取りざたされることは無くなるだろう。
「混乱時に関所で紀州有田のみかん(紀州ミカン)を手に入れたけれど、本格栽培にはまだまだ苗が必要だなあ。どうせなら種なしミカンにしたいんだけど、この時代だと縁起が悪いしなあ……」
この時代では種なしだと子宝に恵まれないという迷信が根付いており、明治期に入るまで種ありのミカンが喜ばれ、種なしのミカンは忌避された。
因みに種なしミカンもバナナの時と同様、最初は偶然の突然変異によって誕生したものである。
根強い迷信もあって甘くて種の無い温州ミカンの栽培は難しい。試験的な栽培は可能だろうが、本格的に営利栽培をするとなれば紀州ミカンを選んだ方が実入りが見込める。
「九州となると……また久次郎さんにお願いするしかないか……」
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※別作品の作業のため、6月の更新はお休みさせていただきます。 ※作者多忙につき、完結まで毎月第四土曜日の更新とさせていただきます。 ※2016年2月27日、本編//