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【社説】

神奈川の逃走 収容手続きの点検を

 窃盗や覚せい剤取締法違反などの罪で実刑の確定した男が逃走した事件は、発生から五日目で逮捕、解決した。地検・警察関係者が大勢いながら逃げられた失態である。収容手続きの点検が急務だ。

 神奈川県内で男が逃走してから、周辺地域の住民らは「早く捕まえて」の一心だったろう。それは強く察せられる。

 何しろ男を刑事施設に収容するために訪れた横浜地検の職員五人と厚木署員二人に対し、刃物を振り回して抵抗し、車で逃走したのだから…。

 愛川町、相模原市、厚木市と各地を逃げ回った末に、横須賀市内で逮捕された。まず地検や警察はこの失態を重く受け止めるべきである。同地検のトップは「皆さまに不安を与え、申し訳ない」と謝罪したものの、検察全体の問題として考えてほしい。

 そもそも横浜地裁小田原支部で懲役三年八月の実刑判決を受けたのは昨年九月だ。控訴したものの、東京高裁が棄却し、実刑が確定したのは今年二月である。保釈は失効し、男は当初、出頭する意思は示していたという。

 だが、電話や書面での再三の出頭要請にも応えていない。この時点ですぐに召喚し、収容すれば何の問題もなかったはずである。検察側に油断があったのではないか。逃亡しないという思い込みがあったのではないか。

 かつ逃走後の対応には大きな問題がある。十九日午後一時すぎに逃げたのに、地検の発表は何と午後四時五十分ごろ。発生から三時間以上もたっていた。愛川町への連絡もほぼ同時刻。防災無線で住民に知らせたのは午後六時。県警の緊急配備は午後五時四十五分ごろ。車での逃走であるのに、何と悠長であることか。

 逃亡事案はすぐに住民に知らせないと二次的、三次的な犯罪を呼びかねない。深く反省すべきだ。刃物を振るう男に対し、警察官の装備は警棒のみで拳銃はなし。防刃ベストもなし。最悪の事態も想定すべきではなかったか。

 近年高まる保釈率と絡めて問題視する声があるが、それはおかしい。実刑確定者が収容から逃れる「遁(とん)刑者」は昨年末時点で二十六人。減少傾向である。一九六〇年代と比べれば、二十分の一、三十分の一のレベルだ。保釈率と遁刑者数との因果関係はうかがわれない。

 むしろ事件の検証と、適切な収容態勢の徹底こそが何よりの再発防止となろう。

 

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