吾輩は猫である ~名前はマダナイ~ 作:大三元
<< 前の話 次の話 >>
「陸軍としては海軍の提案に反対である」
「海軍としては陸軍の意見に反対である」
モモンガとマダナイは円卓にて会議を開いていた、お互いは対面に座り腕を組んでいる、顔も何処か険しい。
この場に呼ばれていた第4第8以外の各階層守護者達とプレアデスの面々にもその雰囲気が伝わったのか冷や汗を流す者も出てきた。
なぜこのようになったかと言うとそれは数刻前の話………
「マダナイさんは冒険とかしたくないですか?」
「ん~… 変装してってこと?」
モモンガの自室で話す二人、モモンガは椅子に座りマダナイはモモンガの膝の上でゴロゴロ言いながら丸まっている。
「そうそう、俺は完璧なる戦士を使って戦士になろうかと」
「えぇ、戦士になるのか、なら俺は……… 猫かな?」
「いや、もう猫でしょ」
「何を言う!今は人猫であって猫ではない!」
その瞬間マダナイはモモンガの膝からパッと飛び降り人の形をとる、その顔は怒気を含んでいた。
「【今は】! 人猫でしょ! さっきまで猫でしたよね!?」
モモンガは納得いってない様でこちらも何処かいら立ちを見せ始めた。
「いいや! さっきの猫の状態も含めて猫人なんだ! だから猫ではないのである!」
「そんな横暴な! どっからどう見ても猫でしたよ!」
声が大きくなる二人、モモンガの方は鎮静化により落ち着くがマダナイは収まらない。
「いいですかモモンガ! 見た目が人だからってホムンクルスはホムンクルスだ! そういう訳で俺の先ほどの猫も人猫なのだ!」
「はぁ、わかりましたよマダナイさん、で冒険にはいくんですか?」
「いや、変装してまで冒険なぞしたくない!」
「えぇ…」
腕を組み胸を張って宣言するマダナイ、困惑するモモンガ。
「しかし変装しないとこの世界では碌に町なんかに入れないんですよ!」
「そんなもの知る由もない、故に陸軍としては海軍の提案に反対である!」
この様な事がありならば他の人の意見をと円卓に呼んだ次第であった。
しかし二人共大きな間違いを犯している、冒険に行くのに変装するとかしないとかの以前にこのナザリック内の者でそんな至高の御方々を危険に曝すような事、ましてや至高の御方々のみでの冒険など許すはずないのだから。
「えぇい! 埒が明かん! ならばこの陸軍に付いてくる者は我の方へ!」
「何を言う! では海軍に組する者は私の方へ!」
この言葉を聞いて困惑する守護者とプレアデス達、どちらもこのナザリックに最後まで残ってくださった慈悲深き御方、選べるはずもなくもじもじする。
「ふむ……… あ、シズは確かかわいいのが好きだったよな? こっちに付けば毎日猫を撫でさせてあげよう」
もじもじしている者達を見てこのままだとどうにもならないと思ったマダナイは皆の設定を思い出し比較的簡単に引き抜けそうなシズ・デルタに目を付け声をかける。
効果はあった様でシズはモモンガに一礼してからマダナイの方へ歩いて行った。
「あ、ずるい! じゃあアルベド、お前は玉座の間の守護者、言わば私の秘書だ… どちらに付くか解っているな?」
こう言われてしまえばどうしようもない、アルベドは困った顔をしながらもトボトボとモモンガの方へ歩いていく。
最終的にセバスを除くプレアデスの面々がマダナイに、モモンガの方にはセバスを除く集まった守護者達が付くことになった。
6対6、拮抗状態になり最後に残ったセバスを引き入れるため両陣営は壮絶な舌戦を繰り広げる。
こちらに来ればしたい事をしていいぞとかこちらに来るのは当然とか言われセバスは目に見えて挙動不審になる。
「「セバス! さぁどっち!」」
モモンガとマダナイが同時に問うとセバスは気を失い倒れてしまった。
セバスはゆっくりと目を開ける、そこには犬の顔、ペストーニャが顔を覗かせていた。
「もう大丈夫です… あっ、わん」
そういって離れていくペストーニャを目で追いかければ椅子に座りホッとしたような顔になっているモモンガとマダナイを見つけた、その瞬間倒れる前の事を思い出す、そしてこの状況についてもある程度理解した。
セバスは直ぐに立ち上がると二人に対し深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんモモンガ様、マダナイ様、見苦しい姿を見せてしまった事この命を持って償いましょう」
「ま! 待てセバス! よい! よいのだ!」
「そうだセバス! 大丈夫だから! 全て許すから今はゆっくりしてて!」
セバスの発言で焦る二人、何とか説得し部屋をでる。
「いやぁ、まさかこんな事になるとは」
「そうだね… 途中から遊んでたもんね」
最初はお互い真面目に話し合いをするつもりだったが人員の引き抜きの話になってから二人共遊び始めていたのだ、本当の事を言うなら元から真面目に話し合う事も建前だったのかもしれない。
しかし結果として下部の一人が過度なストレスで気を失う結果となってしまったのでお互い反省したのであった。
次の日、今度は真面目に話そうと円卓へ向かう二人であったが付いてくる者達の様子がおかしい、どんどん集まってくる。
この人数じゃ円卓には収まらないと判断した二人は広い場所、玉座の間へ行く事に変更した。
「なんでこうなった?」
小さく呟くモモンガ、そこには三つの陣営に分かれた下部達、片方はモモンガの旗を、もう片方はマダナイの旗を掲げている。
何も掲げてない陣営は数名いるだけだ。
そして違和感を感じいつもアルベドが立っている場所に目を向ければそこにはセバスが立っている、その顔は険しく下部達を吟味しているような感じだ。
「あ~、一応聞くがこれはなんだ?」
マダナイが皆に聞く、するとデミウルゴスが代表して答えた。
「私達の為にここまでして下さるとはやはり慈悲深き御方々でらっしゃいます」
そういって跪き礼をする、その姿を見た他の者達も跪く。
答えになっていないのだがと思いながらマダナイはその光景を見る、モモンガは玉座に座りながらピカピカ光っているだけだ。