日米欧、データの国家監視に制限を 中国と深まる溝
国際ルールの条文案、今後の交渉難航も

経済
政治
ビジネス
2019/6/23 1:30

データを使うビジネスの国際ルールづくりで、日米欧と中国の溝が深まっている。日米欧がそれぞれ各国に示した条文案で中国を念頭に、企業や個人の重要データについて国家監視の制限を要求した。一方の中国はこうした主張とは一線を画す案を示した。日本は20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で交渉加速を打ち出す方針だが、難航が予想される。

データビジネスの国際ルールはWTOの枠組みで交渉する(ジュネーブの本部)=ロイター

日米や欧州連合(EU)、オーストラリアなどの有志国は1月、中国も加盟する世界貿易機関(WTO)の枠組みで新たなルールづくりに入ると表明した。一部の国は今春以降にルールの条文案を互いに示し合い、交渉準備を進めている。

関係者が明らかにした条文案によると、日米欧がプログラムの設計図である「ソースコード」について、国家による企業秘密の開示請求を禁じることを提案した。これは日EU経済連携協定にも含まれている内容だ。

日米はさらに、人工知能(AI)などの実行手順の「アルゴリズム」の開示請求禁止も明記。北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新たな貿易協定にも入っており、特に米国が強い関心を持つ。

日本は独自提案として、ネット関連の規制を導入したり、変更する際にはその仕組みを透明性をもって公表したりするルール案も盛り込んだ。

一方、中国は条文案でネット通販などの貿易を円滑化するルールをまず導入することを求めた。具体的には電子商取引(EC)関連製品の通関手続きを簡素にしたり、WTO加盟国でオンライン決済の仕組みを普及させたりするルールをつくるといった内容だ。

もっとも日米欧も一枚岩ではない。EUは条文案にデータのプライバシーを国際的に「基本的人権」として位置づける案を提示している。EUは一般データ保護規則(GDPR)で域内での個人データの利用に厳格な規制を設ける。こうした規制を根拠づける理念を各国も認めるよう求める。EU並みのデータ保護には日米も慎重な姿勢を示している。

日米欧中が一致した内容もあった。たとえば個人のデータが国境を越えてやり取りされるため、消費者保護法制を各国に求めるルールづくりが必要だとの提案だ。ビジネスでの電子認証手段の普及や国境を越えて送信されるデータに関税をかけない措置の恒久化などでも同様の提案をした。

今後は交渉国間で本格的な調整作業に入り、どの条文を最終案に盛り込むか協議する。中国は日米欧の案に反対する見通しで、対立が続けば交渉は頓挫する。

まずは各国で方向性が一致する貿易円滑化のルール作りを優先させるべきだとの意見もある。ただ安易に妥協すれば、高いレベルのルールはできない。他の交渉国に日米欧の案を理解してもらい、交渉全体の機運を高める必要もある。安倍晋三首相がG20サミットでルールづくりの主導を表明する日本の調整力も問われる。

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