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【社会】女性の生きづらさ 国境越え共感 韓国小説、異例ヒット
ごく普通の女性が体験する差別や苦悩を描いた小説「82年生まれ、キム・ジヨン」が、昨年十二月の発売以来、翻訳文学としては異例の十三万部を売り上げている。就職試験で男子学生に差をつけられる、仕事を育児で辞めざるをえなくなる-。女性であるだけで当たり前のように我慢し、傷ついてきたことを言語化した小説へ、国境を越えて共感が広がっている。(出田阿生) 「私の話だと思って読みました」「自分の記憶と重なりすぎる」。ジュンク堂書店池袋本店(東京都豊島区)が設置した特設パネルに、感想を書いた紙が何枚も張られていた。「一カ月に百冊のペースで売れている。日本では無名の著者なのに」。店員の小海裕美さんは驚く。発売から半年たつが売り上げは伸びているという。 主人公は三十三歳の女性、キム・ジヨン。一九八二年生まれの女性に最も多い名前だ。二月に来日した著者のチョ・ナムジュさんは「女性なら誰もが経験するエピソードを集めた。ジヨンの半生を通してありふれた不平等を淡々と描いた」と話した。 性暴力を告発する「#MeToo」運動が盛んな韓国で三年前に出版され、百万部超の大ベストセラーになった。かたや日本は、医大受験の女性差別問題が発覚しても抗議がうねりにならない国。それでも口コミで評判となり、完売の店が続出した。発売元の筑摩書房の尾竹伸さんは「驚きだった」と話す。 二人の子どもの母親(43)は、読みながら出産当時を思い出して泣いた。「夫は残業や休日出勤ばかりで育児は人ごと。つらくてケンカばかりだった」。小説では、夫より収入が低いからとジヨンが仕事を辞める。「責任を持つよ」という夫に、ジヨンは問う。「私は社会とのつながりを失って、将来の計画もあきらめる。あなたは何を失うの?」 会社員の女性(30)は高校の進路指導を思い出した。「将来マスコミで働きたいと話したら、女の子だからきつい仕事はやめた方がいいと否定され、嫌だった。読んで、嫌だと感じた自分はおかしくないと思えた」 書評家の倉本さおりさんは「背景には女性が一方的に我慢を強いられる社会へのモヤモヤがある。それが限界に達しつつある女性たちの気持ちに合ったのだと思う」と分析。「この本は、不平等や差別には怒ったり悲しんだりしていいんだ、と気付かせてくれる。韓国も日本も家父長制意識が根強いので、より共感しやすいのでは」と話している。
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