オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
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たぶん更新時間もおっぱい時間0801に固定します。
「元々エ・ランテルには、使いっ走りを何人か置いてたんだが。あの日そいつらが逃げ出して来てな……」
聞けば彼らの王国での野盗手段は、エ・ランテルに部下を侵入させ獲物を物色。
その後、襲いやすい商人などを町の外で襲撃していたそうだ。戦時には傭兵団として活動。
帝国では真っ先に騎士によって排除されそうな、ただの犯罪者集団であった。
「エ・ランテルが大量のアンデッドに襲われた。いや、内部の墓から湧き出したアンデッドが正解か? まぁ兎も角、一夜にして"死の都"ってやつにされたんだそうだ」
それを知ったのは情報集めてからだけどな。と、語るブレイン・アングラウスはどこか悔しそうに、そして悲し気な顔をしていた。
「最初に逃げ出してきた使いっ走りも言ってたんだがな。……逃げ出す人間達とアンデッドの間に突然戦士達が割り込んできて、そこに『ガゼフ・ストロノーフ』が、あの王国戦士長がいたってんだよ。逃げるのに夢中でそこから先は知らねぇってんでな、王国首都まで行って避難民相手に情報を集めたら――」
そこまで話すと、顔に怒りの感情を浮かべ突然足を蹴り上げた。
「ガゼフが、……あの王国最強の男が! アンデッドの大群に飲み込まれて死んだって! どいつもこいつもぬかしやがる!! 最後に話せた死にかけの兵士が言うには、ズーラーノーンの人間ともやりあってたらしい……」
――つまり今あいつはエ・ランテルの中で、仲良くアンデッドになってるってこったハハッ!
怒りと共に一気にまくし終えたブレインは
だらりと両手を垂らし全身の力を抜き、ただ笑っていた。
♦
ひとしきり笑い終え、人形のような目をこちらに向けるブレイン・アングラウス。
その瞳からは怒りの感情が消え、目の前のウンケイすら捉えてはいなかった。
「そ、そうとは限らないのでは? たとえば動けぬ程の重傷を負い、近くの村や街に運び込まれたとか?」
「こいつら死を撒く剣団も今後に関わる事だってんで、情報収集は本気でやったさ。そんな話はなかった、情報を逃したとかそんなことはありえねえな」
「……なぜそこまで自信があるのですか?」
「お前らは知らないみたいだが、今頃この噂は王国どころか帝国首都まで伝わってるんだぜ? 王国戦士長が死んだってな。なぜ自分が、周りの人間が生きてると知らせない? あいつも、そして王国の人間も『王国最強』という肩書が死ぬ事の意味を知っている。まして今王国は"死の都"を抱えて沈みかけてるんだ、隠れて何をする? 王国全体の士気を落として寿命を早めるだけだ」
何も言い返せなかった。ウンケイを含め、銀糸鳥は政治に関わらないスタンスを貫いている。
だが王国最強の剣が折られる意味はわかる。帝国で言えば、
「理解したか? じゃあ続きをしようぜ、丁度時間稼ぎも済んだみたいだしな」
ブレイン・アングラウスの見つめる自らの背後から、仲間の大声が聞こえてくる。
舐められているのか、それとも見下されているのか。どちらにしろ前衛であるファンが戦えない今、苦戦は免れない。逃げ出すか、最悪の場合も想定しなければならない。
戦闘再開の意思を示すように、抜刀の構えを見せたブレインが腰を落とし、ギラついた眼でウンケイとその背後を睨みつける。その構えはつい先ほど見覚えがあった。バトルアックス二本を両断しファンを仕留めた構え。ウンケイにはそこから先の動きは見えなかったが、構えだけなら見間違えようもない。
「待たれよ、野盗をする理由は聞いておらぬ! ガゼフ・ストロノーフが死んだなら、お主に
「――ッ!」
その瞬間――ブレイン・アングラウスの体から殺意の刃が射出された。
先程まで必死に回していた思考が止まり、動かしていた舌が凍る。首から下の一切が動かず、全身の毛穴が抜け落ちたような寒気が体中を覆った。まるでウンケイの心臓が一瞬で握りつぶされ、意識が白く染まりだすのを何もできず傍観するような気分だった。
(……ここまでのようでござるな)
薄れゆく意識、わずかに残った戦闘の意志を総動員して、背中越しに後の仲間にサインを送る。
――逃げろ、と。
同時に一瞬でも時間を稼ごうと錫杖を構え、その身すらも盾にすべく全身に力を入れた。
その瞬間
「つまり、単に
この旅路の中で聞きなじんだ少女の疑問の声が、夕日に染まった血生臭い戦場に響き渡った。
♦
その気配は突然現れた。
ブレイン・アングラウスの<神閃>。<領域>との併用による迎え撃つ構えを解き、目の前のウンケイという僧侶に切りかかろうとした瞬間、
「つまり、単に
<領域>内に現れた声と気配に向けて斬撃を放つ。言葉の意味は理解していない。単にこれまでの鍛錬、数百万にも及ぶであろう極限まで追求した武技を、体の赴くまま発動させただけだ。
しかし突然の無意識の中発動させた技、それを達人が放てばそこに一切の手加減は存在しない。ここは戦場、味方は一人もいない中<領域>の中に突然現れた存在が味方であるはずがない。
抜刀からの高速の一撃が前方の敵へ向かう。僧侶との間に瞬時に現れた現象に相手は魔法詠唱者か、と一瞬の疑問と警戒感を浮かべる。だが刃は止まらない。その存在が幼い少女であること、少女でありながら胸が大きく官能的な雰囲気をまき散らしている事、ドレス姿で絶世といってもいい美を誇る少女であること、それらは切った後に
ブレイン・アングラウスの武技はそういうモノなのだ。
「しぃっ!」
鋭く短い息と共に、相手の首に届く。一瞬の閃光、その首が――
――届かなかった。
摘ままれたのだ。
その一撃を白魚のごとき二本の指――親指と人差し指で。
「……なッ!? …………ば、…かな」
その信じられない光景を認識できた瞬間、荒い呼吸が体から漏れ出た。
体が震えそうになり、目の前の紅い瞳に全身が吸い込まれそうになる。
その瞳に自ら顔が映っていた。傭兵団下っ端以下の気の抜けた面か、初めて戦場に立った死に怯える新兵のような泣き顔。その顔が、自分のものであることが信じられなかった。
「『
侮辱するような落胆したような物言いにも何も感じなかった。
ただ一つの言葉が、自然と口からこぼれ出る。
「化け物――」
「むッ!って別に間違ってないかな? 設定的には」
一瞬こちらを睨みつけるその幼さが残る顔立ちに、戦慄が体中を走る。
(――逃げるか?)
だが、摘ままれた刀は未だに動かない。全力を以てしても動かせなかった。
目の前の少女の指二本で止められる刀、これが純粋な力によるものとは思えない。
魔法による現象なのではないか。だが絶対的な力であればそれは些細な問題だ。
重要なのは死ぬか生き残るか、敵か味方かそれだけ。
その時パキッと、一瞬の割れるような甲高い音が響く。見れば自らの刀にひびがはいっていた。
ちょうど摘ままれた指の部分、黒い刀身が悲鳴を上げ欠片がいくつか地面に散っている。
「あッご、ごめんなさい」
少女は慌てて手を離した。手をわたわた振り、心底申し訳なさそうな少し赤面した表情。
それはまるで街中で町娘とぶつかったような自然な動作。
ガラの悪い連中が難癖をつければ、金や乱暴を許してしまいそうなあどけないもの。
だがここは戦場だ、なぜ少女がそんな反応をしたのかは分からないが、これは――
(好機ッ!)
突き出す形になっていた刀をそのまま前へ、全身の体重をのせる。
狙うは少女の顔、紅い右目その中心。どんな人間も目は鍛えられない、最悪頭を貫通即死させることも可能。全力の突きによって、先端がその瞳に吸い込まれる。
ゆっくりと伸びる刀、到達まであと数センチ、数ミリ――
――そこでブレインの前進が止まる。
全体重をかけた突き、それが刀身を握った少女の右手によって止められていた。
(なッ!まばたきすらしない…だと……)
文字通り目の前に、あと僅かに子供が押せば紅い瞳が血に染まるような状況。
そんな状況においても、目の前の少女は静かにブレインを見つめていた。戦闘前に刀身には
そしてその瞳は何事もなかったかのように、刀を見つめていた。
「危ないなぁ」
柄を握るブレインが刀越しにその力を感じた瞬間、バキンッと刀身が砕かれ欠片が周囲に霧散。
無数の欠片が夕日を反射する光景を、ゆっくりとスローモーションのように唖然と見つめたまま倒れこむ。
「な……なんなんだお前は……」
四つん這いになり、目の前の少女を改めて見上げた。ただただ美しい少女だった。
切る瞬間に感じた官能的な雰囲気と大きな胸が、下から見上げる事でより欲望を刺激する光景。だが、ブレインにはその美しさ以上に、純粋な力の差がすさまじい重圧として感じられる。
「初めまして。私はシャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン。よければお話を聞きたいのだけど? あ、もちろん平和的にね」
野盗だった無数の死体が転がり、血に染まった街道で少女はそんなことをぬかしたのだった。
と、言うわけで平和的なお話合いです。本当です。