オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
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前半はモモンガさんの行動心理解説的な物
カランッ! ……カランカラ……っカラン! カラン!
(あれ、もう来たのか?)
早めの夕食を終え、馬車内で野盗の歓迎準備を進めていたモモンガ。
野営のために銀糸鳥の「暗雲」――本人はこの二つ名を嫌がっているので表立っては言えないが――ケイラ・ノ・セーデシュテーンが設置した音を発生させる罠に野盗がかかったことを、ハンゾウが
ヘジンマールを
モモンガ達の後ろを追尾していたのは、ハンゾウの報告でわかっていた。
だが日が沈む前のこのタイミングで襲ってくるのは、モモンガにとって想定外だ。
彼らの作戦を盗み聞きしていたはずのハンゾウから追加の報告が入る。
『申し訳ありませんシャルティア様、どうやら先走った野盗がいるようです』
(なるほどなぁ、つまりは現場の暴走か)
なんとなく野盗のトップに同情してしまう。これでは奇襲もなにもあったもんじゃない。
モモンガ自身、警戒も薄くなる深夜に襲ってくるのが常套手段だと思いこんでいた。
ハンゾウの報告もそれを物語っていたため、完全に油断をしていた。反省点ではある。
一応準備はほぼ終えている。ハンゾウを一体シャルティアの影に潜ませ、他は野盗および周辺状況の逐次報告、眷属招来による
繋げた場所は、フロストドラゴン達を待機させているアゼルリシア山脈。戦力の逐次投入も、そして念のため逃走にも使えるようにしたのだ。あとは
野営に決まった場所は、街道脇にズレた見晴らしのいい草原地帯だった。
旅の間に見慣れた銀糸鳥のメンバーによる手慣れた準備を見届けた後、モモンガは誘い出した野盗、もとい後を付けて来る
なぜか跪きながら力強く「お任せください!」と宣言した後
銀糸鳥の面々に張り切って指示を出す彼のやる気に頼もしさを感じながら、モモンガ自身も独自に準備を進めた。
――だが前提としてモモンガは今、アンデッドが使いづらい状況であった。
勿論アンデッドに問題はないが、これまでの道中帝国内ではアンデッドに対する風聞が悪い。それもこれもズーラーノーンが悪いのだが、どうも人伝に伝わる話というのはかなりの尾ひれがつくようなのだ。
対アンデッドに特化したウンケイが「どうにも必要以上に恐れられているようでござる、能天気よりはよっぽどマシですが」と、噂の分析をしていた。
彼の知識では到底不可能なほどの強力なアンデッドの噂が、地方に流布しており
ズーラーノーンが過去に作った死の都、それが隣接する国家にできた恐怖が蔓延しているそうだ。
人伝に伝わる情報――これは以前の世界でも、ユグドラシル内でもリアルタイムの情報を得ていたモモンガにとっては、不便であり新鮮なものに感じられた。
そしてこれは旅の目的の一つである『名声を得る』事にも関わる。
名声とは何か。言葉の意味は兎も角、モモンガとしてはシャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウンの名が世界に広まり、それがプレイヤーにさらにはギルドの仲間たちに伝わればいいと考えている。
ただ悪評だと困るのだ。今のズーラーノーンのような社会を破壊する風聞はアインズ・ウール・ゴウンの名を傷つけるし、余計な敵を作ってしまう可能性が高まる。
なのでその危険性に気づいた後は、しぶしぶアンデッドの使役は控えている。
アンデッドの優秀な面は帝国内で信頼を勝ち得た後、ゆっくりと広めればいいと考えていた。
この旅路でも地味な慈善活動を行い、銀糸鳥との信頼関係も構築できたように思う。彼らの雇い主である鮮血帝にも良い報告をしてくれるだろう。それをぶち壊さないためにも
『今回は』アンデッドを使わないでおくことにした。
――(まぁ使う準備だけはしておくか)
♦
街道方面に設置した罠が盛大な音を鳴らす。護衛対象であるシャルティア様から相談を受け
街道方面に多めに罠を設置したのが幸いだった。とはいえそのほとんどは、非殺傷のものである。
理由は勿論無害な商人や旅の者だった場合、余計なトラブルを抱えるためだ。
御本人も「野盗かどうかはわからない」と自信なさげに目を逸らされたための対応だ。
仮に自分のせいで関係のない人間が傷つけば、あのお優しい方はさぞ悲しまれるだろう。
――結果的にそれは杞憂だったのだが。
「私はアダマンタイト級冒険者『銀糸鳥』のリーダーフレイヴァルツ。
そちらは何処の隊商の者だ?それとも……野盗かな?」
夕刻、山岳から覗く太陽が草原と街道を赤く照らす中、その間で比較的身なりの良い恰好をした御者風の男に冗談交じりに問いかける。馬車は三台――二台は離れた後方におぼろげに見えた。
護衛兼先方のために離れていた可能性もあり、三台以上いるのかもしれない。
最初はあくまで友好的に接するため、防御魔法を付与された自分一人で対応していた。
目の前の幌馬車の傍には役目を終えた罠が転がっており、馬が少々暴れた後があった。
それについては少し申し訳なく思う。とはいえ旅路での野営は、早くに場所を見つけ暗くなる前に準備を整えるのが常識だ。もちろんこちらにも非がある故、難癖をつけられれば金で解決するのもいいだろう。
慎重に行動した結果、安全を金で買えるのであれば安い物である。
「あ、、アダマンタイト級冒険者!?」
御者の男はまさに驚愕という表情を顔に貼り付け、目を見開いていた。
お世辞にも"品性"や"貫禄"とは無縁、むしろ身なりの良い服を着ているが、まるで服に操られているような違和感を覚える。
フレイヴァルツは男の隠しきれない違和感を見据えていた。
(まるで道化だな……)
アダマンタイト級冒険者として、様々な身なりの者の依頼を受けてきたフレイヴァルツ。
その経験から、この男にはまるで豪商や貴族が着る服を一見すると平民が――それ以下の浮浪者が着ているような違和感が感じられた。
一言言葉を交えてソレに気づいたフレイヴァルツは、男と
「こ、こりゃぁ、失礼しやした。あっしはザックと申します」
「ふむ……私は
「あ!っ、し、失礼しました! あっしらは元王国の商人でして、エ・ランテルの件はご存知ですよね? あ、、あれで慌てて逃げてきた商人なんですよ! いやぁ、野盗なんて冗談やめてくださいよ」
男の早口でまくしたてる言葉の内容には、なるほど違和感はなかった。
王国最大級の城塞都市兼商業都市でもあったエ・ランテル。そこが陥落"死の都"と化したことで帝国に流れて来た者は多い。王国を見限った者、生活の糧や住居を失い逃げ出してきた者、商人、冒険者、ワーカー、浮浪者、中には元兵士や衛兵もいるそうだ。とはいえ道中の噂で聞いただけで、実際この目でそのような人物を見るのははじめてだが。
男の発する聞いたこともない隊商の名前にも、それならば納得ができる。
だが男自身の違和感は拭えるものではないし、その表情と慌てた口調、なにより男の雰囲気が真っ当な商人の生き方をしてないのが伺えた。
(試してみるか……)
「ザックさんと言いましたか? あなた、嘘をついていますね?」
やや語気を強めて断言するように言い放つ。それと同時に腰に装備していたレイピアを抜き放ち、夕日で赤く光る切っ先を男に向ける。その瞬間声こそ発しなかったが、再び驚愕の表情をその顔に貼り付けた。
「な、なにを」
「よければ、先ほどから馬車の中でこちらを伺っている方々を紹介してもらえませんか?」
「ッ、!」
同時に腰を落とし戦闘態勢に入る。
帝国のアダマンタイト級冒険者、そのような人物に会った場合商人ならどうすべきか?
答えは商人ではないフレイヴァルツにもわかる、売り込みだ。これまで散々売られた側だっただけに、切っ掛けさえあればアイテムの贈与や、年若い娘との顔合わせ娼館への招待など、いかにもな誘いには事欠かなかった。それから逃げる足もアダマンタイト級冒険者には必須であった。
王国から逃げてきたばかりの商人なら、新しい人脈作りに躍起になっているはずである。
帝国との違いはあるだろうが、この男にはその商人としての気質が感じられなかった。気質を持つはずの商人が実は後方の馬車に乗っている、という可能性も一応あったが男の反応が答えを示している。
「う、撃てえええええええええ」
悲痛な悲鳴のような声と同時に、幌馬車の前後から刃物が飛び出す。
夕日の光を反射して先端のみ赤く光るそれは――
(クロスボウ!)
馬車の前後からクロスボウを構えた男たちが飛び出すと同時に、空を切る音。
そして正面には布を突き破り、見えない幌の中からフレイヴァルツを狙う矢も数本。
前方斜め左右、そして正面から自分を狙う無数の矢。それらを視認したフレイヴァルツは
――正面へ、真っ直ぐ突っ込んだ。
男達の表情がゆっくりと豹変し、矢が文字通り眼前に迫る空間でレイピアを振るう。
ブレイドの切先――ポイントで最初の矢を下から打ち上げ、次の矢を上段から返し刃元のリカッソで叩き落す。その間に肩に迫った矢を左手のガントレットで防ぎ、頭に迫った矢は首をひねることで後方へ――。
その一連の流れる動きを目を見開いた男達、そして後ろで虚しく空を切る矢が見守る中、フレイヴァルツは勢いのまま幌馬車の空いた穴へレイピアを突き刺した。
「ぐ、ぐわああああわぁぁああ!!」
確かな手応え。続けて連撃の雨のようにレイピアを突き刺す。突き刺す。突き刺す。
「あぎぃ!」「っがあ!」「は、離れろ! 飛び降りろ!」
その声と共に自身も攻撃の手を止め、血に染まったレイピアを抜き放ち馬車の前方にいた男達へ顔を向けた。
「ひッひぃ!」
おそらく相手を油断させるための変装だったのだろう。一人だけ立派な服を着た道化の男は目が合った瞬間、御者台から転げ落ちていった。他の男たちも目を合わせた瞬間、その奥にはありありと恐怖の感情が見て取れたが
「矢を装填しろ!」
「ッ! お、おう!」
「……! ッうおおおおおおおおおおおお」
おそらく隊長役。一人だけブロードソードを構えた男が命令後、怒声と共に突っ込んできた。
反対側馬車後方の確認は、――どうやら仲間たちも参戦したらしい。背後からも男達の悲鳴が聞こえ始めた。
「おらぁあ!」
「っふぅ!」
相手の鬼気迫る剣につばぜり合いで答える。レイピアでブロードソードの一撃を正面から受け止めた。その予想以上の手応えに驚いたのだろう、正面にある男の顔に焦りの色が浮かぶ。
「ッチィ! マジックアイテムか!? アダマンタイト級なんて聞いてねーぞ!」
「狙って襲ったのなら、下調べ不足でしたね。価値のあるものには相応の護衛がつくものです!」
「あぁ、全くその通りだ。お宝を守るのはドラゴン、
「なるほどあの方を狙って……そのお姫様はドラゴンより強いんですがね」
「はぁ!? な、、ッガ!」
相手の集中が乱れる瞬間を見計らい力を抜き、バランスを崩した相手の側頭部に蹴りをいれた。
そのまま倒れた男の背後から矢が二本飛んできたが、一本をレイピアで弾きもう一本を手でつかんでみせた。
(
「う、嘘だろ!?」「ッ逃げろ! あんなの敵うワケねえ!」「ぶ、っブレインさんを呼んで来い!」
慌てた野盗が散り散りに逃げ始める。
倒れた隊長役の野盗にトドメをさしながら、その背中を敢えて見送る。馬車の後方ではトーテムシャーマンのポワポンと、彼が呼び出した四足獣が暴れており問題なく終わりそうだった。その光景に満足していると、背後から見知った気配が声をかけてきた。
「まったく無茶しますねリーダー」
「セーデか、伏兵はいたか?」
「いや、すくなくとも俺の探知した範囲では後ろの二台だけでさぁ。ファンとウンケイが足止めに行ってるんで問題ないっすね」
血のついたナイフを拭きながら小柄な男が答える。
シカケニンでありチームの目でもある彼には、周囲に他の敵がいないか確認してもらっていた。
ナイフの血はおそらく、フレイヴァルツが見逃した野盗を何人か始末してきたのだろう。
「何人ほど逃げた?」
「さぁ十人はいないと思いますがねぇ」
「そうか……なら問題ないな」
それくらいなら大した脅威にはならない。
全員が生き残れるとも限らないのだし、怪我もした者もいるだろう。
追撃して全員殺すのも考えたが、それは帝国では冒険者の仕事ではない。騎士の仕事だ。
それに、今の自分たちはあくまで護衛任務中。追い払うのが第一なのだから。
「では急いでファンとウンケイの加勢に向かう」
「? なんかあったんすか? ファンだけでも今の野盗なら問題ないと思いやすが?」
自らも血のついたレイピアを拭き取り、先ほど聞こえた台詞を思い出しながら「確かにそうだが」と、静かに呟く。一人の野盗が口走った人物の名前、それが妙に引っかかった。
「ブレイン……ブレイン…ブレイン・アングラウスか? いやまさか…」
リ・エスティーゼ王国の剣の天才――ブレイン・アングラウス。
王国最強の剣ガゼフ・ストロノーフに御前試合で敗れたものの、それは死闘の末であり実力はほぼ互角。恐るべき武技を持った剣士。敗北後は姿を消し、噂では修行に明け暮れているらしいが。
(野盗に身を墜とす? いや、ありえるのか?)
それ程の実力があれば騎士でも冒険者でも引く手あまたであろう立場。
仮にブレイン本人であれば、なぜ野盗と共にいるのかフレイヴァルツには見当もつかない。
だが、仮に……仮に本当に野盗のメンバーにブレイン・アングラウスがいれば――
「不味い! 急ぐぞ"暗雲"」
「なにがそんなに……ってその二つ名、ほんっとに! やめてほしいんですが!!」
猛烈に嫌な予感が胸中に浮かぶ。
気づけばポワポンに合図を送り、残りの二人と合流するため走り出していた。
♦
「ッグぅ! 強いね……」
「ファンっ!」
倒れた赤い猿の胸から、その毛並み以上に紅い血が滴り落ちる。
同時にガシャリッという音が周囲に響いた。見れば、ファン・ロングーの手に持っていた
バトルアックス二本が同時に両断され、斧頭の半分が地面に横たわり夕日の光を僅かに反射していた。
――、一瞬だった
サポート役のウンケイが野盗たちの視界を奪い、ファンが縦横無尽に暴れまわった街道の戦場跡にその男はふらりと現れた。
野盗の中で一人だけ刀を携えた男。他の野盗と同じようなぼさぼさの髪の毛、無精ヒゲからだらしなさを伺える。ふらふらと歩きながら周囲の野盗の死体を一瞥した後、ニヤリと二人を見据え無言で抜刀の構えをとった。
笑った力強い茶色の瞳はまさに剣士のモノ、他の野盗などとは別次元の存在。
その事を理解した二人はその男への警戒を、敵対へと引き上げた。その時、
「ぶ、、ブレイン…さん……」
お互い無言の中、夕日と血で赤く染まった街道に野盗の声がひときわ大きく響いた。
「仇は取ってやる、安心して死んどけ」
「……」
「って、もう聞こえちゃいねぇか」
「ブレイン……? …もしやお主、ブレイン・アングラウスでござるか?」
「へ? こいつが王国最強の片割れなのね?」
少なからず驚く二人に「片割れ……ね」と、構えは解かないままどこか他人事のように吐き捨てる男。
「どうでもいいだろ、そんな事。早く殺ろうじゃねえか」
「ま、待たれ! なぜお主が野盗なぞッ」
「ウンケイ、補助魔法をお願いね!」
二人ともお互い言葉は不要と暗に告げていた。
ファンの方はおそらく、強者に出会えた高揚感と相手の固い意志を見抜いたためだろう。
ウンケイの止める間などなく二人が交錯し、何度か切り結んだあと、いったん離れたブレインに突っ込んだファンが血を噴き倒れた。
ブレイン・アングラウスの噂にたがわぬ武技。
ファンの持つバトルアックスを真っ二つにするなど、それ以外考えられなかった。
すぐに駆け付け治癒魔法を使いたかったが、ブレインが油断なくこちらを見据え立っていた。
――仲間が来るまで時間を稼ぐしかない
後衛であるウンケイではどうすることもできない。編み笠に隠れた額と顔に汗が浮かぶ。
殺される一歩手前の状況、咄嗟に思い付いた判断を確認するまでもなく、疑問を相手にぶつけていた。
「なぜお主が野盗などしているのでござるか!」
「……俺の噂を知ってるなら、俺が強くなりたかった理由も察せるだろう?」
「ガゼフ・ストロノーフでござるか?」
「あぁ、野盗っつーかこいつらは一応傭兵団だったんだがな。ここに入ったのは対人戦の修業を積むためだ。あと金払いもよかった、お陰でこの刀も手に入ったしな」
南方の地の従属神を信仰するウンケイには、聞いた覚えがあった。
南方の砂漠にある都市。そこで製造された魔法のかかっていない武器である『刀』。
下手な魔法武器を凌駕する切れ味を誇るその武器は、非常に高額であるらしく滅多にこの地に流れてこない。
ファンのバトルアックスを両断したのは、まさに彼の言う『修行と武器の成果』なのだろう。
だが右手に持ったその刀を掲げるブレインの表情は、誇る感情どころか感情そのものが読み取れない。あえて言うなら虚無感、なにもかも諦めた感情が透けて見えた。
「ようやくだ……ようやく、ガゼフに勝つ力も武器も手に入ったと思った。……もうどうでもいい事だけどな」
「どうでもいい、とはどういう意味ですかな?」
「……倒すべき相手、ガゼフ・ストロノーフが死んだからだよッ!」
今1章を工事中で弄りながら最新話更新してます。この最新話も初期から随分文章の書き方変わりましたな
ブレインvsファンの後半は少し削りました、流石に長すぎたので。
え?ブレインが強いのはおかしい?ブレインさん馬鹿にすんじゃねーこの作品だと大活躍だぞ。
プロットを形にできればですが……
しかし……ガゼフが死んだなんてどうしよう、今後のプロット予定がヤバい(棒