オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
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――翌日、
既に日は高く昼近くになっていた、もっともドワーフ国は日が届かない地下空間にあるのだが。
今モモンガは商人会議長へ同行の確認を取りに向かい
同行するならば見てもらいたい物があると伝え、彼を仕事場から広場へ連れ出していた。
あれからモモンガはヘジンマールが持ってきた本を共に読み、帝国式のマナーを頭に叩きこんでいた。とはいえ今のところはただの一夜漬けである。
銀糸鳥の案内で陸路を進むことはわかっているのでその間に身につければいい。
彼らの話では帝国首都からドワーフ国まで一月近くかかったそうだ。幸い時間は十分にある。
ちなみにドラゴンに乗っての空路、疲れを知らないアンデッドでの移動は彼らに断られた。
どちらも今の帝国の民に不安を与えるとの理由だ。
ドラゴンの脅威はドワーフ国と同じく、上空を飛ぶのは誰であれ不安や恐怖に駆られるらしい。
アンデッドでの陸路も同様だ。今はエ・ランテルが死の都になったのが国中の噂になっている。
元々魔法技術に力を入れている帝国には、アンデッドを使役する魔法にも
ある程度の理解はあった。だがズーラーノーンの悪評を覆すものではないらしい。
(ズーラーノーンか……少しばかり興味はあるけど、気に入らないな)
今のモモンガにとって関係のない都市が全滅しようが死の都になろうが気にする事ではない。
ただ、それが自身に降りかかるのなら話は別である。アンデッドの評判を落として得があるのか。
(アンデッドは便利に使ってこそだろう、現に今だって――)
ちらりと視線を鉱山洞窟のある建物に向ければ、採掘仕事に出向くドワーフ達の後ろをモモンガの呼び出したアンデッドが追随していた。
元王都の復興作業で貸し出したアンデッドが好評となり、今では平時の仕事である採掘にまで使われている。これにより多額のレンタル料なるものが懐に入る事となったが、モモンガにとっては意図しない偶然だ。
ただ『復興作業大変そうだ、恩を売っておくか』などと軽い気持ちだったのだが、作業速度の上がり具合に加えて、作業中に遭遇したモンスターをあっさり倒したのが良かったらしい。
無論モンスターをけしかける様な事はしていない、本当に偶然である。
(ドワーフ国で定着すればこの方法は使えるはずだったんだけどなぁ、賠償金の代わりに貸し出すとかできたのに)
もしくはドワーフ国にとってのドラゴンと同じようにズーラーノーンを潰すかである。
とはいえズーラーノーンの問題は帝国にとって対岸の火事、隣国の問題となる。交易においての影響は大きいが元々が戦争状態だった王国との繋がりだ。エ・ランテルを解放することで名声は得られるかもしれないが、帝国にとっては敵である王国を利する事になるのではないだろうか。
『むしろ王国から流れている麻薬の密輸量が減って相対的には良くなるかもしれません、それに法国との交易路は他にもありますし完全に潰れたわけではないですぞ!』
――というのが銀糸鳥ウンケイの言葉だった。商人でもない冒険者ではあるが、帝国の権力者も同じように考えていた場合、この件でモモンガにできることはないかもしれない。
(そうなると、なんとしてもドラゴンをレンタルする事になる空輸貿易を成功させないと)
「あの? シャルティア様?」
思考に沈んでいたモモンガを商人会議長の困惑した声が引き戻す。
周りを見渡せば既に彼を誘った広場に着いており、周囲の建物からハンマーを打ち鳴らす作業音や
酒場や通行人のざわめきがなかなかに騒々しい。目が合ったドワーフ達が挨拶してくる。
――集中しすぎた……気を付けないと。
軽く手を上げ答えながら商人会議長に向き直る。
「すみません。その、少し考え事を」
「ほう? 私で良ければお話をお聞きしますが」
「……いえ、大したことではないので」
後々相談するかもしれないが、評価を高めたドワーフに今更情けない噂を流されても困る。
「それより見てもらいたい物なのですが」
「ふむ? そうでしたな。それでその物はどちらに?」
答えの代わりにモモンガが手をかざすと変化はすぐに表れ、周囲のドワーフ達が騒めき立つ。
突然広場中央に――見事な馬車が姿を見せた。
ドワーフの技術力でも及ばない細やかな装飾に、槍のような突出した飾りがつきだしている。
全体的に紫と漆黒で多少ゴテゴテした装飾過多に見えるが、帝国貴族などはこういった派手めな馬車を好む。帝国の知識に疎いドワーフにはわかりにくいだろうが、商人会議長には帝国へ赴くのに最適な馬車のように思えた。
「おぉこれも創造魔法ですかな? 見事な馬車ですな、もしやこの馬車で帝国へ?」
「えぇ、帝国内で走らせて問題がないか見て頂こうかと」
「触ってもよろしいですかな?」
モモンガが頷くとペタペタと質感を確かめ、次にコンコンと車輪や壁を叩き始める。
周囲の通りかかったドワーフ達も何事かと集まってきていた。
声をかけて来るドワーフ達に経緯を説明しながら、モモンガは友人の仕事ぶりに密かに感心していた。
(シャルティア用の馬車だろうからコンセプトは吸血鬼かな? いい仕事してますよペロロンチーノさん)
もしくは例のイラストレーターさんかもしれないと考えながら、紫の装飾が施された漆黒の馬車を見つめる。一応ギルド長であるモモンガ専用の馬車を呼び出すこともできた。けれどせっかくシャルティアの体になってるのだからと、この世界に来た時から呼び出せるようになっていたもう一つを使うことにしたのだ。
本来のモモンガ――鈴木悟の感覚では乗るのが多少恥ずかしい派手な馬車だったが、
今の体であれば問題ないだろう。
ドワーフ達の感心したような声と信頼する友人のセンスが自信を持たせてくれる。
「しかしシャルティア様の魔法力はすさまじいですな。あの砦もありますが大丈夫なのですか?」
「え……えぇ、問題ありません。……何故か」
商人会議長の疑問に無難に答えておく。
本来ユグドラシルではクリエイト系の魔法を維持するのにMPを消費し続けるデメリットが存在する。この世界に来て自らのMPが分からなくなったため、このデメリットを利用しておおよそのMP量を図ろうとしたのだが、結果は未だに出ていない。
少なくとも
(世界を移動したことが理由か? それともシャルティアの体になったせいか)
プレイヤーと思われる神話の伝説については、ドワーフ国でいくつか耳にしていた。
ただ書物に記録された物語では、プレイヤーの事情や詳細な能力などはあまりわからない。
(よく考えたらこの世界に転移したプレイヤーが、みんな俺のようになっていたら……)
最初は合体したことに戸惑ったが、MPを始めとした能力の向上に喜んだりもした。
友好的か敵対的かわからない他のプレイヤーを捜そうと思ったのも、この保険があればこそだったがアドバンテージが転移したプレイヤー全てに作用していれば、敵となった場合厄介となる。
(でも俺のように異性のNPCと合体して困ってる奴とかいれば、仲良くなれそうな気がする)
「あのシャルティア様? 室内を見てもよろしいですかな?」
再び思考に没頭しそうになったモモンガに、扉の取っ手に手を掛けた商人会議長の声が届く。
――考えることが多いとは言え、我ながら学習能力がないなぁ。
他に考えてくれる部下が欲しい、切実に。と内心愚痴をこぼしながら馬車へ向かう。
おそらくシステム上扉を開けることができないのだろう。
馬車を囲っていたドワーフ達が次々とモモンガに道を譲り、馬車までの道があっという間に開く。
その光景に軽く笑いつつ馬車の扉へ向かう。
以前ドワーフの王城で見かけた巨大な扉にも負けない、細やかな装飾が施された扉だ。
描かれている絵が抽象的でよくわからないが、女性が幾人も描かれている。どうやらモンスターと戦っている様子を描いているらしい。
着ている鎧がペロロンチーノの趣味に走り過ぎてるな~と苦笑いをこぼしてしまう。
とはいえ見た目としては神秘的さを兼ね備えた絵なのでいやらしすぎることもなかった。
世界を越えてもかつての友人の性格に懐かしさを感じつつ、取っ手に手を掛け開いた。
――なんで馬車の中に拷問家具があるんだ……。
DMMO-RPGユグドラシル。
過去にモモンガが人生を注いだといっても差し支えないこのゲームは、十八禁的行為は一切禁止である、下手をすれば十五禁行為も禁止。
ただNPCキャラクターの設定などはかなり自由を許されており、シャルティアの性癖SMと『
なのでNPCキャラクターの設定上許される拷問部屋用家具も、データクリスタルで一応作る事は可能だ。ただあくまで装飾家具なのでユグドラシル内では拷問するために
プレイヤーにとってはあくまで設定を彩る
――そんな物がなぜ馬車の中に設置されているのか?
(え~っとこれはシャルティアの馬車で、つまりはペロロンチーノが関わってる事は確実で……)
モモンガは紅いルビーのような瞳を見開きユグドラシルのシステム通り、馬車の外観から拡張された広めの室内を凝視する。信じられない物を見るようにじっくりと。
まずは正面には豪華な椅子と机がある。
これはいい、机の上に装備武器である長い鞭が転がっているのが気になるが。
そして机を挟んだ先には問題の拷問家具、どことなく三角っぽい木馬があった。
しかも無駄に二台置いてある。一見無造作に見えるがその下にロープが、こちらも二本置かれている。長いものではなく丁度机と木馬の先ほどであった。
(…………? …………! …………そうか…………ってええ!?)
この世界に来て初めての大きな衝撃に精神抑制が作用する。
つまり、拷問家具を使ってソレっぽい部屋を、いや馬車の中を作ったという事だろう。
当たり前だが、幸い未使用なようでそれ以外特に変わった物はない。
(うわぁ…………マジかペロロンチーノ…………)
まるで友人の部屋でエロ本よりすごいアレなアイテムを見てしまった衝撃だ。経験はないが。
彼の性格は一応知ってはいたが、実際に見るダメージはモモンガの心をざっくざっくと削る。
全てを理解したモモンガは無心となり、改めて入り口から身を乗り出し検分する事にする。
真の意味が判明した家具は置いておき、周囲の一見普通の家具にも慎重に視線を走らせる。
室内はさらに厚手のカーテンで奥が隠されており、モモンガの本能がその先が危険だと警鐘を鳴らす。さらにクローゼットの窓越しに見えてしまったナース、メイド、バニー等々のコスプレ衣装は努めて無視した。
見渡すと家具の上に置かれた人形――複数のフィギュアに目が留まった。
一応公式の物で女性キャラクターをモデルにしたものだったが、その背後には何故かローパー系のモンスターがところ狭しと置かれて――
「あのぉ……シャルティア様?」
――ッバタン!!
あまりの光景の数々に背後のドワーフ達の気配を忘れていたモモンガであったが、今すべきことを理解しすぐさま扉を閉める。力を籠めたその衝撃で片側の車輪が浮き上がったが構わない。
すぐさま飛び降り馬車の下へ体を潜り込ませると、
シャルティアの筋力に任せ、スカートが舞うのも構わず思いっきり馬車を蹴り上げた。
周囲を囲んでいたドワーフ達は、轟音と衝撃波を同時に受け軽く吹き飛ぶ。
一瞬広場の中心から光の柱が伸び外壁――地下空間の壁にぶつかったがそのまま突き破り地中を伸びていく。
使い魔と同じような繋がりから馬車が無事に山を飛び出し、そのまま砕け散り光とともに霧散したのが感じられた。もう二度と魔法で呼び出すことはないだろう。精神が抑制されると同時に安堵の息が漏れる。
ぶつかった外壁から落盤が発生したが、慌てて飛び出し地面に落ちる前に魔法で粉々に処理していく。
だが空間全体に轟音が反響し、広場を中心にドワーフの都市全体が騒がしくなってきてしまった。建物から飛び出したドワーフ達が周囲を見回しているのが見える。
少し申し訳なく思うが、あれはなにがあっても表に出してはならない類の物だ。本人の為にも。
しかし思わず物理的に破壊してしまったが、冷静に考えれば魔法を解除するだけで良かった。
『急いで隠さなければ』と本能的に慌ててたとはいえ盛大な反省点である。
(馬車の中が馬プレイルームってどういう事だよ。……つーかペロロンチーノ……ドン引きだわ)
ドワーフ達にする言い訳を考えると同時に、姉にしばかれる本人を思い出し
久々の精神の起伏による懐かしくも心地良い疲労を感じながら、盛大な溜息を吐いた。
シャルティア専用の馬車なんてあるのかな?ペロロンチーノさんなら
馬車の中で馬プレイとかシャレに突っ走ってくれそうという私の妄想です。
ユグドラシルはR-18禁止なのでただの飾りですが。
ペロロンチーノさんの逸話に関してはWikiなどに纏められているので、一度調べてみると面白いかもです。
次回は帝国へ出発です
というか次回はたぶん出発後の道中からです、話進めなきゃ義務感
次話投稿は……GW(リアルを取るのは、仕方のないことなんだ)