オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記   作:ほとばしるメロン果汁
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 当初から前提となる設定(最初の転移場所など)が変更されていますが
三話で触れたとおりズーラーノーンも、王国貴族の繋がりなどがあり前提が少し変わってます。

 作中で説明しておりますが、念のため後書きでまとめておきます。(Web版必読)
後々モモンガ様も関わってきます、しばらくはドワーフ国~帝国なのでかなり先ですが。


『ズーラーノーン』

「いい加減にせぬかッ! クレマンティーヌ!!」

 

 地下神殿の地下広場、照明に照らされた薄暗い空間に怒声が響く。

 

 ンフィーレアが通路に消えてから既に半刻は経っているにも拘わらず、未だに広場には狂人の女の笑い声が響いていた。

 

 何も知らない人間が見れば、アンデッドのような姿をした男の怒声に腰を抜かし、

怒声を浴びているにもかかわらず、崩れ切った顔のまま地面を転げまわり、嘲笑を周囲に響かせる女の異様な姿に恐怖を覚えただろう。

 

「――はっはっはぁぁぁぁいや、だってさカジッちゃん、うっぷぷっひゃっひゃあーっは、

 あーもう笑い死にそうだわ。……ふぅ……よし! もう大丈夫。……うぷぷ

 ……でもどうせならあの子、私に憎しみを向けてくれたらなー。面白いのに~」

 

 立ち上がり、土を手で払い落しながら呟く、女のいつもの狂言にカジットはため息をつく。

いつもはまだまともに見えるマントの下の姿は、今回に限り狂言の内容と一致していた。

 

 体中についた土もそうだが、爪や防具で抑えたため女の腹は赤い傷が無数にひかれている。

見た目は痛々しい。だがこの女は自身の体のことなどより、自らの欲を満たすために動く。

 

 そして欲望に対する最良の結果が得られた今、女の機嫌は最高といって差し支えはないだろう。

 

「ふんッ! ……返り討ちにした後、真相を教えながら拷問しようという腹積もりなのだろう?」

「うわーばれちゃってる。流石カジッちゃん話がはやーい」

「チッ! 貴様の下らん趣味に付き合わせおって。いらぬ演技をしたわ」

「えーでも私頼んでないじゃ~ん。カジッちゃんが察して付き合ってくれたんでしょ?」

「最後まであの小僧を踊らせなければ、貴様は機嫌を悪くしたであろう?

 これ以上の面倒を増やされてはかなわん」

 

 カジットは大きく顔を歪め、目の前の女を睨みつける。

 

「これで大方の準備は整ったのだ、クレマンティーヌよ。

 儂はこの街を死の街へ変えるために数年を準備に費やしてきた。

 その計画を駄目にするような厄介事を、これ以上起こすようであれば……」

「あーわかってるって、死の螺旋だっけ? アンデッドになりたいなんて変わってるね」

「ふんッ、お主のような性格破綻者に言われたくはないな」

 

 アンデッドが集まる地には強いアンデッドが現れ、さらに強いアンデッドが集まれば、

より強力なアンデッドが生まれてくる。その現象を利用した魔法儀式”死の螺旋”。

カジット自身の狙いはその現象から生じる負のエネルギーによって、自身が死者の大魔法使い(エルダーリッチ)

となり不死ともいえる時間を手に入れる。その得た時間で必ず――

 

「で、この街の次は帝国首都だっけ? なんでまた?」

 

 先ほどまでの邪悪を漂わせた笑顔は消え、まるで弟子が教えを乞うような態度を見せる女、

クレマンティーヌを目にしてカジットは逆に警戒する。この女は従順な態度を見せた瞬間が逆に危険だと、この数日で理解させられたためだ。

 

「……この街だけで負のエネルギーが足りなかった場合の腹案だ。それに帝国首都の地下教団に

 魔法学院の学院長を務めている者がいる。学院での儀式準備を問題なく進めているそうだ」

「えぇー、それって数年もエ・ランテルで準備したカジッちゃんの立場がないんじゃな~い?」

「黙れッ! 王国と違って帝国首都であれば様々なマジックアイテムが流通している。

 大方金や地位を利用してそういった物を集め、利用しているのであろう」

 

 従順な態度のままの笑顔の裏を読み取り、カジットは先程と同じ怒声を浴びせる。

だが効果がないのはその表情を見ればわかった。

 どの道帝都では叡者の額冠(えいじゃのがっかん)の一部となった、ンフィーレア・バレアレが必要なのは間違いない。何もない数年前から始めたカジットとは違うのだ。

 

「……あの者達の目的も儂とほぼ同じだ。学院長ともなればフールーダ・パラダインに及ばずとも、それなりに知識はあるのだろう」

「あいつらの目的って『不老不死』だっけ? でもアンデッドとは違うんじゃないの~?」

「それで妥協した者達が儀式の賛同者なのだろう。

 それに鮮血帝に抑え込まれている貴族には不満もあるのかもしれん」

 

 後半はあくまでカジットの予想だ。生憎彼にとっては権力者など利用する対象でしかない。

 

「あーそういえば適当な儀式で人間を殺させていたね。それが鮮血帝に見つかったら

 今度は自分達が血祭とか~?」

「……なるほどな、そう単純に考える者もいるかもしれん。

 それで皇帝ごと帝国首都を死の都に変え、自分はアンデッドになるか」

 

 だとすれば滑稽だ。帝国にあるズーラーノーンの下部組織ではデタラメな儀式をさせ、所属する貴族達に人間を殺させていた。だがそれは単純に貴族達の弱みを握るためのもの。カジットが指示したことではないが、それがこういった形で作用したとなれば思いがけない収穫となる。

 

「帝国はそれでいいけどさ~、王国の方は大丈夫なの?

 自分たちの街が死の都にさせられたら攻め込んでくるでしょう?」

「むしろそれが狙いだ、エ・ランテルに近い貴族派閥は幾人か首輪をつけてある。

 そやつらだけに先走らせ、できるだけ時間をかけこの都市を攻めさせるのだ」

「ん~?」

 

 それになんの意味があるのか? 首を傾げながら表面上は可愛らしく目で訴えかけてくる女に

カジットは油断なくローブに手を入れ、黒い石を握りながら答えようと――

 

「ん~、わかった! 帝国の目をできるだけエ・ランテルに向けさせてるためでしょ?」

 

 どうだ? と、先程と一転し今度は胸を張りながら偉そうに答える女に、

カジットは普段とは別類のいら立ちを抱くが、時間の無駄を省くため話を進めることにする。

 

「……そうだ。帝国と王国の戦争は国境線、主にエ・ランテルを巡って起きている。どさくさにエ・ランテルを占拠できる可能性が出てくれば、目を向けるどころか大規模な軍を送り込むかもしれん」

 

 少なくともカッツェ平野の帝国拠点の防備は増やさざるをえない。なにせ国境にアンデッドの都ができるのだ、どう考えても防衛力を強化するために軍を動かすだろう。攻めるとなればそれ以上の軍を動かすことになり、帝都の守備が甘くなる。そして教団に所属する帝国上層貴族を誘導し、守備の穴を広げればいい。

 

「でも、フールーダはどうするの~?

 空から魔法の雨でカジッちゃんのカワイイアンデッドが殺されちゃうよ」

「そこはクレマンティーヌ、お主の出番だ。儂が召喚した骨の竜(スケリトル・ドラゴン)と共に

 帝国の三重魔法詠唱者(トライアッド)を墜としてもらう」

「え~人任せ? ……まぁ帝国最強の男を殺せるなんて面白そうだけどさ~」

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は使い捨ての盾にして構わん」

 

 言われなくてもそうするだろうが、念を押しておく。この女にはできるだけフールーダ・パラダインを引き付けて貰わなければならない。その間にカジットはアンデッドを引き連れ帝国魔法省の最奥へ赴くのだ。そこには推定難度百以上のアンデッド『デス・ナイト』が厳重に封印されている。

 

 その報告を聞いた時の歓喜は今でもよく覚えている。封印されているのなら封印を解けばいい、

支配する必要などないのだ。その際帝都は死の螺旋が発生している、そこでデス・ナイトを暴れさせれば死の螺旋は完遂したも同然であろう。

 

「そして喜べクレマンティーヌ。お主は帝国と王国、両国の最強の男どちらも倒してもらう」

「……カジッちゃんってば人使い荒くな~い?」

「ガゼフ・ストロノーフを足止めしていた貴族から連絡があった。

 おそらく今日か明日にでもエ・ランテル近郊へ着くとのことだ」

 

 ンフィーレア・バレアレの生まれながらの異能(タレント)を手に入れたことに後悔などない。

だがバレアレ家は有力者との繋がりも深い。エ・ランテル内が騒がしくなり、様々な場所が捜索されるはずだ。普段から人気のない墓地など、人を隠すには最適な場所。ゆえにこの地下神殿も発見される可能性がある。

 

 捜索に来た者を殺しても、多少の時間稼ぎにしかならないだろう。

幸いエ・ランテルにアダマンタイト級の冒険者はいないが、人数に限れば他の大都市に引けを取るものでもない。最良の手段を手に入れたのと同時に、時間制限も手に入れてしまったのだ。王国最強の戦士が来ようが、アンデッドの活動が活発になる今日の夜以外に最良の日はない。

 

「ふ~ん、王国最強の戦士をいたぶれるのは楽しみだけどさ~」

 

 瞬間、今までの取り繕っていた笑顔の仮面が消えうせ、残酷なものが走ったのをカジットは見抜く。腰から抜いたスティレットを見つめながら、細められた目に殺意の色が濃く現れ――

 

「……全部終わったらその貴族殺すよ」

「全てが終われば元協力者(・・・・)だ、ズーラーノーンの者でなければ誰を殺しても構わん」

 

 




・ズーラーノーンの設定
 ズーラーノーンは鮮血帝によって安定している帝国の貴族に繋がりがあるのに(Web版)
凡人ランポッサと貴族&八本指で腐敗してる王国に組織ないのおかしくね?
と思い、王国貴族との繋がり設定を作りました。(+帝国の邪神崇拝組織が有能化)
本来は八本指が王国の裏世界を完全に支配しており、手を出せなかったのかもしれません。


・ガゼフの設定
 ガゼフ・ストロノーフはアインズ様と出会わなかった場合
陽光聖典との戦闘で高い確率で死ぬはずです。ニグンの切り札にドミニオンもいますし、蘇生魔法対策に死体も念入りに処分されそう。

 エンリは転移場所が変わったため死亡、ンフィーレアに影響を残す話を思いつきましたが
ガゼフが死亡した場合の良いif話を思いつけませんでした。(本当に申し訳ない)
 むしろ今後のストーリーでガゼフ自身にして欲しい事もあったので、
強化されたズーラーノーンに足止めされたためエ・ランテル近郊への到着が遅れた=生き残る(でもクレマンティーヌと戦って死ぬかも)設定としました。

9巻によると陽光聖典の襲撃はナザリックが転移するけっこう前から、カルネ村以外にもあったようなので…
今後彼もアインズ様と接触させるため、ご容赦お願いします。


これ以上の前提設定変更は予定していません。
エ・ランテルはここまで、次回はデブゴン視点。


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