オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記   作:ほとばしるメロン果汁
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ンフィーレア回です(作者の好きなキャラです)
今後に大きく関わる話なので遅れました。(とは言え関わるのはかなり先なんですが)

お知らせ:すみませんR-15必須タグ忘れてました。


『少年の復讐劇・開幕』

 モモンガがシャルティアとして転移したアゼルリシア山脈より時をさかのぼって遥か南方、広大という言葉でも足りない広さを持つ魔境、トブの大森林。

 それをさらに越えた先に人間種の支配する堅牢な城砦都市がある。

 

 城砦都市エ・ランテル。

リ・エスティーゼ王国に属し

隣国であり西に位置するバハルス帝国

やや離れているが南方に位置するスレイン法国

 

 この三国の交通の要衝として様々な物資情報が往来する重要拠点でもある。

 

 その立地故か、自然と人も金も集まり王国有数の商業都市として栄えており、同時に戦争中である帝国との最前線の城塞都市として外敵の侵略に備えていた。

 

 三重の城壁に守られた城塞、ただそれはあくまで外敵に対する物。

「身体に内包してしまった毒物という敵には弱いのではないだろうか?」

共同墓地に隠されていた暗い階段をフラフラと危なっかしく降り、チャラチャラと金属のすれ合う音を響かせる女の背を見ながら、ンフィーレア・バレアレは考えていた。

 

 

 ……女を信用などしていなかった。

 

 ただ『復讐』という言葉に惹かれただけだ。

 

 自分が今冷静でないのは理解している。

 

 家から飛び出す際に見た、祖母の顔は忘れられない。

 

 血に染まったエンリを抱きしめた感触も一生忘れられそうにない。

 

 自分がここにいる理由はそれを――

 

 

「どしたのー?どっか気分悪い?顔が真っ白だよー」

「……いえ」

 

 足を止めこちらを振り向きニコニコと問いかけてきた女――クレマンティーヌに、つい気のない返事を返してしまう。

 信用してはいないが、並の冒険者よりも強い女なのは間違いない。なにせバレアレ薬品店から

ンフィーレアを抱えて最後まで走り回ってきたのだ。街中の人間が何事かと驚きの目を向ける中、『漆黒の剣』のリーダーペテルの追跡を人を抱えながら振り切るのは、並大抵では不可能だろう。

 

 悠々と楽しそうに走り、最後には墓地を囲む大人の背丈を優に超える外壁を飛び越えてみせた。

 

 それでいて息一つ乱さず笑っているのだから

戦士ではないンフィーレアにも凄まじさが理解できる。

 

 そういった装備の類を所持しているのかもしれないが、それは裏を返せば

相応しい実力があるか、強力な後ろ盾を持つ可能性がある。抱えられている間

体を覆ったマントの中から、普通の鎧とは違うけたたましい音がしたのでその効果かもしれない。

 

「うわーマントの下が気になるのー?」

「……」

 

 女が自らの体を両手で抱きしめる仕草をしながら笑顔を向けて来る。

だが目を細めて口を耳元まで裂いたような笑顔はむしろ気味が悪い。普段のンフィーレアであれば

その雰囲気に少しは怯えてしまうかもしれないが、今は頭が冷えきっており何より目的を優先していた。

 

「からかわないでください。それよりその、カジットさんという方に会わせてください」

「っちぇー、可愛くないなぁ~」

 

 気味の悪い笑顔から一転、唇を尖らせ面白くなさそうに顔を背け階段を降り始める。

暗くかび臭い地下へと続く階段に、再び二人の足音と金属音だけが響く。

 

(機嫌を悪くしたかな……?)

 

 ンフィーレア自身に女心はわからないし、今の荒んだ心の中では優先することでもない。

だが、道中で聞いた彼女の所属する組織や人間に会って話を聞かねばならない。そのための案内でヘソを曲げられてはたまらないのだ。

 

 本当に帝国と事を構えるのか、組織力と実力、両国の貴族に仲間がいるという人脈、確かめたいことはキリがない。

 仮にそれらが揃っていればンフィーレアは自ら参加するつもりだ。どんな組織かは関係ない。

エンリの仇をとれるのであれば、もし悪名高いズーラーノーンでも――

 

「ねぇねぇ、帝国(・・)にぃ~、殺された片思いの女ってどんな娘だったの?」

「……」

 

 唐突な質問に女と合わせていた歩調が僅かに遅れる。同時に規則的に揃っていた足音の乱れが耳に届くが、思考が一色に染まりそれどころではなかった。

 数日の間に抑え込んでいた後悔と憎しみが溢れそうになり、頭を左手で抑える。同時にふらつき始めた体を壁に添えた右手で支えた。

 

(なんで今聞くんだ!?)

 

 そんな状態でも胸中で毒づき、前髪から覗く視界から睨みつけるが、同じく足を止めた相手は

気にしないとばかりに先程と同じ気味の悪い笑顔をむけてきた。

 

「だって気になるじゃ~ん。それが君のここに来た理由、なんでしょ?」

「……」

 

 答える気になどならなかった。彼女自身も、両親も妹も村も彼女に繋がるものは全てなくなってしまった。

 

 好きだ。愛している。

本当に今更だ。定期的に薬草を取りに行くたびに、理由をつけては会いに行っていた。

 何度も言う機会はあったのに、もし拒否されたらという恐怖がンフィーレアを怯えさせ、何も言えないまま友人として死んでしまった。

 

 街で働かない?おばあちゃんのお店でもいいよ。僕もいるし。

告白する勇気がなくても、せめてこれくらい言えばよかった。本来はモンスターに対する備えが必要な開拓村のはずだが、森の賢王の縄張りに近いため村が襲われたことは一度も無かった。逆にそのせいで油断してしまったのだ。

 帝国兵が盗賊のように村を襲うなんて、自分も村人たちも誰も思ってもみなかった。

エンリを殺した帝国が、そして何もしなかった自分が許せなかった。あまりの悔しさに顔が歪みそうになる。いつの間にかギリギリ、と奇妙な音が薄暗い地下空間に響いていた。

 

「ふ~ん、やっぱりいいやぁ。ごめんね~」

「……」

 

 思ったより表情に出てしまったのか、クレマンティーヌは興味深げに覗き込んでいた表情を消し軽快に階段を下りていく。

 

「うぷぷぷ、もう着くからさ~。後で聞けたら聞かせてよ」

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

「たっだいまぁー、カジっちゃん。今帰ったよ~」

 

 階段を降り通路を進んだ先に広い空間が作られていた。壁は変わらずほとんどが岩盤だったが

柱は地上の神殿などでも見られる立派な物で、頂上に悪魔のような像が乗っており

柱の側面には薄暗い照明がある。部屋の中央にある台座の上には魔法陣。その傍に――

 

「グガァ……ッッカカカッカ!」

動死体(ゾンビ)!?」

 

 最下級のアンデッド動死体(ゾンビ)が無造作に立っていた。動きが鈍くンフィーレアでも十分に勝てる相手だが、墓地とは言えここまで人の手が入っている地下空間に自然発生するとは思えない。

 そうなるとここの主が人為的に作った物かもしれない、攻撃するのはためらわれた。

 

動死体(あれ)は、ひょっとしてカジットさんの?」

「あったり~。ん?でもあんな個体いたっけ?新しいのかな?」

 

 はて?と、首をかしげる女を横目で見ているとその背後の通路から、黒いローブを身につけ

アンデッドと見間違えそうな白い手と顔を持つ男が顔をのぞかせた。黄色の汚い爪の生えた骨と皮だけの腕の先に、黒い杖を持っている。

 

「お主が遊んだ情報屋だ。クレマンティーヌ」

「あぁ~。カジッちゃんごめんねー。でも、お使いの方は大成功だったからさ。許して」

 

 ペコリと軽く謝る女、だがそれが見せかけなのは会ったばかりのンフィーレアでもわかる。

カジッちゃんと呼ばれた――カジットと思われる男が舌打ちを鳴らし大きく顔が歪む。

おそらくこのようなやり取りは初めてではないのだろう。病的な顔からはいら立ちが見えた。

 

「……あのお話し中すみません、あなたがカジットさんですか?」

「ほう、いかにも。ズーラーノーン十二高弟の席を預かっているカジットだ」

 

 ズーラーノーン、巨大な力を持つ盟主を頭にこの大陸でいくつもの悲劇を生みだした組織。

死を隣人とする邪悪な魔法詠唱者(マジック・キャスター)達が集まる秘密結社。

 

(やっぱり、でも本当に帝国と戦う方法を持っているなら――)

 

「クレマンティーヌさんが言っていました、あなたたちは帝国と事を構えるって」

「……クレマンティーヌどういうことだ?」

 

 興味深げにンフィーレアを見ていた目が方向を変え、また厄介事を持ってきたのかと言いたげにクレマンティーヌを睨みつける。

 

「ほらー、最近エ・ランテルの近くの村がて・い・こ・く(・ ・ ・ ・)にぃ~襲われたって

 知ってるでしょ?知り合いが殺されちゃって~、その復讐をしたいんだってさ。うぷぷ」

「? 貴様なにを言って――…なるほどな。趣味の悪い事だ」

 

 病的な顔が歪む。先程と違いおそらく笑ったのだろうが、

くぼんだ目を持ち上げ土気色の頬が緩んでも、アンデッドが邪悪に微笑んだようにしか見えない。

 

 その邪悪な顔のままンフィーレアに視線を戻す。

 

「帝国と争うには不可欠なアイテムがある、強力だがそのアイテムがとんだジャジャ馬でな

 貴様に接触を図ったのもそのための『生まれながらの異能(タレント)』が目当てだ。

 ……そうだな、これ以上はそのアイテムを実際に使ってみてもらわなければ話せんな」

 

 つまりそのアイテムを彼らの思った通りに動かせれば、帝国と戦える可能性が出てくる。

強力なアイテムならンフィーレア自身を守る事にも使えるはずだ。所持できればズーラーノーン相手に交渉もできるかもしれない。

 

「僕の望みは帝国と戦ってエンリの仇を討つことです。

 そのアイテムを僕が使うことができれば、あなた達の力と計画の全貌を教えてくれませんか?」

「ふふ良かろう、神器とも呼ばれる叡者の額冠(えいじゃのがっかん)だ。帝国を滅ぼすこともできるかもしれん。

 貴様がその効果を自在に使えた後で良ければ、全てを話そうではないか。付いてこい」

 

 顔を益々歪ませ、声で判断すれば上機嫌に道案内を申し出るカジットについて行く。話していた広場からさらに奥の通路に案内されるようだ。

 

「クレマンティーヌさんはいいんですか?」

「あれはこの後忙しかろうて、お主もわかっただろうがあれは性格破綻者だ」

 

 関わらない方がいいと暗に告げられる。後ろを振り返ればお腹を押さえ、なにやら我慢できないと震えているように見えた。顔を下げてるため表情は伺えないが、道中で見せた不気味な笑顔が脳裏をよぎる。

 

「早く付いてこんか」

「す、すみません」

 

 慌てて通路の奥へ進む。岩盤の壁だった先ほどまでとは違い、石壁の通路が続いていた。

いかにも貴重品を仕舞っていますよ、とでもいいたげな豹変ぶりだ。薄暗いのは相変わらずだが。

 

 しばらく進むと背後から笑い声のようなものが、僅かに響いてきた。

 

 

 

「くっくっくっくっくっくっくっ・・・・・

 くくくくくくくくく・・・・・・・くっくっくっくっくっ・・・・!!!

 あーーっはっはっはっはっはっはっはぁぁぁぁ!っぷひゃあああーーアーもうさいッこおおおおッなあにあのこおおおおおおおおお、やったのは法国だってばあっひゃっひゃっひゃ――」




すいません、次回もエ・ランテルです
ンフィーレア君についてはまぁ安心して下さいとしか今は言えません(流石にこれは不憫過ぎる)
これで終わったら作者も泣く


リイジーお祖母ちゃんの言う様に時が経てば
半ば諦めのような心境で傷が癒え、普段の生活に戻ったかもしれません。

でもそれは帝国相手に『敵討ちなんかできるわけない』という逃げる言い訳です
そんなンフィーレア君を復讐に導いてくれる聖女クレマンティーヌ様でした。


叡者の額冠(えいじゃのがっかん)
 その効果は『着用者の自我を封じる』ことで――あ・・・


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