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(なつ)今年の新入社員で演出助手の坂場って人 知ってる?
(桃代)ああ 東大出身の?東大?
(坂場)アニメーションにしかできない表現…。
子どもが見てワクワク ドキドキするような。
子どもが見るものだからリアリティーは無視してもいいということですか?
哲学を専攻してたって。
哲学?
どうしてですか?はっ?
どうして こういう動きになるんですか?えっ…。
坂場一久です。何を言ってるんですか?
ねえ モモッチ。うん?
ひよどり何とかの… さか落としって知ってる?
何? それ。と なつが何だか分からないことで悩んでいたそのころ。
(雪次郎)21番 小畑雪次郎です。
よろしくお願いします!
(咲太郎)それじゃ ピアノの音を聴いてイメージしたことを自由に 体を使って表現して下さい。お願いします。
♪~(ピアノ)
あ え い う え お あ おか け き く け こ か こ…。
ここにも どこに向かっているのか分からないやつが 一人いました。
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
ペチカ!
俺は お前を 川下のやつらには絶対に渡したくはない!
こうなったら…川下のやつらと 戦をするぞ!
ううっ…。
ペチカ ペチカ… ペチカ!
俺は 何てことをしてしまったんだ…。
自分のことばかりを考えたばっかりに…。
(雪次郎)許してくれ… 許してくれ…。
許してくれ~!
雪次郎の乱が ひそかに始まっていました。
えっ ここ? 川村屋でしょ?
そう。なっちゃんが むしゃくしゃしてるから遊びに つきあってあげようとしたのに川村屋?
いいじゃん。 ここで モモッチとバターカリー食べたかったの。
行こう。
(ドアが開く音)(野上)いらっしゃいませ。
こんばんは。何だ。
何だって… お客ですけど 一応。
今日は 友達も一緒です。
さようでございましたか。
また派手な格好して。
目がチカチカします。
あっ!(佐知子)なっちゃん いらっしゃい!
佐知子さん こんばんは。
2人です。 会社の友達の桃代さんと。
こんばんは。こんばんは。
お席に ご案内して。はい。
どうぞ こちらへ。
あっ! なっちゃん あれ…あれじゃない?あっ あれ…。
(佐知子)どうしたの?
佐知子さん あの人 よく来るんですか?
あの人。
さあ… 知り合い?
いや… おんなじ会社の人です。
じゃ 同じ席にする?いえ いえ いえ いえ…。
そうしましょうよ。は?
えっ ちょっと!
こんばんは。
こんばんは。
ああ どうも。
こちらのお客様も ご一緒でいいですか?
あっ… いえ…。いいですか?
どうぞ。どうも。
私は 仕上課にいる森田桃代です。
モモッチ…。
すいません 失礼します。
ご注文は?バターカリー2つ。
かしこまりました。
なっちゃんが あなたに何か聞きたいことがあるそうです。
えっ…。モヤモヤしてること聞いちゃいなさいよ この際。
何ですか?
あっ いや 別に…。
どうして ここにいるんですか?
どうして?
新宿に 本を買いに来たからです。
わあ こんなに…。
すぐに読みたくて この店に入りました。
あっ… ここ前に 私が働いてたお店なんです。
そうですか。 それで?
それで?
僕が ここにいることとあなたが この店で働いてたことは単なる偶然じゃないんですか?
偶然だと思います…。
だったら どうして ここにいるのかと驚くようなことじゃない。
それだけのことですよね?
それだけのことです。すいません。 もう いいです。
なっちゃん…。こういう人なの。
なるほどね…。
カリーパンですか?バターカリーは食べないんですか?
なぜ?なぜって…。
いや 何でもありません。
ここの名物ですからね。
しかし ちょっと値段が高すぎる。カリーパンでも ぜいたくです。
分かってるんじゃないですか。面白い…。
あなたたちのバターカリーを見学させてもらいます。
あっ 私の半分 食べて下さい。
結構です。 パンで十分です。
あっ!
あっ!
あっ ちょっ ちょっ… あの これ。
すみません…。
あっ…。
本当に ぶきっちょなんですね。
はい…。
不器用が いいと思ったことはありません。
だから 僕には あなた方のように絵は描けません。
絵を描けるということは本当に すばらしいことだと思います。
あの どうしてアニメーションを選んだんですか?
どうして?
映画が好きなら普通の映画だってあるし絵を描かないのに どうして漫画映画を作ろうって思ったんですか?
思ったんです。
アニメーションは子どもに夢を与えるだけのものではなく大人にも夢を与えるものだと思ったからです。
大人の夢… ですか?
フランスのアニメーションでアンデルセンの童話を原作にして戦争を描いたものがありました。
戦争を?
ナチスドイツを思わせる独裁的な力から人々が解放されて自由になる話を子どもが見てもワクワク ドキドキするようなアニメーションの語り口を使って描いたんです。
そんなことのできる表現方法はほかにないと思いました。
しかし 残念ながら そういう可能性がアニメーションにあるとはまだ世の中には思われていないようです。
それじゃ…アニメーションにしかできない表現って何ですか?
坂場さんは 何だと思いますか?
アニメーションにしかできない表現?
そうですね自分の考えしか言えませんが…。
はい。
それは…。
(光子)なっちゃん。えっ?
マダム…。ごめんなさいね お話し中に。
どしたんですか?
ちょっと。 ちょっと来て…。
ちょっと ごめんなさい…。
どうしたんですか?
さっきまで ここで話してたんだけど…雪次郎君が 急にここを辞めるって言いだしたのよ。
えっ!? 雪次郎君が どうして?
何でも お芝居をしたいからって。
えっ?劇団の試験を受けたんですって。
劇団?
誰かのいる劇団ですよ。
えっ… お兄ちゃんのですか?
その誰かに唆されたんじゃないですか。
そんな…。
そうは思えないけどきっかけには なったかもしれないわね。
止められそうにないのよ 私では。
雪次郎君…。
雪次郎君!
なっちゃん どしたの?
どしたのじゃないっしょ!今 話聞いたわ。
咲太郎さんからか。えっ…。
ちょっと… お邪魔します。
えっ… ねえ ちょっと どういうこと?お兄ちゃんのせいなの?
違う! 咲太郎さんに言われたわけでねえ。
じゃ どして!?本当に劇団に入って 役者になんの?
劇団に受かればね。
えっ… まだ受かってないの?
今日受けたから 結果は まだ出てねえ。
えっ ちょっと… 待って…。受かってもないのに何で ここを辞めるなんて言ったの?なっちゃんだって同じだべ。
何が?
受かる前に 酪農をやめたんでねえか。
だって それは…。決心するって そういうことだ。
俺は決心したんだ。
帯広のおじさんと おばさんとよばあちゃんには 何て言ったの?
それは まだ これからだ。
なして! ねえ そこが一番大事だべさ!
ここ辞める前に言うべきでしょや!そこは なっちゃんとは違うんだわ。
何が違うの?
なっちゃんには きょうだいがいたべさ。
俺の場合は なっちゃん…本当に裏切ることになってしまうんだわ。
したけど 親の期待を裏切っても 俺は…。
ダメ!
それは 絶対ダメ!
えっ?
行こう!嫌だ!いいから お願い!
早く行くよ。
ん…。
ただいま。(亜矢美)あ お帰り。お帰り。
お兄ちゃん ちょっと話があるんだけど…。
何だ?
入って。
お~ 雪次郎! 今日はご苦労さん。
どうも。お兄ちゃん…。
雪次郎君 あんた 思い切ったことしたね。
(カスミ)よく決心した。(レミ子)あんたには負けないからね。
ちょっと待って!
雪次郎君を 役者にはできません。
なつ… どうして?
どうしても!
ああ なつよ君の悩みは尽きないけれど今の私に言えることは…来週に続けよ。