堀江貴文さんが携わる「インターステラテクノロジズ(IST)」は4月30日、観測ロケット「MOMO」3号機の打ち上げ実験を行う。次々と新事業を手がける男が、14年前から一貫して情熱を捧げてきた「宇宙」。未知なる挑戦という名の"男のロマン"には、幾多の厳しい試練が待っていた。
この国が持つ「圧倒的な優位性」
2018年6月30日、北海道大樹町で観測ロケット「MOMO」2号機の打ち上げ実験が行われた。堀江さんはその様子を管制室から眺めていたが、ロケットは離昇から数秒後に墜落し、爆発炎上。失敗に終わった。’05年に宇宙ビジネスに参入して14年。「ホリエモンロケット」はいまだ、宇宙に到達できずにいる。
宇宙ビジネスの難しさは、研究開発が事業収益につながらない"デスバレー"期間の長さにある。堀江さんは実験直後、「デスバレーを乗り越えるために、自己資金だけでなく外部の資本を導入し始めた」と語った。それでも、数十兆円規模の産業創出が見こまれる宇宙ビジネスへの情熱が消えることはない。各国の宇宙産業の主導権争いは年々激しさを増しているが、日本で開発を続ける理由として、この国が持つ「圧倒的な優位性」を指摘する。
「日本から見て、ISS(国際宇宙ステーション)の軌道は東南にあるのですが、日本の東南は海に囲まれているため、国内からロケットが発射可能。その点、ロシアやアメリカは東南が陸地のため、別の国や国内の辺境に開発基地をつくっています。また、日本は国土が狭いため、各産業が集積していてロジスティクスがスムーズなことからも、宇宙開発に適した国です」
こうした長所を持っているからこそ、アメリカや中国に遅れをとっている現状に憤りを感じている。’17年時点で、世界の宇宙市場は38兆円だが、日本の市場規模は1.2兆円。’18年には民間企業の宇宙開発に関する宇宙活動法が施行されたが、アメリカでは似た法律が1984年にすでに制定されていた。法規制から見ても、約35年もの遅れをとっているのだ。
「僕は宇宙に詳しい政治家に出会ったことがない。最近では宇宙ビジネスの重要性について、僕が政治家に会ってレクチャーをしています。宇宙大臣の平井さん、経済産業大臣の世耕さん、野田聖子さん……。今日この後に会う政府の某要人にも、宇宙の話をしようと思っています」
宇宙に関するリテラシーが低い政治家、限られる予算、終わりの見えない"デスバレー"がありながら、宇宙を語る堀江さんの目はキラキラと輝く。スマホひとつであらゆる知識が手に入り、会いたい人に会うことができる。そんな彼にとって、宇宙は数少ない「未知」のひとつ。ホリエモンの「宇宙の旅」は、まだ序章に過ぎない。
"七転び八起き"な民間宇宙事業の歩み
堀江さんの宇宙への野望は、成功と失敗の連続……。その激動の過程を振り返る。
2005年 民間宇宙開発を目指す組織「なつのロケット団」結成。堀江さんを中心にエンジニア、ジャーナリスト、作家らが集まり、活動を開始した。
2006年 ロケットエンジンの開発に着手。
2007年 燃焼試験設備の整備に着手。
2008年 30kgf級エンジンの燃焼試験に成功。
2009年 開発拠点を北海道赤平市へ。90kgf級エンジンの開発に着手。
2010年 100kgf級エンジンの開発に成功。500kgf級エンジンの開発に着手
2011年 3月:最初のデモンストレーション打上機「はるいちばん」打上試験成功。7月:2号機「なつまつり」打上試験成功。12月:3号機「ゆきあかり」打上試験成功。
2012年 7月:4号機「いちご」打上試験成功。
2013年 1月:北海道大樹町に宇宙開発を専業とする「インターステラテクノロジズ(IST)」設立。3月:5号機「ひなまつり」打上試験失敗。8月:6号機「すずかぜ」打上試験成功。11月:日本初の純民間商業ロケット「ポッキー」打上成功。
2014年 高度100kmを目指した観測ロケットの開発開始。
2015年 6月:経済産業省の研究開発事業を受託。7月:姿勢制御飛行実験機「LEAP」飛行実験成功。9月:姿勢制御飛行実験機「LEAP2」飛行実験成功。
2016年 1月:100km打上機用10kN(1tonf級)エンジンの開発開始。5月:姿勢制御飛行実験機「LEAP3」飛行実験成功。7月:姿勢制御飛行実験機「LEAP4」飛行実験成功。観測ロケット「MOMO」用12kNエンジンの実験開始。
2017年 7月:「MOMO」初号機打上実験実施。離昇66秒後に通信途絶で、エンジン緊急停止。警戒区域内(沖合約6.5km)に落下。
2018年 4月:「MOMO」2号機開発完了。6月:「MOMO」2号機打上実験実施。離昇直後にエンジンが停止し落下、炎上。7月:「MOMO」3号機開発開始。12月:「MOMO」3号機縦吹き燃焼実験成功。
2019年 3月:「MOMO」3号機、120秒間の縦吹き燃焼実験成功。
Text=半蔵門太郎(モメンタム・ホース) Photograph=池田直俊