「中朝蜜月」を誇示するような訪問だった。中国の習近平国家主席は、安全保障や経済面で北朝鮮を支える意向を示したが、非核化協議進展に向けて、中立的な立場で役割を果たすことが大切だ。
朝鮮戦争を共に戦った中朝は、「鮮血で結んだ友誼(ゆうぎ)」と呼ばれる特別な関係を維持してきた。習氏には、関係の復活を思わせる大規模な歓迎が待っていた。
習氏が特別機を降り、市内に向かう沿道には花を手にした二十五万人の市民が出迎えた。その後行われたマスゲームでは、中国の国旗や習氏の顔が描かれた。
実はここ数年中国は、核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮に手を焼き、距離を置いていた。
金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は四回訪中したのに、習氏は主席就任後一度も訪朝していなかった。いかにギクシャクしていたか分かる。
その習氏は二十八、二十九日に大阪で開かれる二十カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、トランプ米大統領と会談する。
習氏がこのタイミングに一泊二日の厳しい日程で訪朝したのは、北朝鮮に対する影響力を示し、トランプ氏との貿易交渉を有利に進めたいと考えたためだろう。
香港で起きた大規模デモを、首脳会談の話題に出されるのを避ける狙い、とも指摘されている。
そこで気になるのが、正恩氏との首脳会談での習氏の発言だ。
習氏は、北朝鮮が持っている安全保障への懸念と経済発展に関する困難について、「中国は解決のため、できる限り支援する」と、踏み込んで約束した。
非核化問題に積極的に関与しようという習氏の意欲は歓迎したいが、北朝鮮に過度に肩入れし、米国に対する外交カードに使えば、交渉が複雑化する危険もある。
正恩氏もこの会談で、米国との協議が進展しない状況に不満を示しつつも「(交渉では)忍耐を続ける」と明言した。
米国との交渉期限としている年末まで挑発を控えるとの表明であり、評価できる。
しかし正恩氏は非核化について具体的に語らず、交渉打開に向けた糸口は見えなかった。
正恩氏は四月にはロシアを訪問し、プーチン大統領からも理解と協力を取り付けている。
米国と対立する国々を後ろ盾にすれば、交渉のプラスになると考えるのなら間違いだ。
まずは非核化に取り組む真剣な姿勢を、正恩氏が行動で示すよう求めたい。
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