みなさんはエアコンをどうやって選んでいますか。木造か鉄筋コンクリート造か、畳数はどのくらいか――。これだけしかチェックしていないとしたら、過大な能力の機種を選んでいるかもしれません。住宅の断熱性能や気密性能に基づいて適切な能力を計算する方法を、松尾設計室の松尾和也代表に解説してもらいます。(日経ホームビルダー編集部)
これまでエアコンを一回以上購入した経験がある人は多いと思います。日本冷凍空調工業会によると、家庭用のルームエアコンは年間約800万台が国内で出荷されています(2015年)。
エアコンのカタログを見ると、詳細な付加機能や畳数表示などが所狭しと書かれています。ただし、畳数表示は木造と鉄筋コンクリート造くらいの分類で、しかも「暖房:6~7畳」のような表記となっています。これらは、どのメーカーのカタログを見ても共通しています。
■エアコンの「タブー」
実際には、木造あるいは鉄筋コンクリート造といっても、戸建て住宅か集合住宅かで状況は異なります。仮に集合住宅なら、必要な冷房能力は、窓がどの方位にどれだけあるのか、庇(ひさし)がついているのかいないのか、西日が隣家などで遮られているのか――などによって大きく異なります。
一方、必要な暖房能力は、上下左右の部屋が何部屋に囲まれているのか、断熱性能はどのくらいか、気密性能はどのくらいか、主たる窓の方位はどちらを向いているのか――などによって、同じ畳数でも5倍程度も異なってきます。
冷房、暖房ともにこれだけ不確定要素が多い中で、畳数表示が一般例として通用していることは、実は驚くべきことなのです。畳数表示は1964年に制定されてから一度も変わっていません。しかも、当時の「無断熱住宅」に合わせて表示されているのです。
エアコンの燃費は大幅に向上しましたが、定格の冷房能力や暖房能力に関しては50年前も今も同じ能力です(気流制御などの細かな機能の差、最大能力の差は除きます)。この50年間で住宅の断熱性能や気密性能は大幅に向上したのに、畳数表示と必要能力の関係は見直されていないようです。これは、年間800万台ものエアコンが適切な負荷計算をしなくても売れているが故の「触れてはならないタブー」であったように思います。
松尾設計室の設計例。2階リビング、全面勾配天井だが、14畳用のエアコン1台で2階全て(58.79平方メートル)を暖房できるように設計した。容量的には1台で1階を含めて全館を賄えるが、2階に設置したため、2階の冷暖房用として使っている(写真:松尾和也)
■エアコンのカタログの見方
では、ここからエアコンの能力を具体的にひも解いていきましょう。
まず、一般的なエアコンのカタログを見ると、上記のように表示しています。「能力(kW)」は、「そのエアコンが投入することができる冷房もしくは暖房の標準的な時間あたりの熱量」を表します。
暖房能力の例で言うと、定格能力(中間的な能力のこと)は2.5kWと記載しています。これは2500Wと同じ意味です。カッコ書きで(0.7~5.4)と書いてあるのは、エアコンはインバーター制御で最小運転から最大運転まで変動しながら動く機械だからです。その最小時の暖房能力が0.7kW(700W)、最大時が5.4kW(5400W)であることを示しています。
次に、暖房の定格消費電力を見てみましょう。415Wと記載しています。これは2500Wの暖房能力を消費電力415Wで引っ張ってこられることを表しています。つまり、消費電力の6倍もの熱を室内にもたらすことを意味します。
原理は、外気中の熱量を圧縮するために電力を使っており、この6倍という数字が暖房効率(暖房COP)となります。暖房効率は2010年ごろまでは暖房COPで表示していました。今でも表から割り算すれば計算できますが、表の下の方にある「通年エネルギー消費効率(APF:Annual Performance Factor)」に表記を変更しました。
通年エネルギー消費効率は、従来のCOPのように冷房と暖房を分けて考えるのではなく、冷房除湿は6月2日から9月21日までの3.6カ月間を27℃、暖房は10月28日から4月14日までの5.5カ月間を20℃で運転した場合の通年での効率を意味しています。最新型の機種では、この数字が7を超える超高性能な製品も販売されています。
しかし、車の実燃費と同様に、実際はカタログの数字どおりに能力を発揮することはまずありません。冷房時は外気温が高いほど、暖房時は外気温が低いほど、実際のAPFは悪くなります。それでも一つの目安として、カタログ効率の70~80%は発揮することが多いので、やはりエアコンというのはすさまじく優秀な機械なのです。
これでエアコンのカタログの見方が理解できたと思います。表からは、「6畳用には冷房で2200W、暖房で2500Wがそれぞれ必要になる」とメーカーは考えていることが読み取れます。ただ、この考え方は先述したように、最低でも50年以上は変更されていないのです。