弓道考察モノローグ

合い言葉は肩甲骨

矢の調整について

今回は矢のインサートやスパインについての話です。

 

インサートとは簡単に言えば錘(おもり)のことで、アーチェリーの世界では矢の重心の釣り合いを合わせるのに当たり前のように行われていることです。

 

インサートとは以下の様なものです。

 

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引用【http://ikai-kyugu.jp/?pid=107631896

 

弓道の場合は竹矢を作成する場合にどうしても篦(の:シャフトのこと)が天然素材であるために単位あたりの質量分布が不均一であるため砂鉄などの錘を用いて調整される事があったそうですが、現在主流のジュラルミン製やカーボン製のものではあまり使われてないような印象を受けます。

 

私が思う矢の理想的な重心は筈から鏃の先端までのちょうど半分の長さよりも、重心の位置が2cmから3cmほど鏃側にあることだと考えています 。

これよりも後ろにあると離れの推進力を受けて矢先が浮くと思われ、これ以上前にある場合はおひねり(小銭を紙で包んだ物)の様に頭が重くなり下へ落ちると思われるからです。

 

理想は上にも下にもぶれない水平方向へ直進するバランスの矢と射です。

 

そのためには自分が使っている弓のキロ数と矢のスパインの強さなど様々な事を考慮しなくてはいけません。

 矢にまつわることで絶対にやってはいけない事があります。

  1. 複数種類の矢を普段から使用すること
  2. 極端に重いインサートや鏃を使用すること
  3. 羽の損傷や欠損の激しい矢を使うこと
  4. 不適切なスパインの矢を使用すること

以上は特にやってはいけない事だと言えます。

特に的中で競う方はこれらをしないだけでも的中率を上げることができると思われます。

 

 

  • 複数種類の矢を普段から使用すること

 ワタシの言う複数種類とは、鏃・シャフト・羽・矢束のいずれかが異なる矢のことです。

購入時期の違いや色が違うだけで先の4項目が同じならば問題はありません。

 

しかしこの内どれかが異なると矢が的に届くまでの挙動が全く異なってしまいます。

そうなると同じ動きを身体が覚えようとしても矢所が必ず散ってしまうためにいつまでたっても安定した射を得られることはないでしょう。

 

  1. シャフトの長さが異なるとアーチェリーパラドックスの振動の波長が異なるため矢所は左右にブレてしまいます。
  2. 鏃の重さもしくはシャフトの素材(太さ)が異なる場合はスパインが異なるのと同義ですのでこれも矢所が左右にブレが出ます。
  3. 羽と鏃が異なる場合では釣り合いもしくは矢の総重量が他の矢と異なる可能性がでます。すると結果として上下への矢所の分布が現れます。

なぜスパインが異なると矢は左右どちらかに安定して外すことになるかの詳細は下記のアーチェリーパラドックスの記事を参照してください。

 

基本の"き"、アーチェリーパラドックス - 弓道考察モノローグ

 

しかし、シャフトの素材と太さと長さがおなじ(異なるの羽の種類と異なる鏃)ならばインサートを用いることで釣り合いを調整し、ある程度の誤差を埋めることができます。

それだけでも矢による的中の差を埋めることが可能です。

 

そのためには羽の異なる矢同士を0.3gや0.5gほどのインサートを使って重心の位置を完全に一致させます。

 

ですが一番いい方法はすべての素材を合わせることでしょう。

 

  • 極端に重いインサートや鏃を使用すること

私も通った道なのですが、的前に上がってしばらくしてどこかから「重い鏃を使えばあたる」という知識を拾ってくる人がいます。

だいたいそういう時期は12,13kgの弓で矢は2014のものを使っていたりします。

それに通常よりも1gほど重い鏃などを使うと矢の頭がかなり重くなり、矢道の三分の二ほどから突然下に落ちるような挙動をします。

 

これは以前書いた記事と同じように縦の力が無駄に加わり矢が水平方向に飛ぶことを阻害してしまいます。

 

 押し方による矢飛びの軌道論 - 弓道考察モノローグ

 

鏃の重さ(インサート)は弓のキロ数に応じたスパインと羽を選んだあとに全体の釣り合い調整のために決定されるものですので明確な目的なく個人で変更することはおすすめしません。

 

  • 羽の損傷や欠損の激しい矢を使うこと

羽は矢が的に到達するまでの回転運動を生み出します。

甲乙それぞれ対称の形の羽が使用されておりそれぞれの矢は鏡像体の関係です。

 

鳥の羽は表面が滑らかで裏が粗い構造となっており、これにより空気抵抗の差が生まれて矢の回転となります。

なので甲乙により回転の向きも対称です。

 

そして甲矢はつがえたときの滑らかな綺麗な面が上座を向くため相手(神様や審査員)に向けての射となり、乙矢は自分の方を向くため自分のための射と言われています。

なので、審査では初矢のみの的中でも参段に受かるとかなんとか、、、

 

そのため羽が欠損していると回転運動を阻害することになるので矢は直進しません。

危険ですのでやってはいけませんが、巻藁用の棒矢を的前で引いても矢は左右に大きくぶれて矢所が絶対に安定しません。

 

もし一本でも多く的にあてなければいけないならば羽がしっかりしたものを使用して、欠損の激しいものは早めに修理するか使用しない事をおすすめします。 

 

またデザイン性も含めているのでこれについては完全に好みの問題ですが、羽は弓力が安定してきた人は高価ですが堅牢な黒鷲などを使用することをおすすめします。

白鳥や鷹は柔らかく軽い素材ですが、ワシは丈夫なので長い目で見たとき的中誤差を小さくできると思われるからです。

しかし重量の差を考慮せずデザインで選んでしまうのも問題ですので、新たに矢を購入した場合は重心の位置を確認して見るのも道具管理の一貫になると思います。

 

  • 不適切なスパインの矢を使用すること

不適切なスパインの矢を使用していると安定してどちらかに矢が反れてまとまりますのでそこが正しい狙いだと錯覚してしまいます。

すると誰かにツケを見てもらったときに狙いと実際の飛翔軌道が異なる動きをするので混乱が生じます。

さらに不幸にも(?)そのズレを知らないうちに異なるスパインの矢だったり弓に変わっただけで矢所が異なるところに飛ぶようになってさらに混乱が生じます。

 

特に注意したいのが、今までジュラルミン製を使っていた人がカーボン製に変えたときです。

長さが同じでもカーボンはかなりスパインが強くなりますので、右にばかり飛ぶ可能性があります。そういう人はインサートを入れるなどの工夫が必要かもしれません。

 

そのため道具を変えた際などは矢のチューニングなど自分でしっかりとできると良いでしょう。

 

では適切なスパインとはなんでしょうか?

 

以下の表をご覧ください。

 

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引用【http://www.koyamaya.com/takesakuhinsyuu.htm

 

これは単位長さあたりの重さとスパインの強さを比較した表です。

おおよそですが縦の項を見る限り、1913-1914が9kgから12kgの弓で使用し、2014-2015は13kgから16kgほどの強さの弓が適切ではないでしょうか。

詳しくは弓具店の方や弓具店などにあるスパイン表などを参考にするほうがよろしいと思われます。

 

あとは自分が今後弓上げなどどこまでやるかを想像して矢を選ぶのが良いと思われます。

 

同一素材でも矢束によりさらにスパインが変化しますので長い矢束では標準よりスパインは弱くなり、短い矢束では強くなりますのでその誤差を考えつつ購入するのも賢い選択だと思います。

 

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引用【http://www.a-rchery.com/spine.htm

 

こちらは単位長さあたりのスパインを計算する式ですが、実際には使う人により長さL(引き束)が異なりますよね。

それでは素材が同じならばLの3乗(2乗と表記していたのを訂正しました)に比例することがわかると思います。

ですので、2014と2015でも矢束によっては同じスパインになりうるということです。

 

あとは羽も含めて矢の質量がシャフトによって異なりますので適切なスパインとは射手の主観で測るのが一番ということになってしまいます、、、

 

ですが最低限釣り合いの位置と狙いと矢所が適切ならばそれは適切な選択だと私は思います。 

 

  • 矢束についての持論

私が矢について考えていたことが矢の長さについてです。

初めて矢を購入するときみなさん必ず15cmほどの余裕を持たせて作っていただくと思います。

 

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引用【http://hasegawa-kyuguten.com/gallery/ya.html

 

それは安全性の観点から15cmとかなり大げさに余剰を取るのは当たり前のことですが、この余り分をその後どうしていますか?という話です。

 

私は的前に上がってから二年ほどして射が安定したら切り落として、会のときに弓から的の方へはみ出る長さが指3つ分(約3cm)ほどになるようにするのが理想だと考えています。

 

ただ切り落とした矢は戻せませんのでこれらは必ず自己責任にて判断をお願いいたします。

当方、この記事を参考にして行った加工等の責任は負えません。

 

余剰分は錘と同じ効果を生むのに加えて、飛行中に矢の振幅運動を阻害して矢所が発散すると考えるからです。

しかし、それは綺麗な正規分布となると思われるため使用感からしてその外し方はあまり違和感はないでしょう。

私は矢の余剰分を切り落とすことで的中分布の円を小さくできると考えています。

 

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※赤い線が発散した矢所のイメージ、青い線は焦点を絞るように発散が抑えられた矢所のイメージ。 

 

 

私のイメージの話になりますが、会で完全に引ききったときの筈から弓と矢が接する位置までの長さをLとして、弓から的の方へはみ出た余剰分の長さをmとすると、アーチェリーパラドックスの発生時はLの振幅だった運動が弓から離れた瞬間からL+mの振幅へと変化してゆくのですから。

この運動は完全にエネルギーロスであり、矢の進行方向を発散させる原因となりうると思います。

 このmの分を小さくしすぎると逆に発散が始まってしまうと思われますが、その根拠はここでは示せません。申し訳ありません。

完全に経験則と感覚のお話です。

 

今回は矢について部分的にお話しました。

本当は矢の形状についても詳しくお話したかったのですが、ムギ粒だったり杉成だったりしても結局大切なのは釣り合いの位置でしたのでそれは射手の好みにおまかせします。

矢の形状の種類についてはほかのサイトを参照していただけると幸いです。

 

竹矢・シャフト | 有限会社 小山矢

 

今回お伝えしたかったことは道具を工夫することで射手の真価を発揮するということでした。

練習の努力だけでは到達できない事が道具の整備で到達できる可能性があるということです。

もし同じだけ努力した人がいたとすれば、最後に味方するのは道具の精度です。

根性論だけではどうにかできない世界がこの世の中には存在します。

 

シャベルと気合で感動するような細かな彫刻は掘れません。

 

弓道に限った話ではありませんが弓道を心から楽しむならばただ射法八節の動きするだけのカーゴ・カルトにならないよう常に知識も吸収しながら本質を理解しつつ練習に臨むのがより高みを目指す第一歩ではないでしょうか。

 

参考ホームページ:

http://ikai-kyugu.jp/?pid=107631896

http://www.takakyu.com/original/item03.html

http://hasegawa-kyuguten.com/gallery/ya.html

http://www.a-rchery.com/spine.htm

http://www.koyamaya.com/takesakuhinsyuu.htm

 

参考書籍:

「現代弓道講座」

「詳説弓道

弓道の雑学事典」