これを聞いて、また動く鈴ちゃんが見られるんだ!とか喜んでいたのですが。
4巻のプール→多分カット
5巻→チャイナ服とシンデレラだけ
6巻→一夏と出かけられるはずだったのに上司の妨害。戦闘はセシリアメイン。
7巻→
あれ、ぶっちぎりで出番なくないですか?わりとマジでチャイナしか希望がないんですが……空気ヒロインまったなし?
朝っぱらから大量の女子たちが部屋に押しかけてくるというハプニングはあったものの、俺はその日、久しぶりに学園に登校した。廊下や教室でもかなりの回数声をかけられたが、もう大丈夫だとはっきり返事をしておいた。
「やっぱり4日もサボったのはでかいよなあ。知らない間に授業が進んじまってる」
「それなら、あとで昨日までのぶんのノート貸そうか?」
「いいのか? サンキューシャルロット」
「お安い御用だよ」
そして現在、いつもの5人と一緒に食堂で昼食をとっているところだ。……いつもの、とは言ったが、こうして誰かと楽しく飯を食べるのは久しぶりな気がする。
「どうやら、本当に大丈夫そうだな」
「やはり鈴さんのおかげですの?」
ラウラとセシリアも、午前中の俺の様子を見て安心してくれたようだ。声にも安堵の色が感じられる。
「ああ……なんとか立ち直れたってところだ。みんな、心配してくれてありがとうな」
他人との接触を拒んでいた俺に対して、諦めずにメールを送ってきてくれたことは本当にうれしかった。あとで楯無さんや簪さんにも直接お礼を言いに行かないとな。
「……一夏」
と、ここで今まで黙っていた箒が意を決したように俺に話しかけてきた。
「どうした、箒」
「少し話したいことがある。放課後、2人きりになれる時間を作ってもらえないだろうか」
「2人きり?」
「そうだ」
真剣な顔つきでお願いされては、断る理由もない。
箒が何について話そうとしているのかは見当がつくし、それを聞くことに対する恐怖はもちろん存在する。だけど、遅かれ早かれ聞かなければならない話だ。
「わかった。けど、先に鈴と一緒に千冬姉に会いに行く約束を取り付けてるんだ。だから、話すのはその後にしてくれないか」
「千冬さんと……?」
俺の言葉に、鈴を除く4人が驚いたような表情になる。
「本当はあたしが行く必要はないんだけどね。いわゆる付き添いってやつ」
鈴の補足はまさしくその通りである。今の俺には、まだ彼女の助けが必要だ。
「そうか。なら、用事が済んだら私の部屋に来てくれ」
「了解だ」
千冬姉の話を聞いて、それから箒の話を聞く。心に堪えることもあるかもしれないが、それに向き合うことが俺の意思であり、義務でもあるはずだ。
*
そして、迎えた放課後。
「……なあ、トイレ行ってきていいか」
「ついさっき行ったところでしょ。却下よ却下。ここまで来て逃げることは許されないわ」
「それはそうなんだけどさ。やっぱり尻込みしてしまうというか」
俺と鈴の眼前には、寮の中の千冬姉の部屋につながるドアが厳然とそびえ立っている。実際は何の変哲のない扉があるだけのはずなのだが、少なくとも俺の目には『そびえ立っている』ように見えた。
……情けない話だが、まだすべてを完全に振り切ることができたわけではないらしい。
「大丈夫よ」
立ち往生している俺の手を、鈴がぎゅっと握ってきた。そこから伝わる体温によって、昨夜の出来事を思い出す。
「よし」
後押しを受けて、ようやくドアをノックすることに成功する。
「織斑先生。いらっしゃいますか」
「……入れ」
許可を得て部屋に足を踏み入れると、千冬姉が2人分の椅子を用意して待っていた。
「座ってくれ。それと、もう敬語を使う必要はない」
机の上に紅茶入りのティーカップを並べた後、千冬姉も残った椅子に腰を下ろす。
「千冬姉」
準備が整ったところで、腹をくくって話を切り出す。つないだままの鈴の手が、背中を押してくれている気がした。
「俺がどういう経緯で生まれて、どうやって育ってきたのかはわかった。それでさ、あいつ……本物の一夏について、何か知ってることはないのか?」
喉がカラカラに渇くような感覚。
自分からこの話に踏み込むのには、やっぱり怖い。だが現実を見ると決めた以上、いつまでも受け身のままでいるわけにはいかないのだ。
俺の質問に一瞬目を見開いた千冬姉だったが、すぐに何かを悟ったような顔つきになると、俺と鈴を交互に見ながら口を開いた。
「つい最近まで、あいつの消息については完全に不明のままだった。生きているのかどうかさえわからなかった。……転機が訪れたのは、銀の福音の暴走事件の時だ」
福音事件――臨海学校中に起きた、軍用ISの暴走だ。あの日俺は初めてマドカと出会い、完膚なきまでに叩きのめされた。
「確証があったわけではない。むしろ『そんなことがありえるのか』という思いの方が強かった。だがお前と箒からサイレント・ゼフィルスのパイロットに関する話を聞いた時、もしやと感じたのは事実だ。束も同じようなことを言っていた」
「束さんも?」
「やつは私よりも確信を持っている様子だったがな。それが正しかったのだと認識したのは、お前から夏祭りでの一件を伝えられた時のことだった。その時から、近いうちにお前にすべてを話そうと機会をうかがっていたのだが……臆病な私は、何かが壊れてしまうことを恐れてなかなか言い出せなかった。本当に、すまなかった」
「もういいよ。終わったことなんだし、千冬姉が俺のことを想ってやってくれたことなんだから。それより、ちゃんと話してくれてありがとう」
目を伏せる千冬姉に、偽らざる本心からの言葉を投げかける。俺を守るために行ってきたことを、責めるつもりは最初からない。
「ということは、マドカについて知ってることは」
「現在『亡国機業』という組織に所属している可能性が高い、ということだけだ。あいつが学園に現れたのと同時刻に、更識楯無が組織の他の人間と戦闘を行っている。各国のISを強奪している集団の一員であるなら、イギリスの第三世代型を所有しているのも納得がいく」
鈴の言葉を引き継ぐようにして、千冬姉は説明を続ける。『亡国機業』というのは、かなり以前から活動を行っているとされる影の組織で、世界各地で生産されたISを奪っているらしい。それを使って何をたくらんでいるのかは、いまだ明らかになっていないようだ。
「私が把握しているのは以上だ。あいつが今までどうやって生きてきたのか、どんなことを考えているのか、どれほどの実力を持っているのか。すべてわからないままだ」
「そうか……」
千冬姉は無表情を装おうとしているようだが、辛そうな様子を隠すことはできていなかった。けれどそれは仕方のないことだ。千冬姉にとってマドカは大切な家族のはずで、そいつが女になって亡国機業に所属しているなんて聞いたら落ち込むのも当然だと思う。
「もうひとつ聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「なんだ」
俺ができることと言えば、何があるだろう。さっきみたいにお礼を言う以外に、何をしてやれるだろう。
「俺がISを動かせるのは……その、やっぱり、女の人の遺伝子から作られたクローンだからなのか?」
答えを見つけるためにも、今はできるだけ多くのことを知りたい。
「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える」
「どういうことだ?」
「お前が白式を起動できるのは、確かに私の遺伝子による影響だろう。私が最初に触れたISのコア、つまり白騎士のコアが、今は白式のコアとして私と似た存在であるお前を受け入れている。これが私の考えだ」
「……ちょっと待ってくれ。白式のコアって、白騎士のやつがそのまま使われてるのか」
「知らなかったわ……。白騎士に乗っていたのが千冬さんだったって説は信じてたけど、そのコアがすぐ近くにあったなんて」
初めて聞いた事実に驚き、鈴と顔を見合わせる。10年ほど前に世界を震撼させたISが、形を変えて俺の相棒になっているなんて思いもしなかった。
「一夏。お前は白式以外のISを起動させたことがあるか」
「白式以外? えっと、受験の時に偶然動かしちまったのと、そのあと日を改めて試験ってことで模擬戦やったのと……その2回だけだな」
「その2回はおそらく束の仕業によるものだ。ゆえに、お前が白式以外の機体を動かした回数はゼロということになる」
「……え? 束さんの?」
なんだか、さっきからとんでもないことを次々とカミングアウトされている気がする。もし受験の時の一件が束さんの手によるものだとしたら、俺がIS学園に入る羽目になったのも。
「何を考えているのかは理解できないが、お前をIS学園の生徒という立場に仕立て上げた張本人はあの馬鹿だということだ」
「マジかよ……」
本当に、なんでそんなことをしたんだあの人は。俺が白式を動かせるだろうという確証があったってことなのか。
「おそらくだが、仮に訓練機を動かそうとしても、お前には不可能だと考えられる。だとすれば、マドカという女性が生まれてしまったことにも一応の説明がつく」
「っ! それってつまり――」
「ISに乗れるようになるために、女になったってことですか!?」
「……あまり考えたくはないが、可能性としては最も高い。誰の手によって行われたのかまではわからないにしてもだ」
鈴の言葉に、千冬姉は苦虫をかみつぶしたような表情でうなずく。
『本当の織斑一夏だった人間は……男であることを捨てさせられた』
福音事件の時と学園祭の時に、あいつが俺に向けてきた憎悪の感情。あれほどまでの悪意をぶつけられたのは、生まれて初めてだ。
マドカが俺を殺したいほど憎んでいるのは間違いないだろう。あいつがいるはずだった居場所に陣取り、今まで何も知らずに生きてきたのだから。
「………」
「一夏、大丈夫か」
「顔色、よくないわよ」
黙り込んでしまった俺を不安に思ったのか、千冬姉と鈴が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫だ。ちょっと頭の中を整理してただけだから」
昨日までのネガティブ全開の状態に比べれば、今は健康そのものと言っていい。いろいろ考えることはあるが、2人を安心させるために笑顔を作る。
「……そう」
手を握る力が、少し強くなった。ちょっぴり痛みを感じるくらいに。
「一夏。もうひとつ、白式についてお前に伝えておきたいことがある」
その声で、つながれた手に向いていた視線を千冬姉の方に戻す。あっちから話を始めるのは、今日この場においては初めてのことだ。
「白式のワンオフ・アビリティー、つまり零落白夜に関してのことだが……ああいや、違うな。あれは正確にはワンオフ・アビリティーではないのかもしれないのだった」
「……は?」
どうやら、口をあんぐり開けてしまう展開はまだまだ続くらしい。
*
「鈴音」
話し合いが終わって2人が部屋を出ようとしたところで、千冬が鈴を引き止めた。IS学園に転入して以降プライベートで会うことがほとんどなかったので、下の名前で呼ばれたのはかなり久しぶりのことである。
「すまないが、少し残っていてくれないか」
「あ、はい。いいですけど」
「じゃあ、俺は箒のところに行ってくる」
一夏が立ち去り、鈴は再び椅子に腰を下ろす。こうして千冬と2人で向き合うのは、臨海学校の初日の夜以来だ。
「この間も、私とお前の2人きりで話したことがあったな」
向こうも同じことを考えていたらしく、あの時の話題を持ち出してきた。
「あの夜、私が言ったことを覚えているか」
「ええと……一夏と結婚したいのなら、あいつを支えられるだけの強さを持て、でしたっけ」
交わされた言葉の数々から、最も印象に残っていたセリフを抜き出して答える。今思えば、あの発言の裏には一夏の出生に関する千冬の不安も含まれていたのだと鈴には感じられた。いつか彼が本当のことを知らされた時、しっかり支えてあげられるような人間がそばにいてほしいという願いの表れだったのだろう。
「そうだ。そしてお前は、今回のことであいつを救ってくれた。そばにいる者として、あいつを支えてくれた。本当に感謝している。ありがとう」
「あ、ありが……!? い、いやいや、あたしなんてちょっと一夏の部屋に乗り込んで怒鳴っちゃっただけで、あいつが立ち直ったのはあいつ自身の力といいますか、その」
『苦手な人間』である千冬に礼を言われるのは初めてのことで、しかも頭まで下げられたことで鈴は困惑してしまう。
「謙遜するな。一夏を立ち直らせたのは、間違いなく彼女であるお前の助けがあってこそだ。先ほども、あいつの心を落ち着かせるためにずっと手を握ってやっていただろう」
「それは、確かにそうですけど」
「素直に礼を言わせてくれ。お前は、私にできないことをやってくれたんだ」
「……じゃあ、素直にお礼を受け取っておきます」
もしかすると、千冬は鈴を一夏の将来の伴侶として認めてくれたのかもしれない。少なくとも、彼女の出した『条件のひとつ』をクリアしたのだと認識されているのは間違いないと考えられる。
多少論理が飛躍しているような気もしながら、鈴は内心喜びの感情が湧き上がってきて。
「とはいえ、男子の部屋に泊まるという規則違反を犯した罪は消えないが」
「え」
続く一言で、一気に頭に冷や水をぶっかけられた。
「あ、あはは……ご存知でしたか」
「もちろん、お前にやましい考えがなかったのは理解している。だが、ここでお咎めなしにしては事情を知らない生徒たちにしめしがつかないのもまた事実だ。今度どこかの店で食事をおごるから、おとなしく罰則を受けてくれ」
「……はい」
今朝がた、一夏のためなら規則くらい破ってやるとは言ったが、それでもやはり罰を受けないに越したことはないのだ。
落胆しながら、鈴は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
*
「それで、話ってなんなんだ?」
千冬姉の部屋を出た俺は、その足で箒の部屋を訪れ、現在彼女と2人きりで屋上にいた。部屋にはルームメイトである鷹月さんがいたため、箒が場所を変えようと提案したのだ。
「う、うむ……鈴が覚悟を決めたのだから、私もいい加減はっきりした態度をとらねばならないと思ってな」
夕陽をバックにして、箒は俺に向き合う。視線は、真っ直ぐ俺の目を捉えていた。
「私の初恋の相手は、確かにお前じゃない」
その言葉に、思わず目を逸らしてしまいそうになる。
箒が初めて仲良くなった男の子――高校生になっても恋い慕っていた織斑一夏は、俺じゃない。わかっていたことではあるが、こうして声に出されると余計にそれを痛感させられる。
「だが一夏、これだけは知っておいてくれ。私はお前のことも大好きだ。異性としての恋愛感情とかではなく、子供の頃、そしてこの半年間をともに過ごしてきた、大切な仲間として」
「箒……」
「ずっとお前自身を見ることができていなかった私に、こんなことを言う資格はないのかもしれない。でも、それでも、私は――」
「そんなことねえよ」
今にも泣きだしそうな顔になっている箒を見ていられず、彼女の体を強く抱き寄せる。
「資格がないなんて、そんなこと全然ない。ありがとう、箒。今の言葉、すげーうれしかった」
「いちかぁ……」
箒の中にも、ちゃんと『俺』が存在していた。その事実だけで、十二分に喜ばしいことだ。
「箒」
同時に、俺の中でひとつの踏ん切りがついた。
今朝も考えたことだが、他人に聞かせるのはこれが初めて。
「俺、次はあいつに勝ってみせる」
あいつを知っている箒の前で宣言することで、もう後戻りができないように自分を追い込む。
「そのために、白式のワンオフ・アビリティーを完成させてみせる」
これは、絶対に逃げられない戦いだ。
鈴ちゃんは持ち上げた後オチをつけてあげないとなんとなく落ち着きません。なぜだろう。
今回はつなぎ回としての役割が強いです。次回もこんな感じになりそうです。
感想等あれば気軽に書き込んでください。喜びます。
では、次回もよろしくお願いします。