オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
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「一体何なのだ、この報告は?」
「それが……中継員の話によれば、距離は前日とほぼ変わりないが
兎に角聞き取りにくかった
バハルス帝国帝都アーウィンタール、現皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが、日々忙しなく書類を処理する執務室。重要書類専用の封書から取り出した報告書を読み解くと同時に、部屋の持ち主たるジルクニフの眉間の皺が深くなる。
王専用の机を挟み封書を手渡した相手は、帝国の誇る主席宮廷魔術師フールーダ・パラダイン
――その弟子であり帝国情報局の局長、
そして今回の報告は、帝国の行く末に強く影響するかもしれない案件であった。
一月程前にアゼルリシア山脈で見られた赤い空、その直後に観測された神話を思わせる魔法、もしくはアイテムの行使。その調査を依頼した銀糸鳥には、
どんな些細な情報でもいい、なにかあればすぐに連絡するようにとフールーダ直々の手渡しとなった。その事後報告を聞いたジルクニフは、王としての表情をとりつくのに苦労しながら、内心で盛大な溜息を吐くこととなったが。
帝国で使われている
「聞き取れたのは『美女』『ドラゴン』、あとは『神話のような美しさ』……か」
「おそらく、最後の言い回しからしてリーダーのフレイヴァルツ殿と思われますが」
「同感だな。しかし聞き取れなかった、というのはいったいなんだ?
「その可能性もございますが。私としては内容からして使用者の精神が、興奮状態にあった可能性が高いと具申致します」
ジルクニフは書類から目を離し思い出す。直々に会ったフレイヴァルツは、凛とした声を発する
メンバーの紹介を詩的にしたり、変わった二つ名をつけたり、癖のある人物だったが仕事に対して最善を尽くそうとする責任感はジルクニフも好む部分だ。
「その前のメッセージでは、間もなくドワーフ国に着くという内容だったな。今回も内容だけなら危機感は感じられん。人となりはわからないが、アダマンタイト級冒険者にふさわしい仕事の実績がある者だ。重要な定時連絡をお粗末にするとは思えん。やはり私としては何者かの妨害ではないかと思うのだが」
「かもしれません、ですが……」
「どちらにせよ憶測の域を出ないか」
神妙に頷く臣下から再び目を離す。窓からは遥か遠方だが、雪で大部分が白くなったアゼルリシア山脈が見える。あの地にフールーダを別の意味で震え上がらせる存在が、今もいるかもしれないのだ。それに接した二つの国、その片翼を担う王としてできることは何でもしなければならない。
「ドワーフの国からの最寄りの都市、及び村全てに足の速い馬を複数用意しておけ。乗り手も軍から選りすぐりの者を一時的に引き抜いて構わん。エ・ランテルと併せてになるがよろしく頼むぞ」
――ジルフニクが報告を聞く数刻前
人間四人と亜人一人からなる銀糸鳥の面々は、ドワーフ国入り口である地上の砦に着いていた。
マジックアイテムの効果で凍死の心配こそなかったが、険しい山により一部のメンバーは疲労しており、ドワーフ兵たちの勧めで入国前に客間を間借りし休んでいる。
「――どう思いやす?リーダー」
体を温めるための暖炉近くの壁際に佇み、少しばかり考え込んでいた丸刈りの小さな男が背中にリュートを背負った青年に話しかけた。男はチームの耳と目であり「暗雲」の二つ名を持つ、もといリーダーに付けられた『シカケニン』の職に就くケイラ・ノ・セーデシュテーン。そしてリュートを背負い、リュート以外にも様々なマジックアイテムを身につけた青年が『
「……俄かには信じられないな、ドラゴンを従えるなんて」
「しかもその数が大小二十頭ですからな。本当であれば拙僧は震えあがってしまいますよ」
「ウンケイもそうだよな。まったく、悪い冗談ですよ」
客間の暖炉の前にある椅子に座りこみ、体力を回復させていた編み笠の男
『僧侶』のウンケイの同意を受け、小柄なセーデは手をヒラヒラさせる。
ドワーフ兵達が話してくれた、人間の少女が王都を取り戻すまでの英雄譚。一月前に現れクアゴアの軍を壊滅させ、その後に王都を取り戻してくれたその少女の話題でドワーフの国は今もちきりらしい。巨大なドラゴンを一瞬でバラバラに切り飛ばし、腕力と魔法でもって他のドラゴン達を屈服させ、そして酒好きなドワーフ達を上回る酒豪っぷり。
魔法は兎も角、腕力と酒豪を聞くにどんな怪物少女であろうかと、リーダーであるフレイヴァルツは困惑していた。そしてその少女は、外の大陸から仲間達を捜すため国を飛び出してきた女王様であるらしい。アダマンタイト級冒険者である
「ですがドワーフ達も与太話をしているようには見えませんでした。それに一月前って言えば――」
「あぁ、わかってるさポワポン。私たちの依頼にも関わる事かもしれない」
雪山の行軍中も、そして今も上半身裸で窓際に立つ男『トーテムシャーマン』であるポワポンの真面目な台詞に、リーダーであるフレイヴァルツは頷く。
一月前の深夜、アゼルリシア山脈上空で見られた赤い光。生憎と銀糸鳥は帝都から出払っており、見ることできなかったが数日後に帰ってきた際に聞く事が出来た。そして詳しい情報を集めようとした矢先に、皇帝ジルクニフから直々に情報提供を受け、これに関しての調査依頼を受ける事となった。
「ひとまず、ドワーフ国で早々に手掛かりを掴むことができた訳だが……」
「早速当たりだったんじゃないのね?」
「わかりませんな。とりあえず言われた通り、拙僧達は商人会議長なるドワーフの方を待つしかないかと考えますが」
「っちぇ!これで空振りだったら、まぁ~た雪ん中アテもなく歩き回ることに事になっちまいますぜ」
そうなるだろう。一先ずその少女にも会えるように兵士にはお願いしたが、何せ彼らにとっては――英雄。どうなるかはわからないそうだが、アダマンタイト級冒険者であることと国からの依頼をちらつかせ、その少女と親しいドワーフを紹介してもらうこととなった。ドワーフの外見の違いはあまりわからないが、この国では一番少女と親しいドワーフらしい。
「入国したら少女と会いましょう。王都を取り戻したという話も含めて、調査をする。
ドワーフの国での行動指針は、一先ずこの二つでいいでしょう」
「了解しやしたっ!もう真っ白になって先頭歩くのは嫌なんですがねぇ」
セーデに限らずそれはみな同じだろうが、この場にいる全員共に本気で嫌がってなどいない。アダマンタイト級冒険者という矜持もそうだが、かのフールーダ・パラダイン直々に必ず情報を持ち帰ってくれと懇願されたのだ。
一国を背負う大魔法詠唱者。英雄の領域を超えた逸脱者――生きる伝説に、いかにこの件が帝国の行く末に暗雲をもたらす危険性があるのか『エ・ランテルの件で動くことができない自分に代わって、帝国の将来を救う手助けをして欲しい』などと言われては帝国を拠点とする冒険者であれば、誰もが断ることは出来ないだろう。
「散々言いましたが確認です。目標と思われる人物に会った場合、どのような外見であっても決して油断など――」
――その時、ノックのなかった扉が勢いよく開き
「遥か北方の大陸よりドワーフの国に参られた、シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン女王陛下の御成りである!」
――ブヨブヨした妙な生き物が、妙な宣言をしながら、さらに腹と思われる肉を弾ませながらノシノシと客間に入ってきた。
モモンガ様以外の第三者視点での書き方を模索中、読みにくい場合お知らせください。
みなさんお気付きかと思いますが、フールーダは帝国のためでなく私情で銀糸鳥に念押ししています。