オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
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異世界に転移した
シャルティアの体になっていた
ドワーフとズッ友になってクアゴアとドラゴンをぼこぼこにした
先日今作に関する活動報告を投稿しています、作者ページからご確認いただければ幸いです。
設定の追加(シャルティアの味覚有)WEB限定版のキャラ登場予定等
『帝国とドワーフ』
「私に、客ですか?」
はて?と思わず首を傾げる。転移して既に一ヶ月となりそろそろ帝国を訪れたいと考えてはいたが、少々思うことがあり躊躇っていた。なので来客と呼ばれるような知り合いは、未だいないはずである。
場所はドワーフの現首都『フェオ・ジュラ』その貴賓室。
今ではすっかりモモンガ、もといシャルティア専用となった部屋。その扉越しにゴンドからの報告を聞きながら、モモンガは着替えを始めようとしていた。
「ヘジンマールもそこにいる?今日の講義は午後にお願い」
「はい」
「あ~っと……取り込み中なら後でもいいんじゃが?」
「いえ、続けて。情報は早いに越したことはありません」
むしろタイミングはいいくらいである。NPC設定によるプログラムの影響なのかは分からないが、何気ない歩行モーションから食事や礼儀作法まで体が勝手に動いてくれるのだ。その補助力はモモンガの意識次第であるが、ここ一ヶ月の間は常に全力介助してもらっている。
元々下着から全てユグドラシルからの装備のため、ある程度身につければ後は服がジャストフィットしてくれるので楽ではある。当初は、男だったプライドによりとてつもなく困惑したがその感情も今では鎮静化し、準備さえすれば後は体が動いてくれるのだからと、やや投げやりになっている。
(
投げやりというか半ば割り切ったやけくそな気持ちになりながら、アイテムボックスから着替えを取り出す。報告を聞きながらモモンガはいつも通り無心状態となり、一晩着ていたネグリジェに手を掛けた。
「それで?客というのは何処の誰なの?」
「帝国からの冒険者での、銀糸鳥というチームじゃ。人間が四人と赤い猿のようなのが一匹」
「え……サル?」
幸いネグリジェは胸の前を紐で結ぶタイプのため、胸が本物になった状態でもサイズに余裕があった。紐の長さがやや心許なくなるが。その短い紐を解いた瞬間、ぶるん、と、巨大な白い肉が揺れる。目に焼き付くほど白い乳房を包む下着は、ネグリジェと違いやや心許ない。小さな布から覗く乳輪は、薄いベビーピンクだ。
(こんなの見てもムラムラできないとか……あぁー、もう切り替えろ!今重要なのはサルだ!)
「うむ、エンコウという種族だそうじゃ。ワシは初めて見たぞ」
確か商人会議長の最初の帝国講義で聞いたことがある。帝国では国交のあるドワーフ以外の亜人種はもっぱら奴隷であり、闘技場や冒険者などで一定の活躍をした者は、市民権(のようなもの)を得られるらしい。確かその話の中で――。
「あぁ、アダマンタイト級の冒険者の!」
「なんじゃ!?知り合いだったのか?」
「いえ、商人会議長から聞いただけですよ。帝国では有名な冒険者だと」
「ほぉー、確かに強そうな連中ではあったの」
ネグリジェをアイテムボックスにしまい込む。寝る必要もなく字の勉強がてら読書をしていただけなので、汚れてはいないだろう。客と名乗るからには此方に会いに来たということになる。さっさと着替えておくに越したことはないだろう。
「それで、要件は?」
「それがじゃの、ワシと初めて会った調査団を覚えておるか?あれと同じ目的のようじゃ」
「……もしかして、私の行使した魔法による地震で帝国にも被害が?」
「ん?いや、そんな様子はなかったがの。流石に嬢ちゃんでもこの辺りから帝国にまで被害が出る魔法は……使ったのか?」
「国境さえ知らないのでなんとも」
頭を通したボールガウンの首元から髪を出す。鏡の向こうでは足にまで届く銀髪が、帯状に広がりキラキラと輝いて見える。これにボレロカーディガンを被れば髪が勝手に纏まり、後はフィンガーレスグローブを腕に通せばほぼ終了だ。
(これは、かなり不味いんじゃないのか?もし帝国に被害があれば賠償金とか請求されるんじゃ?)
ドワーフ国にも被害は出たが、モモンガが恩義を押し売りするような形で逆にプラスにする事が出来た。ドワーフも念願の王都を取り戻し、復興作業という嬉しい悲鳴を上げている。だが、帝国にもその方法が使えるかはわからない。
「それと総司令官からの伝言じゃ、『もし帝国があなたに危害を加えることがあれば、摂政会はあなたの立場を全力で保持する』とのことじゃ」
「……」
有難い申し出ではある。ドワーフが後ろ盾になってくれるなら、仮に金銭的な問題になってもなんとかなるかもしれない。その場合は、借金をするハメになりそうではあるが。
(とりあえず、会ってみなければわからないか。部屋に籠っていてもしょうがない)
鏡の前で腕を広げ身嗜みを確認する。全体的に黒い姿のため、埃などが付いていれば目立ってしまう。その分初対面の相手に与えるマイナスイメージは、重大なミスになりかねない。鏡の前で何度かクルクル回りながら確認を終え、そのままゴンド達が待つ扉へ歩き始める。
相手は帝国でも有数の冒険者なのだ。『冒険者は国家の下につかない』という規約があるらしいが、依頼内容次第ではグレーゾーンとなりうる。商人会議長が言葉を濁しながらそれとなく説明してくれたが、権力者が治める社会の中で生きるのであれば当たり前であろう。
国直属ではないとはいえ帝国でも有数の冒険者が、わざわざ調査のため一ヶ月近く掛けて来たのだ。それほどモモンガの使った魔法を重視しているのならまだいいのだが。
(何も裏がないといいなぁ)
相手の依頼者次第ではそんな都合よくいかないだろうな、と考えながら扉のノブに手を掛けた。
「おぉシャルティア様よ!どうじゃ?また飲み比べ勝負に付き合っちゃくれんか!?」
「馬鹿野郎ぉ!お前はこれからワシらと一緒に王都の復興作業じゃろうが」
「シャルティア様ぁ~、瓦礫除去作業のアンデッド、増やしてもらっていいかの?」
「えぇ、喜んで。百体ほどでいいですか?」
貴賓室を出て冒険者たちがいる地表部の砦へ向かう。途中で幾人ものドワーフに声を掛けられたり会釈を受けた。半分近くが酒の誘いだったのは、ドワーフなりの友好的な態度なのだろう。ちなみに飲み比べに誘われるようになった切っ掛けは、王都奪還後の国を挙げての祝勝会。モモンガ自身も今の体で初めての飲酒であったが、いくら飲んでも泥酔状態にならず、酒好きな種族であるドワーフ屈指の大酒飲み達に連戦連勝したためだ。
最後には摂政会の酒造長をも打ち破り、酒好きなドワーフ達には王都奪還以上の伝説となった、らしい。ちなみに飲んだ酒はどれも大味ではあったが、それはそれで鈴木悟の味覚には新鮮であり満足できた。
「すっかり人気者じゃの」
「えぇ、でもその理由が王都奪還じゃなくて酒豪のような気がするけど」
「わし自身は命の恩人やルーンの件があるが、他の者はそれもあるかもしれん」
「そういえばルーンの研究はどうなってるの?」
「王都復興でみな今は忙しいからの、じゃが嬢ちゃんの口添えで落ち着いたら研究室が貰えそうじゃ」
「そう……あ、商人会議長」
此方をみつけた商人会議長が会釈しながら歩いて来る。どうやらモモンガ達と同じく地表部の砦へ向かうようだ。最近はモモンガが提案した帝国との空輸貿易案に喰い付き、その準備に追われていたようでろくに会えずにいたが。
「シャルティア様、おはようございます」
「おはようございます商人会議長、あなたも帝国からの冒険者に?」
「はい、私の役職は外務も兼務しておりますので」
「ふ~ん……ところで彼らの目的は何か聞いていますか?」
ドワーフの中では帝国の文化にも詳しい商人会議長、彼なりの視点での情報が何かあるかもしれない。摂政会内のドワーフでもひと際長い顎鬚を撫でながらしばし考えた後――
「シャルティア様が使った魔法の調査だそうですが、それだけじゃないでしょうな」
「や、やっぱり?」
「その魔法を使った存在がどのような考えを持っているのか、それが一番知りたいのではないかと」
「考えですか?」
「えぇ、今でこそシャルティア様はこうして私達ドワーフと普通に話をしていますが、僅か一カ月で数多のドラゴンと巨人達を従え、アゼルリシア山脈を平定したそのお力は帝国軍といえど容易く打ち払うでしょう」
「確かに、帝国軍がドワーフの方々に伝え聞く程度であれば――」
「シャルティア嬢ちゃんなら余裕じゃろうな」
(でも平定したって言っていいのかなぁ、目に付く
今思えば後々にトラブルの種になりそうな種族に、片っ端から『死にたくなければ配下になれ』と、乗り込みまくった傍若無人な黒歴史と思えなくもない。
「そんな強大な魔法を使える存在が『話が通じる存在か』、それの確認かと思います」
「あぁ、なるほど」
「我々は王都を取り戻してくれたシャルティア様に……改めて言うのも何なのですが、全幅の信頼を持っております」
そう言うと商人会議長は照れたように咳ばらいを一つ、改めて歩きながら髭を撫で始めた。考えるときの彼の癖なのかもしれない。
「『話の通じない力』は、力を持たない者から見れば恐怖でしかありませんからな」
「私としても、少なくとも帝国には『敵』として赴きたくありませんね」
「……我らとしてもクアゴアとの戦いで援軍を送らなかった帝国に、思うところがないわけではありません。ですが、シャルティア様のお陰で解決した今、帝国との空輸貿易は大きな可能性を抱いております」
何処か熱の入った言葉だった。そういえば商人会議長という役職は交易が減った今肩身の狭い思いをしている、と酒の席で聞いた覚えがある。
「とは言え、ドラゴンによる空輸もシャルティア様のお力添えあっての事。摂政会を含めドワーフの希望としては、シャルティア様には帝国とも友好的な関係を築いて頂きたいです。仮に万が一敵対関係となった場合、勿論我らはシャルティア様の側に立たせていただきますが」
「それは……力のある方に付くということですか?」
「そう取っていただいても構いませんし、恩義を返すためと思っていただいても構いません。私も商人の端くれですからな、そうでなくても有利な方に付くのは当然の事でしょう?」
ドワーフはみな髭にまみれた顔のため、一カ月経った今でも表情はあまり読めない。だがその声色は何処か此方を試すような、同時に信頼を寄せているように聞こえた。
(ここまで信頼を勝ち取ったんだし、できれば友達の友達は友達になりたくはある。勿論相手が敵対してきた場合は容赦はしないけど)
「あちらの態度にもよりますが、私自身も善処はしますよ?」
「それは良かった。少なくとも私が知る帝国は、シャルティア様の機嫌を損ねる程無知無謀ではありませんよ」
あなたに飲み比べで勝負しようなどと言う、怖いもの知らずなドワーフは多いですが。などと微妙な発言を聞きながら、一行は肉眼で見えてきた砦へ歩を進めた。
「……シャルティア様、発言をお許しくださいますか!?」
場所は既に砦の廊下、先頭で客間に向かいながらここまで一切喋らなかったヘジンマールから声を掛けられ、何事かあったのかと少し警戒してしまう。ヘジンマールは鼻の先に掛けた小さな眼鏡を持ち上げつつ、敵意ではないが強い視線を向けてきた。
「ん?ヘジンマール何かあるの?」
「いえっ!そのシャルティア様のような
「あー……それか」
モモンガが安易に考えた『シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン』という名。五つの名前はこの地方では王族を表す。それを知ったのは十日以上前、丁度初めてヘジンマールの講義を受ける際に発覚した。
「そ、そのシャルティア様。しぃ、質問をしてもよろしいでしょうか!?」
「何かしら?」
「シャルティア様は何処の国の王族なのでしょうか?」
(……え?)
ヘジンマールは知識派の珍しいドラゴンだ。伊達に百年ドワーフの書物を読み漁っておらず。判断力も悪くないと思われる。またドワーフの王に対する思い入れがなかったためか、シャルティアに対する疑問をすぐ口にしてきた。もっとも、おっかなびっくりな口調ではあったが。
ちなみにこのやり取りの後、ドワーフ達の誤解を知ったモモンガは、貴賓室のベッドで頭を抱え眠らぬ夜を過ごすこととなる。そして翌日には開き直り『失敗したら逃げればいい』という決意の元、シャルティアの設定とは微妙に違う女王様プレイを決意していた。
「そういうことなら、ドラゴンであるヘジンマールが開ければいいんじゃないかの?相手と力の差を見せつける意味でもアリじゃろう?商人会議長殿」
「そうですな。聞くところによると兵士達が事前に伝えた、シャルティア様の魔法の件や王都奪還の話は半信半疑の様子だそうですし。シャルティア様に会いたいというのも念のためのようです。ここは荒療治で情報を教えて差し上げるのも一興かと思います」
「わかりました、では僭越ながら私が併せて宣言もさせて頂きます」
(え?宣言って?するの?)
モモンガが今も進行中となってしまった黒歴史から意識を戻すと、気を利かせたヘジンマールが丁度扉に大きな手を掛けている所だった。そして、扉を開けると同時に――
「遥か北方の大陸よりドワーフの国に参られた、シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウン女王陛下の御成りである!」
私はホモではありませんが銀糸鳥の方が蒼の薔薇より好きなんですよね。
まぁ登場少ないし、人気投票でも二次界隈でも蒼の薔薇が優先されるのは当たり前なんですけど。