オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記   作:ほとばしるメロン果汁
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うーんこの理不尽


『氏族王ペ・リユロ』

 

「そうか、来たか……」

「はいっ!今此方に案内させています」

「何人いるのだ?」

「それが、ドワーフ二匹を連れているだけだそうで」

「ほう?ドラゴンはいないのか?」

「はい……まさかドラゴン共は全て殺されたんじゃ」

「流石にそれは考えられん、ドラゴンだぞ!空を飛べるのだ、全滅などそう簡単にはいかん」

 

 氏族王ペ・リユロは頭をフル回転させて考えていた。聞くところによると戦いの痕跡もなく淡々と此方に案内されているらしい。歓迎と併せて会談の要請も事前に伝えており、承諾の連絡も受けている。ドラゴン達がいた城の様子も見てくるよう部下に伝えているが、そちらはまだだ。とはいえ城に入り無傷で戻ってきたとなれば、そういうことなのだろう。

 

 相手はドラゴンより遥かに強い。信じられなかったがクアゴアの軍を、三度の呪文で一蹴したという報告は事実なのだろう。であれば、それ相応の対応をしなければならないという事だ。だが、元々最悪の事態を想定し準備してきたため問題はない。

 

「準備は整っているな?」

「はいっ!ドワーフ共と歓迎の宴の準備も滞りなく」

「そうか、では到着次第待たせることなくこの場に通すのだぞ」

「はいっ!」

 

 これでいいだろう。相手がドワーフ共に味方しているのは把握している。ヨオズの殺され方が少々気になるが、新しい支配者を迎え、勢力を増した後、支配者を倒せばいいのだ。種族全体の将来を考えれば、あのフロスト・ドラゴンより強い支配者の下に一時的とはいえ身を寄せるのは、逆に良い事なのかもしれない。

 

 ただ、できれば相手の正確な力を把握したい。ドラゴンと同じように支配に入った後、情報収集すればいいのだが、今回の支配者は未だ謎が多すぎる。正確な力は無理でも、せめて一端は今この時に目にしなければならない気がしていた。

 

「き、来ました!」

 

 その報告を聞き、慌てて自らの服を確認する。クアゴアで唯一氏族王が着る服だ。元々クアゴアという種族は毛皮に覆われているため服など着ない。王としての威厳と分かりやすさのために作ったものだ。ドワーフの捕虜に作らせた王冠も在ったが、念のため今は外している。

 次に周りを確認する。元々はドワーフどもの大きな住処のひとつだったらしい建物。掃除も終えており、なかなか頑丈でこの都市では城の次に大きい。下の階には身綺麗にさせたドワーフ達を置いており、今頃会っている頃だろう。部下には降伏と共に、ドワーフ達を解放する意思を事前に申し出るように伝えてある。

 

 ――完璧だ。

 

 これでこの最上階にある謁見の間まで通し、降伏勧告を受諾すれば一先ずクアゴア氏族の平穏は保たれる。鉱石や黄金を差し出すのも、強欲なドラゴンで慣れているため苦ではない。後は新しい支配者を騙しつつ、力を――

 

 

 

 

「あなたが、クアゴアの王?」

 

 聞き覚えのない突然の声が耳に届いた。部下の声ではない。今更自らを王かどうか確認するクアゴアの部下などいない。

 同時に嗅覚が独特の匂いを拾う。クアゴアでもドワーフでもない。土の匂いではなく、強いて言えば過去の戦場で散々嗅いできた血の匂いに近い。匂いのする方向――階段へ目を向けると、いた。

 

「じゃあ、死のうか?メッセージは届いたのでしょう?他のクアゴアが話してくれたよ」

 

 暗闇でも栄える光る鉱石のような毛を頭頂部に持ち、毛皮に覆われていない肌と黒い服を着た自らより小さい者がいた。

 

「……死?」

 

 途端に恐怖に襲われる。死ねという言葉にでない。その現れた存在に、なぜか自らより弱そうなドワーフでもない小さな存在に恐怖した。

 

「なっ!……待って、お、お前たち!」

 

 恐怖に怯え小さい者から目をそらすと同時にドサリッと、周りから音がした。本能で音を追うと部下達が倒れていた。――気絶?いや、死んでいる?

 

 あり得ない、あの者はなにもしていない。今もあの場に留まって此方を見ているだけだ。

 

「へぇ~、あなただけ耐えられるんだ。勿体ないな」

 

 ただ此方を見ているだけだった瞳が、初めて興味を持った物に変わる。良い変化だと本能が告げるが――、だが恐怖は止まらない。近づいて来る足音がまるで死刑宣告のように、さらに恐怖を増していく。

 

「…な、なんで。私、を」

 

 ――殺すのか?

 

 最後まで言葉にならない。毛はとっくに逆立ち、体のあちこちから出血と共に体液が出始めた。

 

「うわ~、ギリギリまで耐えるとこうなるのか。汚いな~」

 

 これ以上近づかれては本当に死んでしまう。だが動けない、体全てが毛の一本まで動かせる気がしない。

 

「それで、なんで殺すか?」

 

 いつの間にか目の前まで恐怖が来ていた。興味は失せたのか、玉座から動けない王をなんでもない物のように見ている。

 今もガタガタと震えが止まらない。ひぅ、と声なのか息なのかわからない物が口から漏れ出る。

 

「赤いクアゴアで送ったメッセージ通り、私があなたの前に着いたから時間切れなの」

 

『私がお前の元にたどり着くまでが期限だ。それまでにお前の部族の一匹が私を奴隷にすると言った戯言の罪を謝罪するなら良し。慈悲を願わないのであれば、これがお前の運命だ』

 

 レッドクアゴア――ヨオズは、確かにそう言って自ら首を切り裂いた。だがそんな事で、たった一匹の部下の一言で自分は……。

 

 

「私自身はそれほど大した存在ではない、今もおまえと圧倒的な力の差を見せつけているが、その中身は平凡な物だ。私がこれからやる事成す事、全てが良い結果になるなんて思ってはいない。批判や侮辱も受けるだろうしそれは当然だと思う。

 

 ――だが私はね、自らのこの『体と名前』をとても大事にしている。エロいキャラだから欲情してしまうのはしょうがないか?でもね、奴隷とか物扱いとかそんな風に見られるのは我慢ならない。ペロロンチーノさんは異種〇物や奴隷物も守備範囲だったけど、私はいたってノーマルだし」

 

 

 何を言っているのかがわからないが、支配者の大事な物を汚した。それならばこの者の怒りもわかる、だがそれが自らにまで降りかかるのは、支配者の気まぐれという物なのかもしれないが。

 

「お、おぉ……っく!ぉねがいがッ…!」

「お願いか、聞こう」

 

 途端に恐怖が薄らいでいく、体は相変わらず動かない。だが、なんとか息を整えることはできた。口の中は体液と混りあった血の味がするが、喋ることは出来そうだ。

 

「お、お願ぃ、いたし……ます。クアゴアは、クアゴア族は!きっと……あなた様の…」

「なるほど、死を覚悟しながらも意思のある強い目ね。心配せずとも殺すクアゴアは、王であるお前で最後のつもりだよ。歯向かったら別だけれど」

「あ、あり……ありがとぅ、ご、ございます」

「……」

 

 静寂。あれほど死の恐怖を感じたばかりだが、目の前の恐怖にも何も感じない。何かしら考えているのか全く動かず此方を見ている。同族であればこの支配者の考えることが、少しでもわかるのだろうか。だとすれば死んだあとはデレの地ではなく、この支配者の同族に生まれ変わりたいものだ。そんな機会が存在すればだが。

 

「……お前の名前は?」

 

 最後に王として名乗らせてから死なせてくれるのだろうか。慈悲深い。先程まであれほど恐ろしかった存在なのに。

 

「ペ・リユロ」

「そう……先ほどの言葉は取り消します」

「なっ!そ、そんな……ぜ……」

 

 殺すクアゴアは自分で最後だと、確かにそう言った。体は確かにろくに動かないが、耳は完全にやられてはいない。クアゴア族をこれからも殺すという事。このような存在に殺し尽くされれば、最早クアゴアは文字通り根絶やしになるしかなくなる。

 

「どうか、慈悲を……私で最後に…」

「他のクアゴアと少し違うし、王だけあってレアね?……リユロ、私に仕える気はあるか?」

「っ!?」

 

 一瞬なにを言われたのかがわからなかった。仕える?それは生き残れるということか。先ほどまで絶対だと思われていた死に、自らは沈んでいたはずなのに。

 

「どうなの?」

 

 クアゴア種族の小さい眼を見開き、声の主を見つめる。余計に目から血が噴き出したが構わない。残った全力でこの誘いに答えなければ、今まで声高々に氏族王ペ・リユロとして名乗ってきた自らの半生が否定されるような気がした。

 

「あなた様が……許してくださるのであれば」

「そうか、生命力持続回復(リジェネレート)!」

 




クアゴア族の扱いは今後特に影響はない予定なので、少々ぞんざいになってしまいました。
絶望的雰囲気な文章でしたがどうでしょう、二次なら許されるレベルだと嬉しいです。


『ペ・リユロは結構好きなんですけど、死ぬのがドラゴン1匹だけって少なくない?じゃあ部下の失態を拭う責任者として死のうか?byメロン』 ← という後書きまで用意したのですがギリギリでやっぱ生かすことにしました。書いてる内に頭の中でキャラが動いたってやつでしょうか。我ながらわかりません。使える話ができたら再登場させます。


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