オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記   作:ほとばしるメロン果汁
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『一人』

「ルーン……ルーン文字よね?こんなのであってる?」

 

 モモンガは多少驚きながら、自分の知っているルーン知識を脳内から掘り出す。大半はギルドの初期メンバーであるタブラ・スマラグディナから聞いた話だが、ユグドラシルにもある技術だ。しかし世界の違うこの地で共通点があるのか半信半疑ではある。

 とりあえず覚えている文字ですぐに浮かんだものを、がりがりと削りながら石床に書いてみる。

 

「おぉ、中位文字の一つじゃな。嬢ちゃんの国でも……いや国ではルーン技術は盛んなのか!?」

「まぁある程度は、こんなナイフ程度なら仲間もすぐ作ってくれましたし」

 

 おもむろにアイテムを取り出す、ユグドラシルではありふれた十のルーンが刻まれたナイフだ。本来はこれの倍以上のルーンが刻まれた武器防具がアインズの手持ちやギルドには保管されていたのだが――

 

 

(あ、思い出したらヤバイ、泣きそう……)

 

 ――ボーナスのほとんどを注ぎ込んだシューティングスター

 ――ギルドの権威の一つだった十一ものワールドアイテム

 ――引退した仲間たちの残していった数々の装備とNPC達

 

 思い出したらきりがない、高ぶった精神が強制的に鎮静化していくが、感情が次々と漏れ出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは……」

 

 ゴンドは戦慄していた。少女の手で差し出されたナイフ、かつてルーン工王が旅に出る際、ともに消えた国宝『大地を激震させるハンマー』。そこに刻まれたルーンは六つだったそうだが、今目の前には十のルーンが刻まれたナイフ。驚くなと言う方が無理であろう、ルーンの数以外にも見事な装飾が施されたナイフだ。

 

(いったいこの嬢ちゃんの国はどれほどの――)

 

 ドラゴンを肉体でねじ伏せる本人の力もそうだが、全盛期のドワーフを越える技術力。本人に魔法や知識力もありドラゴンに物怖じしない度胸。断片的に見れば、素晴らしい国なのだろう。ルーン技術もあるようだし叶う事なら一度訪れてみたい。そんな事を考えながら顔を上げると

 

「ど、どうしたんじゃ嬢ちゃん!?」

「え?」

「なんで泣いとるんじゃ?」

 

 紅の瞳に溜まった涙が頬を伝って滴り落ちている。しかし表情は全く変わっていない。だがそれ故に、その瞳の震えが感情を物語っていた。『――悲しい』と。

 王都奪還の噂を聞いた際、シャルティア嬢の事情も多少は聞いていた。仲間を追ってこの地に来たのだと。ゴンドは王都へ追随するための準備のため、最後までその事情を聴かなかったが、今なら多少わかる。相当の苦労を重ねてきたのであろう。

 

 同時に自分が恥ずかしくなった。運よく宝物庫が開いてれば、そして武具と技術書が無事ならくすねようと考えていたのは事実だ。ルーン復興のためという自分の夢でもある大義名分はあったが、せめてシャルティア嬢本人に事前に相談すればよかった。

 訳も聞かず見逃しながら運んでくれた理由は分からないが、命の恩人ばかりかさらなる恩ができた、その恩をあだで返すようなことを自分は――

 

「すまなかった!嬢ちゃん、いやシャルティア様よ。盗みなどはせん。宝物庫も無事なようじゃし、ワシの用事はこの王都にはもうないわい」

「いえ、こちらこそ取り乱したりしてスミマセン」

「謝らんでくれ、そのナイフはそれほど大事な物なんじゃろう」

「えぇ。仲間が残してくれたものですから。ゴンドがルーンに拘るのも」

「あぁ父と祖父の残したルーン技術、ワシ自身は無能じゃったが……途絶えさせるわけにはいかないと思うばかりに、シャルティア様には迷惑をかけた。本当にすまん」

 

 下げていた頭を上げると、既に涙を流していた姿はない。見えない間に拭ったのか、跡すら見えない。

 

「しかしルーン……ユグドラシル……やはり繋がって……となると……帝国も……もっと情報……」

 

 ぼそぼそとあまりにも小さな声であったために、何を言っているのかさっぱり分からない。

 

「ゴンド、ルーン技術が途絶えるとは?」

「……言葉通りじゃ、王族が国を離れた二百年近く前に外の技術がドカッと入ってきての。外の技術の方が、人の魔化技術の方が生産効率が良い。それで年々ルーン技術が衰退していったんじゃ……」

「ふ~む、ドワーフのルーン技術についてもっと教えて欲しいんだけど」

 

 はて?と考える。怒るなら兎も角、なにかこの少女の琴線に触れるものがあったのだろうか。随分とルーン技術に興味を持ってくれているようだが、彼女の持つナイフから察するに自分の知るドワーフの廃れかけたルーン技術など、彼女の国とは天と地ほどの差があるのではないだろうか。

 

「砦に歩きながらにせんか?ちと長い話になるしの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうなると最初に会った調査団にいたのも?」

「うむ、そもそも嬢ちゃんに最初助けて貰った調査団に志願したのも、研究費用のための報酬目当での。文字通り命がけじゃったから報酬も相応だったんじゃ」

 

 地震を起こした本人としては少々申し訳ない。ドラゴン達に待機を命じた後、しばらく歩きながらルーンの説明を聞き終え、総司令官達ドワーフを待機させている砦まで来ていた。あらかたゴンドからルーン技術については聞き終えている。

 

 残念ながらモモンガが聞きたかったプレイヤーに繋がる話は得られなかった。一番聞きたかったそもそものルーン技術の開発者はわからない。だが歴史にも関わる本格的な調査はドワーフの国に戻ってから調べればいい。今はこの元王都で出来る事をしなくては、例えば――

 

「ねぇゴンド、あの宝物庫にルーンの技術書があるのは間違いないの?」

「流石に二百年前放棄されたからハッキリとはわからん。だが今見た限り扉が動かされた形跡はないし、周りも壊されておらんかった。ドラゴン達もお手上げだったんじゃろう」

 

 ドワーフの技術も捨てたもんじゃないのぉ、と朗らかに笑うゴンド。確かに二百年もの間宝を守り続けた技術は素晴らしい。モモンガのようなプレイヤーにかかれば破壊など造作もないと思うが。

 

(ただ開けるのは無理かな……あぁ~開錠系のアイテムさえあればなぁ~……おっといけない)

 

 慌てて首を振る、また悲しみの海に沈んではややこしい事になる。今できない方法を考えてもしょうがないのだ。今できる事を考えてこそ建設的な明日があるのだから。とりあえずルーン技術については、プレイヤーの手掛かりになるかもしれないので引き続き調査をしたい。さしあたって見てみたいのは歴史書とルーン技術書ではあるが、残念ながらドワーフの使う文字は読めない、だが方法はある。

 

「ルーンの技術書だけど、私も見てみたいから。この王都が解放された時一緒に見せてもらえるように頼んでみようか?」

「……は、い?いいのか?そんな事を」

「えぇ、流石に過去に献上した武具は無理だと思いますけど」

「あ、いや。ありがたい申し出じゃが、もう嬢ちゃんへの恩は返せる限度を超えてしまいそうなんじゃが」

「いいのですよ、ただ私は読めないと思うので……」

「何じゃそんな事!わかっておる、わしの持てる知識を全て使って解説してやるわい」

「お手柔らかにお願いします」

「そうじゃ!酒におぼれとるルーン工匠にも声を掛けとかんとな」

 

 聞けば他のルーン工匠はみな諦めているらしい。ゴンドは意地でも父や祖父の実績と名を残そうと奮励しているようだが、彼には才能がないらしく全く研究が進んでいないそうだ。正直モモンガにとって、プレイヤーが関わっているかの確認以外はどうでもいいのだが、向こうが恩に感じてくれるならそれに越したことはないだろう。

 

「ところで技術書って見せてもらうだけじゃなく、貰う事ってできる?貰えたらそのままゴンドにあげるけど」

「な!?」

「一応廃れた技術なんでしょう?摂政会としても惜しくないんじゃない?」

「……確かにそうかもしれん、ましてや嬢ちゃんは国とっての英雄じゃから無視はできんし」

 

 ここで鍵になるのは出発前にドワーフと交わした覚書だろう。正式な契約書ではない旨も書かれているし、作戦の結果次第では上乗せも明記されている。言わばお互いに『おおよそこれ位にしましょうね』と、くぎを刺した形になる。そのおおよその範囲にルーン技術書は含まれるのであろうか。アッサリ頷いてくれれば良し、交渉となると無理は出来ないが。

 

「それとゴンドはこれからもルーン技術の研究を進めるのかしら?一人でも」

「嬢ちゃんが許してくれるなら、やってみせるとも!これまで以上に、ルーンの技術を不滅の物とするために!」

「なら私と一緒ね」

「……嬢ちゃんと一緒?」

「私も今一人だから、一人でこの世界の何処かにいるかもしれない仲間をこれから探すから。だから似てるかなって」

「……」

 

 先程思わず泣いたせいか少し弱気になっているのかもしれない。まだシャルティアの体であるこの身と、心もとないがアイテムもある。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンもある。消えたわけではないのだが。

 

「ゴンド、私は絶対あきらめないから」

「……」

「もう手の届かない所へ行ってしまったかもしれないけど」

「……」

「どんな手を使っても、たとえ世界を越えてもあの頃に戻りたいって思うから、さ」

「そうじゃな。ワシもあの頃の輝かしいルーン工匠達の時代へ、戻りたいのかもしれんな」




今のところ根無し草のモモンガ様がゴンドにしてあげられるのはこれくらいです。書籍だとナイフではなく剣ですがないものはしょうがない。建国したら引き抜くんちゃう?(未来に丸投げ)
今回はシリアスっぽいですが、帝国でも王国でもやっさし~↑お友達いっぱいできるし大丈夫です!


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