オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
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「本当にあの方には驚かされっぱなしだな」
「そうですな。しかしあのようにアッサリ難所を抜けられますと、案内役のワシと難所と名付けたドワーフ族は立場がないですなぁ」
総司令官と道案内としてついてきたもう一人のドワーフは、道中で見せた前方を飛ぶ少女の力を小声で褒めたたえあっていた。唯一の役目である道案内の役を取られた形になってしまった。
そのように老練のドワーフは考えてしまったが、飛行魔法と耐性魔法をあのように見事に使用されては見事と言うほかなかった。
溶岩地帯手前の休憩の際、事前に飛行可能時間を聞き出してから溶岩の少ない、つまり温度の低いルートを案内するつもりだったが良い意味で裏切られてしまった。
シャルティア嬢は「試したいことがある」と、言い自らに何某かの魔法を掛けた後、なんと溶岩に直に手を入れたのだ。唖然とする二人に対して「思った通り、全く熱く感じませんね」などと気楽な笑顔をこちらに向けて来る表情に暑さに対する苦は全く見られず、二人ともおっかなびっくり試してみたが、程よく風呂程度の温度に感じられた。ちなみに顔をぶん殴ってもう一度試したが、結果は同じだった。
その結果自らの知る最短ルートを提案できると内心心躍ったが、そこでまたしてもこの少女は便利な魔法があるのだという。今度は
それが本当であれば、最初から自分の役割がないも同然ではないか!などと大恩ある少女の前で言えるはずもなく、ひとまず試してみようと言う事で出発することとなった。
結果は最早笑うしかなく、熱さは当然問題にならずルートも天井に伸びた岩の柱を避ける以外、完全な一本道となった。考えてみれば自らの覚えているルートは、徒歩を前提としたルートだったので当然ではあるのだが。
そして第三の難所も同じように毒への耐性となる魔法を掛けてもらい、天井ギリギリを飛行すれば易々と突破できてしまった。その際、道案内役である自分が何のために付いてきたのか、と少しばかり考え込んでしまう事になったが。
しかし今はそんな些細な自らのプライドなどどうでもよくなっていた。長年の悲願であった元王都『フェオ・ベルカナ』が肉眼で見え始めたのだ。自らと同じく軍属だった祖父に聞かされ、そして後を託された元王都の奪還。その瞬間に立ち会えるかもしれないとなれば、感じ入ってしまうしまうのは致し方ないだろう。
老兵のプライドで声こそ平静を装っているが、内心の叫びと感情の高ぶりをなかなか処理できないでいた。だがこの中で年長者たる自分が一番落ち着いて冷静に行動しなければならない。
「あの、シャルティア様。ここから先はドラゴンがいるかもしれねえ、一旦休憩がてらなにか作戦を立てましょう」
「え?あ、はい」
振り返り意外そうな反応を示す少女に不安を覚えるが、考えてみればここまで作戦らしい作戦も立てれなかった自分を思えば苦笑いも出てしまう。何処か手頃な場所はないかと探すと、元王都の守りの要だったと思われる見すぼらしく崩れた砦を見つけ、合図をしつつ降りていく。しかし崩れた天井の穴の中に鈍く光る体毛が覗いた瞬間、緊張が走った。
「く、クアゴアがおるぞ」
「情報を引き出すための捕虜にします」
何のことはないように心強い言葉を掛けられる。此方を追い抜き先に砦に降り立った少女は、すぐさま驚き硬直している眼前のクアゴアに向かって手を突き出した。
「『
「よぉ、いきなり上から降ってきて驚いたぜ」
クアゴアの豹変ぶりに声が漏れそうになるが、最早驚くことにつかれ始めていた二人のドワーフは、また何か凄い魔法を使ったんだろうと半ば麻痺したように内心の困惑を処理し、そのまま此方を見上げる少女の傍に降り立った。
「おいおい、そっちにいるのはドワーフじゃねえか。あーなるほど、お前も奴隷を連れているのか?」
「え?奴隷?」
「な、なんじゃこやつ。どうなっとるんじゃシャルティア様よ」
「精神魔法で私の事を友人のように思い込んでるんですよ。私が最初に会った時、別のクアゴアも言っていたんですが、クアゴアってドワーフ族を奴隷にしてるんですね」
「そう言われていますね。最初死体が見つからないのは、連れて行かれて喰われたと思われていたそうですが。近年は捕まりそうになった者が、そういった会話を耳にするようになりましたので」
「お、おい奴隷たちと随分仲が良さそうだな」
三人で話し込んでいると、シャルティア嬢を友人?と思い込んでいるらしいクアゴアが困惑していた。ドワーフ二人に「少し黙っていてください」と小声で伝えてきたシャルティアは、クアゴアに改めて向き直る。
「ごめんなさい、それでここにあなたの奴隷がいるの?他にクアゴアはいないの?」
「下の階にいっぱいいるぞ、奴隷もな。この近くに良い鉱脈があってな、ここに奴隷たちを寝泊まりさせて毎日鉱石を掘らせてるのさ。まぁ俺は普段王に仕えていて、ここにいるのは別件なんだけどな」
「別件?」
「あぁ丁度良かった。ドワーフじゃないそうなんだが、お前に似た姿の奴を客として招くように王に言われてるんだよ。何処かで見かけなかったか?」
「え?」「なに?」「なんじゃと!」と、三人それぞれ驚きの声を上げる。
「嘘みたいな話だけどな。なんでも、そいつ一人に軍が壊滅させられたとかで全く勝てる気がしないんだとよ。そんで追撃してきたらすぐに降伏するから、来たらすぐに知らせるように言われてるんだわ。俺は王の強さを尊敬してるけどよ、氏族王ペ・リユロともあろう者がちと情けないと思わないか?」
「……え、えぇそうですね」
「あぁ~なるほど、そうなりますね。確かに」
横でしきりに頷き、心底納得するような仕草を見せるドワーフの総司令官。種族は違えど、軍を預かる身として同じように思うこともあるのだろう。無論軍歴がさらに長い老兵も同意見だった。当初熟練者が多いドワーフの兵達は、クアゴアの増援の規模に目を見開き絶望した者もいた。その際増援に来たシャルティア嬢を見ても、その姿には期待は持てず逆に何かの冗談かと、自分も含め疑心に包まれ混乱が益々広まってしまった。尤も軍勢に打ち込んだ眩い雷の魔法を目にした途端、みんな黙ったが。
「ここだけの話だけどよ、俺はそいつが現れたら強さを確かめてやろうと思ってるんだぜ」
「強さを確かめって、どうやって?」
「決まってるだろ。奴隷を引き渡して油断したところで、俺の爪をそいつの腹か背中に突き立てるのよ」
「……へぇ~」
思わず、僅かに後ずさってしまう。気のせいか背中越しではあるが、僅かに笑いを堪えるように肩を震わせる少女に、おとぎ話に出てくる二百年前の魔神を思い起こさせる殺気が見えた気がしたのだ。
「しゃ、シャルティア様。こやつは王の居所を知っているようじゃし案内役に使えば――」
――ドサリッと、調子良く話していたクアゴアがそのまま地面に倒れた。
「え?」
ここまでの道中でシャルティア嬢の魔法は、どうやってもドワーフ族には真似のできない物であった。だがそれは真似できないと判断できる事象や現象が
「ごめんなさい、他を捜しましょうか。それとここにいるドワーフ達もなんとかしましょうか」
振り返り、何事もなかったように淡々と此方に謝罪をする少女。ドワーフから見てもミスリルのように銀に輝くような美しさを持つ人間の少女。それが今は少しだけ恐ろしく見えた。
「そうか、もう来たのか」
「はい、先にドラゴンに会いたいとのことで案内しています。上手くすれば相討ちになるかもしれません」
「いや、それは期待しすぎだろう。戦いは起こるかもしれんが、ドラゴンどものあの様子ではな」
氏族王ペ・リユロは愚かではない、部下の報告を聞きつつ次に何をすべきかを考えていた。
自分たちより強い強者と強者が会うのだ。下手に近づき戦いの余波による巻き添えで命を失っては目も当てられない。
それに向こうが先にドラゴンに会いたいと言っているのだ、邪魔をして下手に機嫌を損ねてはいけない。
「ドワーフ達を身綺麗にさせておけ。それと歓迎の宴もだ」
「はいっ!」
例え相手より弱かろうとも自らは、クアゴア全氏族を束ねる氏族王ペ・リユロなのだ。へりくだるにしても王としての態度で降伏を申し出なければ、クアゴア族の優秀さは認められずその後の扱いは過酷なものになってしまうだろう。
未だに会えてすらいないモモンガの内心などつゆほども知らず、氏族王ペ・リユロはそのように考えていた。
Q.シャルティア+モモンガ様って素の状態でも溶岩に耐性ありそうなんですがそれは…
A.仲良くなるためのモモンガ様必死の演技と演出だと思いますです