IS 鈴ちゃんなう!   作:キラ
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あらすじに原作7巻までやると書いていますが、ひょっとしたらそこまでいかないうちにオリジナル展開に入って〆るかもしれません。


第5話 試合開始!

 鈴の宣戦布告から2週間が経った。その間、俺とあいつはほとんど口を聞いていない。とはいっても別に無視しているとかそういうわけではない。廊下で会えば挨拶くらいはする。……まあ、挨拶くらいしかしなかったのも事実だが。俺も鈴も、クラス対抗戦が終わるまでは互いを敵同士だと認識しているから、余計な話をする気はなかった。加えて、そもそも2人の間の根本的な問題が解決したわけでもないので、気楽に話しかけるなんてやろうと思ってもできないのだった。

 まともに中身のある会話をしたのは1回だけ。ある日の休み時間に突然1組にやって来た鈴は、俺を見つけるなりこんなことを言った。

 

『あたしの専用機――甲龍(シェンロン)って名前なんだけど――近接格闘型のパワー重視の機体だから。といっても、アンタのISみたいに遠距離用の武装が一切ないってわけじゃないけどね』

 

 なんでそんなこと教えに来たんだ? と俺が問うと、鈴は肩をすくめながら、

 

『あたしも本当は敵に情報渡すなんて真似したくないわよ。けど、周りが勝手にアンタの白式のこと教えてくれちゃってね。あたしだけ相手の機体の性能知ってるのはフェアじゃないでしょ』

 

なんて答えを返して、そのまま廊下へ出て行った。律儀なことをするもんだと思ったが、それだけ今度の勝負にかける意気込みが大きいということなのだろう。

 そういうわけで、俺も負けられないと気合いを入れ直して、今日までISの訓練を続けてきた。

 そして今日。いつものように授業を終えた後、放課後の訓練のために第3アリーナへ移動する。

 

「では一夏さん。まずは昨日教えた動きの復習から――」

 

「あ、ちょっと待ってくれセシリア。今日は先に箒と手合せをしてみたいんだ。かまわないか?」

 

 いつもと同じ要領で始めようとしたセシリアの言葉を遮って、ひとつ提案をする。こうして俺の方から訓練の内容を申し出ることは初めてだったため、箒もセシリアも少し驚いているようだ。

 

「え、ええ。1回模擬戦をするくらいならかまいませんけど」

 

「私も準備はできているから大丈夫だが……急にどうしたんだ、一夏?」

 

「ああ。ちょっと試したいことがあってな」

 

 

 

 

 

 

 一夏の希望通りに、今日の訓練は箒と一夏の手合せから始まることとなった。彼からそんな意見が出たことに少し驚いていた箒だったが、打鉄を展開し、白式と向き合った今ではすでに目前に迫った勝負のほうに集中している。現在の相手との距離は5メートル。クラス対抗戦での試合開始時の規定位置と同じ間隔を意識してのものである。

 

「準備はよろしいですわね――それでは、始めてください」

 

 セシリアの声が試合開始の合図となり、箒は打鉄の基本装備である刀型近接ブレードを構え、先手必勝とばかりに白式に斬りかかる。対する白式は特に動こうとはせず、唯一の装備である雪片弐型でその一撃を防ぎにくる。

 

 ――ガキィィン!!

 

「――む?」

 

 刀と刀がぶつかり合った瞬間、箒はその感触に違和感を覚えた。だが攻撃の手を休めることはせず、続けて第2撃、第3撃を間髪入れずに叩き込む。

 ISと生身という違いがあるとはいえ、彼女が幼少のころから培ってきた『篠ノ之流』の剣術は十分に威力を発揮している。それ故、スペックで大幅に劣っている一夏の白式相手にも、箒の打鉄は今まで十分に対抗できていたのだった。

 ――だが。

 

「………っ!?」

 

 なんだこれは、と箒は心の中で焦りを覚える。彼女は一撃ごとに刀に込める力を強めていた。その間、白式は一度も攻撃してこようとはせず、ただ襲い掛かる剣撃を受け止めるだけ。戦いの様子を見守るセシリアからすれば、開始直後から箒が攻め続けているように見えるかもしれない。

 しかしそうではない。一撃ごとに威力を上げているはずなのに、一撃ごとに手ごたえがなくなっていく。……まるで、攻撃を見切られて、すべて流されてしまっているような。

 

「くっ! はあああっ!」

 なんとか一発ダメージを与えようと、箒は持てる力すべてを込めて刀を『縦』()に振るう。

 

 ――こんな感覚、一夏相手では初めてだ。つい昨日までは、彼にここまでの技量は備わっていなかったはず。剣道の腕だって、まだまだ鈍ったままだ。

 

 ――なのになぜ、こんな動きができる? これではまるで……

 

「なっ……」

 

 フェイントすら織り込んだ彼女の『横』()薙ぎは、かすかに白式の左腕に触れた。

 だが、所詮かすっただけ。ダメージを受けた様子など微塵もない白式は、回避から一瞬のうちに攻撃へと動作を移し――

 

「ぐぁっ……!」

 

 重い金属音が響いたと感じた時には、すでに打鉄の右手に近接ブレードはなかった。後ろを振り向くと、5メートルほど向こうに今まで箒が使っていた武器が転がっている。

 

「……私の負けだ」

 

 力なく彼女が敗北を口にすると、一夏も刀を降ろし、雪片弐型は待機状態に戻った。

 セシリアの方をうかがうと、あっちもあっちで呆然と目を見開いている。それも当然だと箒は感じる。今までの一夏からは想像もつかないような戦いっぷりを見せられたのだ。平然としているほうがどうかしている。……さらに言えば、先ほどの一夏の動きにはある大きな特徴があったことも、驚愕の理由のひとつだろう。

 

「一夏、今のはいったい……」

 

「ああ。こんなにうまくいくとは思わなかったんだけど――」

 

 ぽつぽつと語られる一夏の答えを聞いて、箒もセシリアも、さらに目を丸くしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「――ふむ」

 

 IS学園生徒会室には、2つの人影が椅子に座って向かい合っていた。

 自他ともに認める『IS学園最強』の生徒会長。在校生の中で唯一の『国家代表』である更識楯無は、手にした書類を眺めながら眼前の少女に語りかける。

 

「やっぱり私としては、『凰鈴音は織斑一夏の元カノ説』を推したいんだけどなあ」

 

「……いや、そんなことを私に言われましても」

 

 『こじれた関係』と書かれた扇子を広げる楯無に対して、困ったような表情を見せるのは生徒会副会長・布仏虚である。実際、一度も会話したことのない人間の交友関係について語られてもまともな反応のしようがないのは当然なのだが、この生徒会長はその当たり前のことを気にするような性格ではなかったりする。

 

「1年生の有志の人員から集めた情報によると、2人はこの1ヶ月ほとんどまともに会話せず、互いに訓練に明け暮れる日々。そして今日のクラス対抗戦で雌雄を決する――これはもう確定でしょう。ひょっとすると試合が終わったらヨリを戻しているかもしれないわ」

 

「……とりあえず、あまり出歯亀な行動は慎んだ方がよろしいかと」

 

「出歯亀じゃないわよ。世界で唯一ISを動かせる男の子の情報を集めることは無益じゃないでしょう?」

 

 ……それは正論だが、彼女の場合半分以上自らの興味本位で動いている気がしてならないというのが虚の見解だ。

 

「まあ、とにかく」

 

 わざとらしく言葉を切ったかと思うと、楯無は一度扇子を閉じて、一瞬のうちに再びバッと開く。そして、少しだけトーンを落とした声で、独り言のようにつぶやいた。

 

「――この2ヶ月弱でIS素人クンがどこまで成長したのか、見せてもらうとしますか」

 

 いつ入れ替わったのか、扇子の文字が『お手並み拝見』になっている。そしてその軽い口調とは裏腹に、彼女の顔つきは生徒会長のものに変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 間もなくクラス対抗戦第1試合が始まろうとしている第2アリーナは、いろいろと噂になっている織斑一夏と凰鈴音の勝負を見ようとやって来た生徒たちですでに満席となっていた。それに出遅れたセシリアたちは、現在ピット内にあるリアルタイムモニターから一夏の様子を見守っている。

 

「……結果はどうであれ、この試合が終わった後には根も葉もない噂が消えるといいのですけれど」

 

「まったくだ」

 

 珍しく箒と意見が一致する。彼女たちの言う『根も葉もない噂』とは、もちろん今から試合をする2人のことについてのものだ。

 凰鈴音の転校初日のぎこちない会話の応酬。その翌日の宣戦布告――これだけで、年頃の少女たちの想像力をかきたてるには十二分だったらしい。『2人はかつて命を奪い合った仲』『実は生き別れの兄妹』などなど、様々な憶測が学園中を飛び交った。

 その中で最も支持された予想は『実は昔付き合ってた説』である。正直これはセシリア自身もありえると思っていたのだが、当の一夏本人がはっきりと否定したため真実ではないようだ。

 だが、本人が否定したところでそれを信じようとしない人間もたくさんいるわけで。今でもその噂は流れ続けている。一夏を狙っているセシリアとしては、いつまでも元カノがどうのこうのという話が消えないでいるのは御免こうむる事態だ。なので、この勝負で2人が普通に会話する関係に戻ってくれることを切に願っている次第である。

 

「ねーねーセシリアー。セシリアって織斑くんの訓練ずっと見てたんでしょ? どう、この試合勝てそう?」

 

「篠ノ之さんはどう思う?」

 

 考え事をしているうちに、いつの間にかクラスメイトたちに取り囲まれていた。このトーナメントで優勝したクラスには学食デザートの半年フリーパスが配られることになっているので、一夏の技量に関してはかなり気にしているのだろう。

 

「そうですわね……勝てる可能性はある、といったところかしら」

 

「ああ。うまく波に乗ることができれば、一夏は勝てるだけの力を十分に持っている」

 

「おおー! なんだか頼もしい言葉だ!」

 

 セシリアと箒の言葉を好意的にとらえて舞い上がるクラスメイトたち。確かに、代表候補生相手に『勝機がある』と言ってもらえただけでも喜ばしいことなのかもしれない。

 

――ですけど、そう簡単な話ではないですわね。

 

 いたずらに周りの士気を下げるのも気が引けたので、セシリアは厳しい見解を胸の内にしまう。

 ……絶対に勝てないわけではない。一夏が現在持っている力をすべて引き出すことができれば、おそらく状況は互角か、あるいはそれ以上になるだろう。

 問題は、いかにしてその力を引き出すか。

 

「さすがにアレを安定させるだけの時間はなかったからな……」

 

 セシリアにだけ聞こえるような声で、ぼそりと箒がつぶやく。

 

「ええ……この勝負、序盤の流れでほぼ決まりますわね」

 

 彼女がそううなずいた瞬間、試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。

 




というわけで本当に試合開始したところで終わらせました。タイトル詐欺ではないはずです。一応試合は始まりましたから……

一夏が箒を圧倒しちゃってますが、別に一夏最強化計画とかは立てていませんのでご安心を。詳しいことは次回で説明します。



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