「米国を偉大なままに」。来年の米大統領選で再選を目指すトランプ氏の新しい選挙スローガンだ。実際は放縦な統治で国の威信を低下させただけである。ポピュリズム政治を許してはなるまい。
トランプ氏が十八日、フロリダ州での集会で行った出馬表明演説は、自画自賛と怒りの扇動に染まっていた。
前回選挙のスローガンである「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」は達成できたとして、次のスローガンは「Keep America Great(米国を偉大なままに)」にすると語った。
実は新スローガンは、就任前に米紙の取材に明かしたことがある。この手回しの良さに加えて、自分が偉大な国に復活させたと自慢する臆面のなさにはあきれる。
一期目の実績として好景気と雇用創出を挙げたが、二〇〇八年のリーマン・ショック後、米経済は比較的早く回復軌道に乗った。トランプ氏だけの手柄ではない。
指導者ならば国民統合を図るべきなのに、社会の分断を深める手法は相変わらずだ。民主党を激しく非難し、居並ぶ報道陣を「フェイクニュース・メディアだ」と指さして聴衆の敵意をあおった。
就任以来、トランプ氏は身勝手な振る舞いで国際社会を引っかき回してきた。「タリフマン(関税男)」を自称し、自分の要求をのまないと関税を引き上げると他国を脅す。ルールを無視した強者による恫喝(どうかつ)外交である。
これをまねする国がでてきて国際秩序は一層乱れかねない。本来、大国に求められるのは自らを律する自制心だ。
米調査機関のピュー・リサーチ・センターが昨年、二十五カ国で行った調査では、70%がトランプ氏を信頼していないと答えた。米国が個人の自由を尊重していると見なす人は51%にとどまった。「自由」が代名詞であるはずの国がである。
軍事力、経済力以外の文化や理念、政策で他国を引きつけるソフトパワーを米国は著しく損ねた。大国の責任感を忘れ、建国の理念も薄れた荒廃を憂える。今の路線が続けば国益は着実にむしばまれる。
一方の民主党は二十人以上が大統領選候補に名乗りを上げる混戦だ。中道派と左派に分裂する党内をまとめることができるかどうか。政権奪還のかぎを握る重い課題である。
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