時は無常にして無慈悲なものだ。
良かれ悪かれ、刻が止まったはずの不死者にすら変化を強要する。
それはモモンガすらも例外ではない。
アンデッドとして一つの頂点である”
相対的に見れば、新たな力を得た以上は良き変化と言えるだろう。
だが得てして、力を得るというのはそれに付随する力ある故の苦悩も一緒に背負うという事になる。
「ネム、聞きなさい」
様々な思考を巡らせながら、
「確かに私の”
「うん♪」
「だが、それは同時にネム自身が大きなリスクを背負うことにもなる。それをきちんと理解しているか?」
モモンガの言うリスクとはなんだろうか?
それは順を追って説明すべきだろう。
モモンガがこの世界に漂着して100年、その間に死にスキルならぬ”死に職業”となった職業Lvがいくつもあり、またその多くが習得種族と同様に変化していた。
その職業の一つが、”クロノ・トリガー”である。
直訳すれば、”時間の引き金”となるこの職業、オーバーロード・クロノマスターを習得し、なおかつ時間系魔法職ビルドをしてないと習得できないレアクラスである(そもそもオーバーロード・クロノマスター自体の習得条件が、オーバーロード習得済みであることなどを始め非常に難しい)。
実際、ユグドラシル現役プレイヤー時代、モモンガは二者択一に頭を悩ませた結果、死霊系魔法特化でなければ習得できないスキル”エクリプス”を選び、”クロノ・トリガー”を諦めた経緯がある。
このレア職業、習得条件が厳しいだけあり、名前の通り各時間系魔法の発動時間短縮や
”エクリプス”を持っていなければ発動できない特殊
”
があるように、”クロノ・トリガー”にもまた特殊職業スキルがあるのだ。
その名も、
”
このスキル、フレーバーテキストによれば『対象を観測者の主観に応じた時間軸に巻き戻せる』という中々の強烈なもので、具体的に言えば『対象をスキル発動者の任意の状態に戻せる』というものだ。
例えば、レイドボス戦など致死性の高い戦いに参加、途中で仲間が倒れたとしても『損傷を受ける前の状態に戻せる』……つまりデスペナ無しで即時復活でき、またアイテムや装備のロストも発生しないというかなりトンデモな状態となる。
無論、死亡だけではなく各状態異常となっても、そうなる前に戻すという使い方もでき、ある意味究極のヒーラーと言えるかもしれない。
まさに破格なスキルではあるのだが、当然のように制限が存在する。
まずこのスキルを発動させる対象を、”被観測者(観測対象者)”として登録する必要がある。そして登録できるのは100時間に1人で、最大登録数はLvに比例しカンストのモモンガなら100人までだ。
また登録できる制限もあり、原則”非敵対者のプレイヤーキャラ”のみでNPCは不可、ゲーム中はほぼギルメンやフレンド限定の能力という扱いだった。
細かいシステムを言うならゲームでならオートレコード/オートセーブであり、先ほどのレイドボス戦を例えに出すなら対象者は戦闘直前の状態をオートセーブされ、死んだ場合はそのオートセーブされた地点の状態に”巻き戻り”、復活する。
しかし、それはゲームの話だ。
この転移してきた世界……現実でこのスキルを使うと微妙に仕様が異なる。
特に厄介なのはオートレコード/オートセーブの類であり、これはゲームシステムのないこの世界では『モモンガの記憶に依存する』のだ。
各種パラメータとか習得職業とかは問題はない。元々モモンガ……いや鈴木悟がゲーム脳だったせいか不明だが、登録さえしてしまえば、スペックは成長に従い自動更新され、また副次効果としてモモンガ自身も”Lv5のスカウター”を使わなくとも観測対象者の状態をいつでも確認できるようになる。
ただ、どうにもならないのが外装データ……つまり容姿だ。
そう、中身は更新できても外見は登録した状態で固定となる。これはもう、ユグドラシル由来の能力故の弊害だろう。
ゲームではキャラの外装データの変化や変更はできても、成長や老化はない。
一部の選択可能種族に子供時代が設定されており、成長により変化すると書かれていたが、それは断じて「年齢を重ねたことによる成長」ではなく、「Lvが規定の数値に達したことによる外観データの変化」だ。生物学的なそれとは全く異なる。
如何にモモンガであっても、『ネムの成長した未来の姿』を記憶したり記録したりは不可能なのである。
☆☆☆
とまあ、ここまででも強力だが大分厄介なスキルだということは御理解いただけたと思うが……モモンガに言わせれば、輪をかけた懸念材料があるのだ。
この世界には、ユグドラシル方式の『新規クランないしギルドの結成』システムもなければ、『フレンド登録システム』もない。
にも関わらず、”
そして、結果として生まれたのが、観測者登録の際に脳裏に浮かぶ不穏な内容のメッセージだ。
”観測対象者として
この”眷属”とは何を指し示すのか?
今のモモンガには、何もわからなかった。
「ネム、確かに私は、私自身が滅ばぬ限りお前を今の姿のまま生き続けさせることはできる……」
モモンガは骨の指でそっとネムの頭を撫で、
「だがそれは、”私の眷属になる”という意味でもあるんだ。そして私は見ての通り、その本質において人間ではない」
受肉し人としての姿をとれるとはいえ、それは根本的に”
「姿かたちは変らなくとも中身は変化を続ける……人ではない私の眷属となるのなら、見た目は幼い人のままでもいつまで人でいられるかわからぬぞ?」
ユグドラシルにおいて、見かけがどれほど可愛らしくとも中身が化け物なんて当たり前であった。
そして、自分の時を操る力は人理を外れた先にある物……人という種であり続けることは、無理があるとモモンガは考える。
人とは短命で脆弱なものであり、無限でも永遠でもないのだから。
「モモンガ様」
ネムは年齢からは考えられぬほど怪しく妖艶に微笑み、
「ネム、別に人間でいる気なんてないよ? だってモモンガ様とずっと一緒にいられればそれでいいんだから♪」
その瞳から光は消え去り、わだかまった底の見えぬ闇だけがモモンガを吸い込みたそうに佇んでいた……
お読みいただきありがとうございました。
この世界線のモモンガ様の特殊職業とセットの特殊スキルはいかがだったでしょうか?
どうしても、オーバーロード・クロノマスターなりの”
基本、《時間操れる凄い能力だけど、攻撃には使わないサポートスキル》ってコンセプトです(^^
同じく眷属登録してると思われるラナーもですが、果たしてネムはどこへ行くのか?
いつまで人間でいられるのか……その答えは、このシリーズが続いたとしても随分先になりそうです。
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