「あたしの残した曲が遺言になって初めてわかることのような気がします」
ーー音楽的なバックボーンについてお訊きするんですけど、何にもっとも影響を受けたんですか?
あいみょん:まずはお父さんなんですよ。だからお父さんが聴いてきた音楽の中で言うと、浜田省吾さんからはかなり影響を受けてるなと自分でも思います。
ーーそれは、あいみょんの世代だと珍しいんじゃないですか?
あいみょん:誰も知らないですね。なんで知らんねんってあたしが逆に思っちゃうくらいなんですけど。あとは尾崎豊だったり、男性のシンガーソングライターがすごく好きで。吉田拓郎さんとか山下達郎さんとかさだまさしさんとか、お父さんが聴いてたので、そこはもうなぞるように聴きましたね。とか言いながら、自分で初めて買ったCDはORANGE RANGEだったんですけど。音楽をやるようになってだんだん男性ソロシンガー、とくにフォークと呼ばれるものに傾倒していくようになりました。
ーー音楽オタク、みたいな感じではないんですね。
あいみょん:そうですね。
ーーミュージシャンになろうと思ってなったわけですか?
あいみょん:いや、違いますね。あわよくば音楽で生きていければなあと思ってはいましたけど。
ーーYouTubeがきっかけだったんですよね。
あいみょん:はい。でもそれも自分がアップしたわけではなかったので。だから自分から積極的にライブハウスに出たりとか、路上をやったりというのは一回もしたことないんですよ。
ーーでもどこかで音楽に対して覚悟を決める瞬間はあったわけですよね?
あいみょん:それは今ですね。やっぱり。東京に来るってなった時に、あー今までと同じじゃダメなんだなと思いました。
ーー3曲目の「君がいない夜を越えられやしない」についてお訊きします。これ、とても不思議な曲ですね。浮遊感のあるアレンジと、あいみょんのキリッとした声が決して混じりあわないという。
あいみょん:そうなんですよね。私も聴いた時に水と油だなと思いました。
ーーでもその感じが歌詞のテーマと合ってますよね。これはある男性の一人の女性に対する思いをかなり一方的に綴った歌なんですけど、つまり女性の感情は一切描かれていなくて、なんか逆にそこがゾッとするというか。やっぱり歌ってるのは女性のあいみょんだから。まるっきり男の勘違いに浸ったままではいられない。だからもうきっと女性の方は気持ちが離れていて、この後に別れが待っているんだろうなってところまで想像できてしまう。
あいみょん:ずっとずっと続くものは、ないですよね。
ーーわかっちゃいるんですけどね。我々男性も。
あいみょん:(笑)。元々弾き語りの音源で入れようってなってたんですけど、アレンジャーさんがこの曲はどうしても音を入れたくなるっていうので最終的にこうなりました。この曲にはとくに男性シンガーソングライターの影響が出ているのかもしれません。結構こういうだらしのないというか、どうしようもない男性を描くのが好きで。女性目線のラブソングよりも男性目線の方が書きやすくて、無理やり男性に置き換える時がありますね。男の人が歌うラブソングって、女の人が歌うものとぜんぜん違うから、それが面白くて。
ーーでも、単純に男性目線って割り切れない深さがありますけどね。
あいみょん:なんでこういう詞を書いて、こういう曲を書くの? って訊かれても、たぶんそれは死んでからじゃないとわからない。あたしの残した曲が遺言になって初めてわかることのような気がします。
ーーその無自覚さと割り切りに底知れない才能を感じていますよ、今まさに。これからが楽しみです。
あいみょん:古い人間のままではいたくない、と思ってます。
(取材・文=谷岡正浩/撮影=外林健太)
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