第三話:暗殺者は秘密の実験をする
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しっかりと体を休めて気持ちのいい朝を迎えた。
シャワーを浴びてから、着替えて台所でバスケットを回収する。
昨日のうちに弁当を作ってあった。
今日は朝から出かける予定があり、そういうものが必要だったのだ。
外にでると、すでにみんなが動きやすい格好をして待っていた。
「ピクニックなんて楽しみです」
「今日は、空を飛ぶんだよね」
「他にも面白いものがあるって言っていたのが気になりますの」
今日の目的は二つ。
一つはトウアハーデに戻る際にハンググライダーを操縦させると約束したのを果たすこと。
裏山には小高い丘があり、そこから飛ぶと気持ちよく滑空できる。
そして、二つ目はとある実験をするため。
「時間がないし早く行こう。今日はいい風が吹いてる」
この風向きと強さは飛ぶには最適だ。
今日は気持ちよく飛べるだろう。
◇
魔法でハンググライダーを生み出し、操縦方法を説明する。
「さあ、飛べ」
「えっ!? やり方聞いただけで飛べってかなり厳しすぎない!?」
「習うより、慣れろって言いますの。聞いた限り、単純だし問題ありませんの」
「俺は地上で指示を出すから、安心してくれ」
かなり雑だが、それが一番早い。
こんなことができるのはあの二人が相手だからだ。
普通の人間であれば、操縦ミスして墜落すれば大怪我するし死もありえる。
しかし、魔力で身体能力を強化できる二人であればトラブルにも対応できるし、怪我をしても俺が治せる範囲だろう。
だから、スパルタで行く。
「無線通信機はしっかりとつけておけよ」
「うっ、うん。命綱だしね」
「……やっぱり、この技術を持ち帰って広めたいですの」
二人が無線通信機を身につけた。
これさえあれば、地上からアドバイスできる。
「そう言えば、これの有効範囲は百メートル程度と記憶しておりますわ」
「持ち運べるもので双方向通信であればな。この山は俺の実験場だ。あれのプロトタイプがある」
そう言いつつ、例のものを地面から取り出す。
それは鋼で出来ていて、俺の身長ほどはある長方形の大型魔道具。
「このサイズなら、音を送る信号を増幅して伝えることができる。携帯版の二十倍、二キロは届く」
あくまで信号を増幅して伝えるだけだから、飛ばせる距離が伸びただけで百メートルを超えると子機からの信号は届かなくなる。
一方通行でもこれだけの長距離通信ができるのは驚異的。
「ますますすごいですの。これがあれば、一瞬でありとあらゆる情報を全軍に伝達できます。戦争で使えば、情報戦で圧勝できますわ。従来の軍では対抗し得ない!」
千や万の軍が完璧な意思統一を出来る。
それは軍の戦闘力を何十倍にもするだろう。
「だから言っているだろう。俺は戦争のために作ったわけじゃない。こんなものをうちの貴族たちが知れば、意気揚々と他国に攻め込むだろうな」
アルヴァン王国の貴族には野心家が多い。
血の気が多い連中が、さらなる力を手にすれば侵略に動くのは必然。
「それの何が悪いのです? アルヴァン王国がもっと栄えますのに」
「そういうのは趣味じゃない。国を栄えさせるにしても奪うより、今あるものを発展させたい」
平和主義者というわけじゃないが、無駄に血や涙を生み出すつもりも流させるつもりもない。
俺自身はトウアハーデの領地があればそれでいい。
だというのに、他人の欲につきあわされて、人殺しの片棒を担がされるなんてごめんだ。
「野心がないのはルーグ様唯一の欠点かもしれません」
「俺はそれを欠点とは思っていないさ。必要以上のものを求めないだけだ。それより、さっさと飛べ。この風がやまないうちにな」
「じゃっ、じゃあ、行ってくるね。危なくなったら助けてね」
「では行ってまいりますの」
ディアとネヴァンが丘の上から飛び立つ。
風に乗り、滑空し遠くまで飛んでいく。
二人とも基本に忠実な操縦で危なげがない。
「二人共、頭も要領もいいからな。俺がついていなくても大丈夫だと思っていたんだ」
「ですね。私よりもずっと早く慣れてます」
横風が吹いてもすぐに立て直している。
ハンググライダーの仕組みを理解しているからこそ適切に操縦できる。
ただ、風魔法が使えないため、ゆっくりと高度を下げていく。
都合よく上昇に使える風なんてものはそうそう吹かない。
しばらくして着地。二人は身体能力を魔力で強化して、こちらに走って戻ってくる。
いや、それだけじゃないな。
ディアがとても悪い顔をしている。
……嫌な予感しか無い。
「あいつ」
全力で走ると、思いっきりジャンプする。
その程度の高度なら、すぐに落ちるしかない。
しかし、ディアは詠唱をしていた。
本来詠唱中はそちらに魔力とリソースを持っていかれ、身体能力強化できなくなるが【高速詠唱】の応用で【多重詠唱】を可能になる
ディアは風魔法なんて使えない。
何をする気だ。
「きゃっ」
激しい爆発がディアの後方で起こる。
爆風に乗ってハンググライダーが上昇し高度をあげ、加速。
隣にいるタルトが悲鳴をあげるほどの爆発。
それだけじゃない、【多重詠唱】で爆発魔法以外にも魔法を詠唱していた。
その魔法が発動する。
「……めちゃくちゃしやがるな」
足裏から、炎が吹き出ている。
いや、あれは炎じゃない。周囲の空気を集め、加圧し、燃焼させることで高温高圧のガスを勢いよく噴出させて推力にしている。
原理的にはジェット機に近い。
風を操る俺やタルト以上の速度がでている。
「すごいです。あれ、速すぎます」
「ただ、真似しようとは思わないな。あの火柱を作る魔術、相当難易度が高い上に制御が難しい。ちょっとでも制御を誤れば、炎で機体を燃やして終わりだ。燃費もかなり悪い。ディアや俺以外が使えば一瞬で魔力切れだ」
しかも、風魔法を使えないディアは周囲の空気を集め加圧するのに、無属性の魔法で風を掴んで固めるという、ひどく非効率な方法を使っていた。
とはいえ、良い魔術だ。
俺が使うのであれば風を掴んで固めるのではなく、風魔法で風に来てもらうことができる。
今日の早朝、この魔法を見せられたときには攻撃魔法かと思っていたがこのためだったのか。
そんなディアが、俺たちの隣に着地した。
「ふっ、ふっ、ふっ、どう。風を使えなくても私だって速く飛べるんだから!」
「驚かされたな。ディアの専用機も作っておくか」
「ありがと。楽しみだよ」
「次に王都いくときは、自分で飛べるな」
「そっ、それは、ちょっときついかも」
なにせ、超燃費が悪い魔法だ。
王都までは持たないだろう。
しばらくすると、ネヴァンがハンググライダーを抱えて戻ってきた。
「はあ、はあ、やっと帰ってこれましたの。これ、飛んでいるうちは最高ですけど、もどってくるの、ほんと辛いです。重いですの」
珍しく汗だくだ。
「あの、ディア。お願いがありますの」
「うん、何かな?」
「光を推力にする魔法は作れませんの?」
「ごめん、ちょっと想像できないよ」
光を推進力に変える仕組みはSFなどでは見かけるが、実用化したという話は聞いたことがない。
正確には理論は完成し、実現可能だと専門機関が発表しているのを聞いたことがあるぐらい。
さすがの俺もそれを魔法で再現できる気はしない。
「残念ですの……」
魔法は便利だが、万能ではない。
できることと、できないことがあるのだ。
◇
飛行を一通り楽しんだあとは昼食だ。
あれが来るまでもう少し時間がある。
「今日もルーグ様のご飯が食べられるなんて幸せです」
「毎日、ルーグがご飯作ればいいのに」
「あの、それはそれで私が悲しくなっちゃいます」
バスケットの中にあるサンドイッチが顕になる。
定番の卵サンド、それにイノシシで作ったハンバーグサンド、それに今日のとっておきがあった。
「ルーグ、また嘘ついたね。ううう、グラタンが食べたいよぅ」
ディアが恨めしそうに見ていた。
「あの、さすがにお弁当にグラタンは……あれ、冷めるとあんまり美味しくないですし」
「グラタンってなんですの?」
ディアが得意げに、ネヴァンにグラタンを教える。
「とっても美味しいんだよ。昨日のクリームシチューでショートパスタを煮てからチーズを乗せてオーブンで焼くの。味が濃厚になって、満足感たっぷりで私の大好物なんだ」
「まあ、それは美味しそうですのね」
「なのに……」
また、俺のほうを見る。
「早とちりしないでほしいんだが、ちゃんと作ってある。まず、サンドイッチを食べてみてくれ」
そう、ちゃんと作ってあるのだ。
俺はディアの恋人だ。恋人のわがままは聞いてやりたい、ただ普通にグラタンを作っただけでは弁当には適さない。
だから、冷めても美味しいグラタンを作ってある。
「って言ってもサンドイッチしかないよ?」
「とにかく食べましょう!」
「そうですの」
俺は微笑み、水筒からスープを注いだ。
そして、食事が始まる。
「あら、この卵のサンドイッチ、ほのかに酸っぱくて、豊かな味。こんな味付けは初めてですの」
ただ、半熟ゆで卵を潰して自家製マヨネーズを混ぜただけだが、マヨネーズという調味料はこの世界になく斬新な味付けになり、どこで出しても好評だ。
「ハンバーグの味付け、香ばしくて甘辛くて美味しいです」
ハンバーグは照り焼きに仕上げた。照り焼きは冷めても美味しい。
そして、いよいよ今日の特別料理。
「あっ、グラタン。本当にグラタンだよ! 美味しい、とってもとっても美味しいよ」
それはグラタンコロッケサンド。
煮付めたクリームシチューに肉とマカロニを加えたもの種にして揚げたコロッケ。
そのコロッケに極限まで煮詰めた特濃トマトソースをたっぷりかけてパンで挟む。
これだけ濃い味だと冷めても美味しい。
「これがグラタンですの。とっても美味しいですの」
「私の大好物だもんね」
「はい、私も好きです」
炭水化物であるマカロニに炭水化物であるホワイトソース、炭水化物の衣をつけて揚げて、炭水化物のパンで挟むという、炭水化物の化身。
なのにうまい。
……似たようなメニューが、俺の世界でも流行っていたが、こちらでも通用するようだ。
「ふう、美味しかったよ。やっぱり、ルーグは最高の恋人だね」
「わりとディアって調子がいいよな」
抱きついてきたディアを撫ぜる。
これだけ喜んでもらえたなら頑張った甲斐があったというもの。
「そういえば、今日はハンググライダーで飛ぶ以外にも大事な実験があると言っていたよね?」
「ああ、そろそろ来るころだ」
懐中時計を見ると約束の時間だった。
もうすぐ、世紀の大実験が始まる。
魔族を見つけ次第、即座に情報を得るための道具。
来たか。
無線通信にも使っていた、黒い大型通信機が震える。
そして……。
『ルーグ兄様、聞こえているかしら? あなたの妹がムルテウからラブコールを送っているわ』
マーハの声が聞こえた。
約四百キロ離れた遥か彼方から、リアルタイムで。
「聞こえているよ。実験は成功だ」
『ふふっ、嬉しいわ。これでいつでもルーグ兄様の声が聞けるのね』
実験は成功。
俺が作りたかったのは電話だ。
実のところ電話を作るプロジェクト自体は二年前から動き、試作機は二年前には完成していた。
しかし、通信網を作るのがオルナの権力と資金をフル活用しても今になったしまった。
みんなが絶句している。
二キロですら度肝を抜いたのだ。四百キロなんて想像すらしていなかっただろう。
そろそろネタバラシしよう。
さきほどの通信機が最大で二キロにも関わらず、なぜマーハの声が四百キロ先から響いたのかを。
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