「権利と利用のバランスがとれた仕組みが必要」と語る福井健策さん=東京都港区
レストランでおいしそうな料理が運ばれてきた。記念に、と携帯電話で写真を撮り、写真共有サイトやブログで公開する。今や珍しいことでもない。ただ、「撮影禁止」の表示がある店でやるとトラブルにつながる。料理の見た目には「著作権」があるから――。
「実用品である料理の外観は、原則的には著作物ではない。だが、当然のように著作権が持ち出され、言われた方も『怖いらしい、やめておこう』と受け入れ、既成事実化してしまう。いわば疑似著作権が広がっている」。コンテンツと著作権の問題に詳しい弁護士の福井健策さん(45)は、法律の枠を超えて、情報の囲い込みが広がる現状をそう説明する。
背景にあるのは、著作権に対するこれまでにない関心の高まりだ。「ネットによって情報の世界が格段に広がる中で、著作権も見直しを迫られている。今はこの問題に、一般の人々もいや応なく巻き込まれているんです。疑似著作権は、それがもたらす陰の部分と言えます」
今のネット環境における著作権制度は、権利者、利用者双方にとって不幸な状態にある、と福井さんは言う。
コンテンツへの課金がうまく機能していない上に、海賊版の流通がさらに収益化を困難にし、適正な対価が著作者の手元に届かない現実がある。米アップルのオンライン配信サービス「アップストア」で著名作家の海賊版が出回っている問題では、先月、日本書籍出版協会など関係4団体が非難声明を発表した。「現状は著作権がないがしろにされている、と思っている著作権者は多い」
だが、利用者から見ると、デジタル著作権管理(DRM)技術で私的複製も物理的に制限されるなど、「著作権が強すぎて、時代に合っていないと感じるでしょう」。
デジタルの特徴は、様々なメディアを組み合わせられる点だ。だが今の著作権法では、原作のパロディー、原曲の新たな編曲など二次的、三次的な著作物は、権利処理作業が膨大になり、新たな創作のハードルを上げる結果にもつながっている。
「著作権の問題は、法律自体をどうするかということに加えて、著作権を巡る実務、収益化につなげるビジネスモデルなどの連携の中で考えるべきなんです」
著作物の権利者に関する情報のデータベースを整備し、利用の許可をとれる窓口が集中管理され、誰でもたやすく使える――。そんな権利と利用のバランスがとれた仕組みが必要だと、福井さんは言う。(編集委員・平 和博)