20 ケノン 超能力者の街・アルカディア・大成寮の1階部分は、その古ぼけた外見を裏切ることなく、埃が積もっており思わずせき込んでしまった。 大きな大理石製の長テーブルがある。ここの住人はここで食事をとっているのだろうか。 耳を澄ませば、かすかだが【パッヘルベルのカノン】の旋律が聴こえてくる。 そして、上階へと続く螺旋階段を見つけ、俺たち3人は砂埃に足を滑らせないよう慎重に上っていく。 2階部分では、7つの小部屋が並んでいた。左から 『想像理想』 「進藤進」 「天上天下」 「佐々木早希」 「空洞虚空」 「高橋花音」 そして墨汁か何かで黒く塗りつぶされており、よく見えないが多分、「周木律」というネームプレートが吊り下げられている。 その中に俺や天下の名前を見つけだすのにそう時間はかからなかった。 ただシルの名前だけがなかった。 「不思議ですね。どうしてケノンさんとテンカさん2人の名前が、一緒にあるのでしょう?偶然でしょうか?」 「とりあえず、入ってみようぜ」そういって俺はかつての俺の部屋だったらしい部屋のドアノブを回した。 部屋の中には、さらに埃が堆積していた。「ゴホゴホッ」思わずせき込んでしまう。 室内は、簡素なベッドと学習用の机といったシンプルな内装だった。 まず目に飛び込んできたのは、上下逆さまの状態で飾られたサルバドール=ダリの「記憶の固執」という有名な絵画だった。 その絵画では、いくつもの時計がアイスクリームみたいに溶け出している。 また、室内の学習机には、これまた何故か逆さまの状態で置かれた地球儀と、読みかけの本が置かれていた。 本のタイトルは、「不死症」作者は周木律。 壁面にはサルバドール=ダリの「ペロプニャン駅」のコピー画が飾られている。 そして、俺は何かに導かれるように、視線を学習机の奥に投げると、プレートに入れられた1枚の写真を発見した。 「なんだこれ、写真……」 そこには、長髪の青年と、精悍な青年、まだあどけない少女、金髪の少女、そして俺とテンカの姿があった。 そして写真の中の俺とテンカには、天使の輪と翼がなかった。 俺たち二人の姿は天使ではなく、完全に人間のそれだった。そこに映る俺はこれまで大量に死体となって無慈悲に転がっていた人間の姿そのものだった。 そしてその写真を恐る恐る手に取ってみようとしたところで、ドアの向こうからテンカが大声で俺を呼んだ。 「ケノン!こっちに来て!」 「いやでも、この写真は……」 「写真どころじゃない!あったの!わたしたちの体が!」 体が?
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nttq
2019年6月18日 1時35分
「ここの住人はここで食事をとっているのだろうか」って既に廃墟なのでは? 「とっていたのだろうか」とすべきでは?
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nttq
2019年6月18日 1時35分
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