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うっかり、暗黒王のおはします世界に異世界転生してしまった!?(月夜 涙)

テンカ

18 新暦100年 12の月25日。 電脳世界 プラズマ界 外の世界の書物によれば、今日はキリスト降誕日 ―― とされている。 キリストという名の彼も、おそらくはライブラのいうプレイヤーの一人であったのだろう。 キリストは、先史文明において一大宗教の創始者となった。 だがわたしはこの人間社会における宗教というものの考え一般が好きにはなれなかった。 なぜだろう? 多分、それは何もかもが嘘くさく見えるこの世界と似ているからであろうか。 今日、わたしが外に出ると師走の寒空の下、小さな白い『仮想』の雪がパラパラと舞っていた。 たぶん今年、初めての雪だ。寒いのは、苦手だが雪は嫌いになれない。それは不必要で余計なものをすべて洗い流してくれるような気がするから。 雪が頭上に積もり、頭部が白く染められていく。 「じゃあ、行こうか。二人とも」 「ああ……」 「はい……」 対するケノンとシルの口調は暗い。 それも当然だ。 あれからわたし達三人は、安息日の度に村民や神様の目を盗んでは、アマガミ村の外へと探検しに行っている。 もう今回で24回目。 そして、辿り着いた街では必ず夥しい数の<人間>が死んでいた。 しかし、わたしたちは懸命に調査を続け、その度に得られた書物などから、人間社会の知識を身につけていった。 そうやって文献を読み漁るうちにわたしたちは、人間の世界に何が起こったのか。そして、わたしたちは何者なのか? まだまだ、謎は残るがおおよその見当はついてきた。 少なくとも、わたしたちは、「天使」ではない。人間だ。それがわたしたちの今のところの結論だ。 ライブラの話で一番気になっていた<ゲーム>という言葉の意味は解らない。 いや、それは正確な表現ではないだろう。 それが、日常言語上、どういった意味で使われていたかは解った。 しかし、それがライブラのあの文脈で、どういった意味を持っていたか。隠されていたのかが、未だに判然としないのだ。 通常の意味とは異なる意味があったことは明らかだ。<プレステ>とは、意味合いが大きく異なるのだろう。 またもう幾多もの死体を見てきたが、未だに死体というものに慣れることは出来ない。 それでも、わたし達が調査を続けるのには理由があった。 記憶 ―― それは「壁の外の世界」にあるはずなのだ。 そのわたしの想像力が導き出した結論は絶対に間違っていない。 そのことは確信している。そして、記憶を取り戻さない限り、わたしたちは決して次には進めない。 かつてのアマガミ村で目覚める前の記憶を取り戻すことが目下の最優先事項だ。 また「黒金の壁の外の世界」は、夥しい数の死体で埋め尽くされた地獄だが、それでもなぜか無性にしっくりとくるのだ。 落ち着くといっても過言ではない。 それはきっと自分たちが以前、ここに居たからだ。 ここで様々な人たちと関わり、語り、生活してきたからだ。 ちなみにわたしたちはあれ以降悪魔の姿を見たことは無かった。 以前見たものは目の錯覚だったんじゃないかと思えてくるほどだ。 悪魔がアマガミ村に攻めてくる気配も一向にないし。同様にライブラとも会っていない。 ライブラに関しては、逃げられているのかもしれないけれど。 「今日こそは何か手がかりが掴めそうなんだ。最近さ。以前にも増して、誰かが俺を呼んでるんだよ。ケノン。こっちだって」 と言ってケノンは拳を強く握りしめた。 「声……それよく言ってるけれど。わたしには、なにも聞こえないよ?本当なんだよね?耳の錯覚とかじゃなく」 「うん……俺だけじゃなく声はテンカのことも呼んでた。ケノン、天使のコスプレしたてんかりんもここに連れてきてくれって」 「わたしも?」 わたしは驚いたように目を丸くする。 そして誰がわたしのことを「てんかりん」なんて呼ぶのだろうと思った。 「天使のコスプレ」については痛いほど心あたりがあるけれど。 「ケノンさん、わたくしのことは?」 「ごめん。シルのことは、わかんねえや」 「そうですか……」 シルは仲間外れにされたみたいに、しょんぼりと肩を落とす。 「じゃあ、そろそろ出発しよう。最近は日が暮れるのも早いし」 わたし達が大空に翼を羽ばたかせようとした、その瞬間。 「待って!」 幼い声がわたしたち三人を停止させる。 「イデア!?」 「安息日のこんなに朝早くから、どこに行くの?」 「それは……。ちょっと散歩だよ。俺たち、健康には気をつけてるんだよ」 イデアは、きれいな金色の髪に積もった雪を振り払ってから大きな双眸を大きくパアッと開く。 「じゃあ、アタシもついて行っていい?」 「それは……」 10歳くらいの少女の申し出に対して、ケノンは苦しそうに答えに窮する。 「イデア。こっちに来て」イデアはわたしの言ったようにわたしの前まで移動した。イデアの、「テンカ。どうしたの?」 という疑問を無視し、「ごめんなさい」と囁いてから、わたしはイデアの心臓部分を天使の(テレズマ)で生み出した長剣で突き刺す。 「テンカ、どうして……」 「ごめんね。イデア。今はまだ言えないの。でもいつかきっとわかるから」 瞬間。イデアの体がぐにゃりと歪み、ラグり、収束し消える。でもこの世界で、天使は絶対に死なない。すぐに復活することができる。 「は!?イデア!?テンカ!お前、何してんだよ!?」 ケノンが心底驚いた声を上げるが、わたしは落ち着いた声音でケノンをなだめる。 「大丈夫。わたしたちだって、決闘大会じゃ何度もお互いに同じ目にあっているでしょ?大丈夫。わたしたちは、アマガミ村/プラズマ界の中では絶対に死なない。きっとすぐに復活するよ。外の世界でずっと生きてきて悪魔に滅ぼされた天使――いや、人間にとっては、夢のような世界ね」   黒金の壁の外の世界――人間社会とは異なりこの世界、プラズマ界/アマガミ村では<死>という概念がすごく遠いところにある。 それは地球の裏側で周囲の木々や葉っぱに隠されて、誰もその存在を知らないが、確かにひっそりと存在している深井戸のような場所の奥深くに隠されていて、普通は見えないようになっているのだ。 かつて外の世界の人間は寿命という病を抱えていた。誰も死んで永遠に存在ごと消えるという運命には打ち勝てなかった。 しかし、どういった経緯があったのかは解らないが、わたしたちはあくまでアマガミ村/プラズマ界の中においては、それを克服しているらしい。 そう言って、わたしは壁のあったそう見えていた方向を見やる。 「行こう。」

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  • ひよこ剣士

    nttq

    2019年6月18日 1時13分

    記憶がないないと騒ぐ一方で、「師走」とか「地球の裏側」とか一人称視点で言っちゃうんですね。ファッション記憶喪失に見えて仕方ないです

    ※ 注意!このコメントには
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    nttq

    2019年6月18日 1時13分

    ひよこ剣士