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うっかり、暗黒王のおはします世界に異世界転生してしまった!?(月夜 涙)

2020年 神エル

西暦2020年  神エル12(小学六年) 慶應幼稚舎 小学校とは、社会の縮図だ。 そんな場所にずっといると、つくづく思う。 人間というのは、元来、本質的に不平等な存在であると。 生まれながらの才能――初期ステータスに差がありすぎる。 勉強にしろ、スポーツにしろ、リーダーシップをとること、ルックス、人気の度合い、果ては、「背の順」の順位に至るまで、デキル奴は、気持ちの良いほどに何でもデキルが、デキナイ奴は、一周回ってすがすがしいまでに何もできない。 その二極化の流れは凄まじく、中間層というのは、いるにはいるが、ほぼいないといっていい。 おそらく、大人になっても今の延長線であり、延長戦であろう。 この時点ですでに格付けは終了している。将来、幸せになれる人間というのはすでに決まっている。 そして、僕はデキル側の人間だ。 こんな時代でなければ、この地獄の季節が去った後の100後にーー不老不死が実現した世界に生まれていたら、きっと世界一の幸せ者になれていたと思う。 いや、違う。決めたじゃないか。僕が変えるんだ。 この地獄の世界を。不老不死を実現させる。 誰にも夢物語なんて言わせない。 そして僕が新世界の神になるんだ。 そんなことを思っている間にもクラスメイト達の発表は、淡々と進んでいく。 「将来の夢は、野球選手になって海外で活躍することです」 「俺は、サッカー選手になって、日本代表入りして、ワールドカップで優勝すること!」 「私は、いいお嫁さんになりたい」 「海賊王に俺はなる!」 「僕は、起業!目指せ!年商10億!」 「おれっちのパパンの会社を継ぐぜ!」 「俺はぜってー火影になる!ぜってー自分の言葉は曲げねえ!ニンニン!」 「アタシは、パティシエになりたいです」 「僕の夢は、慶應を辞めて東大に行って官僚になって、日本を支えていくことです」 「僕は、内部推薦で医学部に行って医者になって、病気の人々を助けたい」 「莫大な親の金でエリートニート!」 「俺は、漫画家だな!20までにアニメ化が目標だ!」 「俺は結界師!もう誰も傷つくのは見たくない!そして烏森を封印する!!!」 「せかいせーふく!」 「将来の夢は……特にありません……」 クラスメイト達が壮大だが、その実、ありきたりで、ともすれば、つまらないとも言える「将来の夢」を語っていく中、遂に僕の順番がやってきた。 僕は、半分ほど読み終えた小説/「不死症」(作・周木律)という文庫本を閉じ、それを机の片隅に置かれた「百年法」と題されたものの上に重ねる。 周囲の視線を受けておもむろに立ち上がる。クラスメイトを静かに見据え、一つ、小さな息を吐く。 「僕の将来の夢は、このセカイにで不老不死を実現することです。その理由は、単に死にたくないからと、この地獄のセカイを変えてみんなを幸せにしたいと思うからです。はい。このセカイは地獄です。現状、人はいつか死にます。僕が死んでも少しの間は僕のことを覚えていてくれる人がいますが、そのことを死んでしまった僕自身は知覚出来ないし、そもそも僕のことを覚えてくれている人たちだって、そのうちすぐに死んでしまう。結局、後には何も残らない。唯一、残るのは、永遠に続く、後戻りできない一本道の空洞の虚しさだけです。ね?このセカイは地獄でしょう?そんなセカイを僕が不老不死を実現して変えたいのです。何としても僕の存命中に。そして、僕はセカイで一番幸せになって新世界の神になる。永遠にーー」 怜悧そうな僕の口から、そんな意外な言葉が発せられたのが可笑しかったのだろう。 一瞬の静寂の後、クラス中がどっと笑いに包まれる。 「アハハハ!なにそれ、受け狙い!?」 「ギャハハハハ!不老不死ってお前!」 「エル君って中二病だったの!?新世界の神ってプークスクスクスクス!」 「アハハハハ!!でも、小で中二病だったら、進んでるよな!」 そんな、クラスメイト達の嘲笑を担任の老教師が、枯れた声で、「静かに」と収めようとするが、なおも僕に対する嘲笑は鳴りやまない。 何よりその老教師にせよ、少し可笑しそうだ。その証拠に皺くちゃで醜い口角が僅かに引きつっている。 「ですが、皆さんは、不老不死になりたくないんですか?老いて、死んでしまっても、それでもいいというのですか?死にたいのですか?」 クラス中の嘲笑を一身に受けながらも、ぶれることのない落ち着いた僕の言葉に、しんと辺りは、水を打ったように静まり返った。 そして、静寂を破るように、一人の女生徒が恐る恐るといった感じで、語り始めた。 「実は、私も、なりたいんだ、不老不死。だって、たまに考えるんだ。死んだらどうなるんだろうって。死んだら、今までの楽しい思い出とかも、何もかも、消ちゃうのかなって。無になるのかなって。そうじゃなくっても、皺くちゃのおばあちゃんになっちゃうのは、やっぱり嫌だよ。だから、応援するよ!私!がんばれ!エルくん!」 クラスの人気者だったその女子の言葉が起爆剤となり、つられるように「確かに……」「俺もなりたいな……」などという声がちらほらと漏れ始める。 「俺も、なりたいよ!頑張って!」 「がんばれよ!お前だったらできるって!」 「そうだよ。エル君ってすごく頭いいしね!」 「テストはいっつも満点だもんな!」 「確か、エル君ってこの前の塾の全国模試も一番だったんだよ!」 「え?そりゃすごすぎるべ!」 「俺たちなんも勉強しなくても親の金でエスカレーター式にエリート大学行けるのに必死で勉強してたのはこのためだったんだね!」 遂には、応援の声まで上がり始める。 クラス内が一気に僕の劣勢から、一優勢になりかわる。みんなが不老不死を渇望し、僕を神と崇め奉る。しかしーー 「だめだ、不老不死は人間の尊厳を失わせる。命は、限りあるから、意味があるし、美しいんだキリッ( ゚Д゚)」 老教師は、しゃがれた声で、また、どこかのカルト教団の教本の文言を朗読するように、静かにそういった。 その言葉に僕は、反射的に一瞬、眉根を不快そうに歪ませたが、心底憐れむような視線と抑揚のない声でこう返した。 「先生、死にたいんですか?」    遠いどこかでいつかの悪魔が腹を抱えてカラコロと嗤ったような気がした。

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  • ひよこ剣士

    nttq

    2019年6月18日 0時30分

    小学6年生にもなれば授業で歴史に名を残した偉人たちを知る機会もあったでしょうに、「僕のことを覚えてくれている人たちだって、そのうちすぐに死んでしまう」という発想になってしまうのでしょうか? この子供は特殊学級の生徒さんですか?

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    nttq

    2019年6月18日 0時30分

    ひよこ剣士