図1.明朝体に特徴的な「うろこ」と「セリフ」。比較するとゴシック体の特徴もわかりやすい。(図提供:モリサワ)

 しかし、ここまでは「基本のき」で、実際その種類は膨大だ。

 高田さんの所属するモリサワ社の「フォントマップ」には、用途に応じたフォントの体系マップがある。同営業部の瀬良健太郎さんは言う。

「パンフレット上部には幾何学的な特徴をもつニュースタイルと呼ばれるフォント、下部には豊かな表情をもつオールドスタイルのフォントが掲載されています。最近は、オールドスタイルのフォントも人気で、その数は増えています」

 基本的にニュースタイルのフォントは、字面(文字の実体部分)が大きめで、機械的で堂々としているという特徴を持っているため、物事をぱっとわかりやすく伝えるときに使用されることが多いそうだ。たとえば、「新ゴ」体はモリサワの中でもよく使用されているフォントであり駅名表示やポスターで使用されているとのこと。

 一方オールドスタイルは、個性をもつ書体が多く、伝えたいイメージに合わせて用いられることが多い。例えば、上品さや高級感など製品の持つニュアンスを書体で伝えたい場合にはオールドスタイルのフォントが効果を発揮する。

 また、ペットボトルのパッケージなど限られたスペースに多くの情報を収めるとき、文字に「長体をかける」ときがあるが、それでも読みやすくするフォント(コンデス用フォント。縦線が細くならず長体時にもカーブが歪まないで美しくみえるように作られている)や、「ミッフィー」で知られる人気絵本『うさこちゃんシリーズ』のリニューアル版用に(「うさこちゃん」のためだけに)作られたフォント(「ウサコズ」※コズフィッシュと共同制作)まであったりする。

 一体全体どのくらいの種類のフォントが世の中には存在しているのだろうか。

 モリサワが用意しているフォントの種類を高田さんに聞いたところ、「書体の数え方は太さやセットの違いなどあり、難しいのですが、1000書体以上ある」とのこと。また、1つのフォントにどのくらいの文字が用意されているかといえば、スタンダードなセットで約9400文字、デザイナーなどのプロが使用するエディトルアルでも使えるセットだと約23,000字にもなるそうだ。

 ただ、約23,000字用意したとしても、たとえば、「渡辺」の「なべ」の字はセットの中に既に23種が収納されており、戸籍などでは更なる異体字の要望もある。すべてに対応するのは簡単ではない。

モリサワにある「辺」の文字。これでもまだ足りないという。(写真提供:モリサワ)