11 「はぁ?なに言ってんだ?壁が壊れるわきゃねえだろ。現に俺の目んたまの中には、壁が空高く俺ら天使を守るように立っているぜ。とうとうテンカもケノンの悪影響でホラ吹きになっちゃったか?さては、そこの銀髪女が空から降ってきたのも作り話だな?」 わたしたちは直ぐに村に戻り、いの一番にシンに報告するのだが、当のシンは私たちの話を全く信じてくれない。 現にシンの目にはいまだ、「黒金の壁」が「見えている」らしいのだ。 「……。」 わたしとケノンは二人して閉口し、互いに顔を見合わせる。 どういうことなの? それから、シン以外の村の天使にも、この事情を説明したのだが芳しい答えは返ってこなかった。 皆は一様に壁が「見える」というのだ。彼らの中で、それはいまだ確かにそこに存在するのだと。わたしたちの中だけ壁が消えている? いや、そう「見えている」?自分たちの方がおかしくなってしまったのだろうか? 何が正しくて間違っているのか、それが分からなくなってきた。 形容できない不安がわたしを襲う。 しかし、そんなわたしの内面の不安と葛藤とは裏腹に、ケノンはニヤリと口元を楽しそうに緩ませると、わたしとシルに向かって言い放った。 なんだろう。なんだかとても嫌な予感がする。 「どうするテンカ。これはチャンスなんじゃないか?行ってみないか?壁の外の世界。ずっと気になっていたんだ。どこまで高く飛んでも、終わりが見えない黒金の壁の先には何があるんだろうって。どんな世界が広がっているんだろうって」 ケノンは好奇心に目をキラキラと輝かせてそう言った。「でも、まずはこのことを神様にも報告に行かないと。シルの事もあるしさ」わたしの返答にケノンは一つ呆れたように嘆息する。 「何が起きているのか分からないけど、俺たち以外の天使には、今も壁があるように見えているんだろ?だったら、神様のところに行っても無駄だよ。それにさ。絶対に外へ出るのを止められるよ。シルのことなら、明日にでも報告すればいいよ。このまま待っていたら壁が復活するかもしれないだろ?」 「でも、それじゃあ尚更!壁の外に出ている間に壁が復活したら、どうすんのよ!?アマガミ村に帰れなくなるじゃない!?何時も思うけどケノンは楽天的すぎだよ!」 「怖いの?」 怖気づくわたしにケノンは挑発的に語りかける。 「怖くはないけど……。いや、怖いよ!怖いね!だって悪魔が出るんでしょ?それに、なんというか、この先はまだ知っちゃいけない世界みたいで……」 「なんだそれ。そもそも、テンカは悪魔についても、懐疑的だったじゃん。そんなの存在するのかな、ってさ。本当は悪魔なんていないと思っているんでしょ?でも、ま、テンカが行かないのなら、俺とシルだけでも行くぜ。それにさ。この先に俺たちの記憶を呼び起こす手がかりもあるんじゃないか?そんな気がする。さっきから声が聞こえるんだ。黒金の壁がなくなってから、今まではそれに遮られて聞こえなかったのかはわからないけれど。でも確かに誰かが、俺を呼んでいるんだよ」 「記憶……」 そういわれると、わたしは弱い。 もうこの世界に目覚めてから2年近く経つのだが、それでもこの世界で目覚める以前の記憶がないという状況にはどうやっても慣れない。 自分が何者なのか。そのことに絶対的な確信を持てないという不安定な状況は、ふとした瞬間ににしてわたしをひどく苛む。 「じゃ、ちょっとだけ。ちょっとだけだからね!悪魔がいたら、直ぐに逃げるから!」 「そうこなくっちゃ!それでこそテンカだ!ま俺とテンカなら、悪魔とであっても大丈夫だよ!なんといっても、俺たちは純粋な戦闘能力じゃ、アマガミ村最強なんだからさ!」 不意に、わたし二人のやり取りを黙って聞いていたシルの方を見やると、まるで意味が分からないという顔で、ライトブルーの瞳を不安げに染めながらこちらを不思議そうに見つめていた。
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nttq
2019年6月17日 23時51分
「ふとした瞬間ににして」って「ふとした瞬間、ににして」なのですか? それとも「ふとした瞬間に、にして」なのですか?
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nttq
2019年6月17日 23時51分
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