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うっかり、暗黒王のおはします世界に異世界転生してしまった!?(月夜 涙)

シル

    新暦 100(西暦3200年) プラズマ界 アマガミ村 シル 「ハッ!」 なに今のヴィジョンは……。 夢……。 いや、わたくしの記憶? 気がづきますと、嫌な油汗が額に滲んでおり呼吸が荒いです。 室内に据え置かれた時計を見やりますと、もう朝の時過ぎで地平線から昇り始めたソルスの斜光が室内を暖かに包み込んでいました。 わたくしはその光に思わず目を背けます。そしてわたくしはある一つのことを思い出しました。 わたくしは、そうだーー。 わたくしも、ケノンさん、テンカさんと、同じーー リビングに向かうと、ケノンさんとテンカさんのお人は、机に向かって何やらお勉強をなされておりました。 お二人は分厚い辞典を脇に置き、ノートに熱心に何かを書き込んでいます。 「よし!これで、次の、<テレズマ入門>の予習は完璧ね」 「よーし。俺もやっと終わった。でも、こんな朝からしなくてもさ」 そういって、ケノンさんは、うーんと大きく伸びをします。 「だって、今日はシルに村の中を案内するんでしょ?だったら、今の間にやっとかないと」 「まあ、そうなんだけどさ。帰ってからでもいいだろ?」 「そういってやったことある?」 「ウヌヌヌ……」 「おはようございます。ケノンさん、テンカさん」 「あ、シル、おはよう。昨日はちゃんと眠れた?」 「お、オッハー」 ケノンさんの眠たそうなくぐもった声と蕩けるような瞳に、わたくしは思わず笑みが漏れました。 「はい。おかげさまでとてもよく眠れました。そして大変恐縮なのですが、なにか朝食に食べるものはございませんでしょうか?恥ずかしい限りなのですが、わたくしずいぶんお腹が減ってしまって」 「うん。いいよ。トーストしかないけど」 わたくしは、「ありがとうございます」と言ってから、テンカさんの隣に座りました。用意されたアッサムを口にします。 「昨日から気になっていたのですが、貴方たちはお二人で生活しているのですか?」 「うん。わたしもケノンも記憶がないけど、まぁ家族みたいなものだから」 「そうですか。お二人とも仲がよさそうで、羨ましいです」 「いや、そういいものでもねぇぞ。テンカの奴、本当に口煩いんだもん」 「それはケノンがだらしないからでしょ?」 「いいや、テンカが神経質すぎるんだよ」 「い~や。ケノンが能天気すぎるんだね!」 そう言って遂に二人は、つかみ合いの喧嘩をし始めました。 こうしてみると二人は夫婦というよりは仲のよい姉弟みたいに思えます。 そんな二人のやり取りを眺めながら、わたくしはフフフと小さく微笑しました。 そしてやがて、二人の争いも収束しケノンさんがアッと思い出したように言いました。 「そうだ。言い忘れていたけどさ。今日は俺たち安息日だからさ、案内してやるよ」 「え?安息日?案内?どこをですか?」 わたくしは、ケノンさんの宣言の意味が上手く呑み込めずに頓狂な声を漏らします。 「この世界だよ」 「なにか、思い出すこともあるかもだしさ」 なるほど。 記憶を失って右も左もわからないわたくしのために案内をしてくれるのですか……。 親切な人たちですね。 「ところで……。ケノンさんとテンカさんは、何も食べないのですか?」 「うん。わたしはいいよ。朝食なら一か月前に食べたし」 「一か月前?」 一か月前? 「俺もいいよ。二か月前に食べたし。別に腹も減ってない。飯なんて特に食べる必要もないしな」 二か月前?   テンカ 午前時。今日の気象は快晴だ。 「アマガミ村」をすっぽりと包みこんだ朝靄はいまだ消えず、東の空から顔をのぞかせ始めたソルスの陽光が大地に乱反射し、周囲をライトシルバーに輝かせる。 わたしは朝の冷たく乾いた空気を深く吸い込み、肺に新鮮な冷気を感じながらケノンに語り掛ける。 「シルの事なんだけどさ、一度神様に報告といたたほうがいいんじゃない?」 「ああ。確かにそうだよな。神様なら、何か分かるかもしれないし」 当のシルが「神様?」と思案気な顔をしていたが、後で説明することにしてこの場を後にする。 さあ、今日は忙しくなりそうだ。   

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