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うっかり、暗黒王のおはします世界に異世界転生してしまった!?(月夜 涙)

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     午後10時ごろ。 太陽(ソルス)は、完全にその姿を潜め、世界は闇の帳に包まれる。 部屋窓から、そっと顔を出すと、無数の星々が瞬いていた。 あの無数の星々には、わたしたちと同じような生命が存在するのだろうか。 無数に存在する星たちを見ているとなんだか、わたしが今いる世界がひどく矮小なもの、不完全なものに思えてくる。 誰かの瞬きひとつで一瞬で消え去る儚いものに。 「ここは……?」 簡素な室内に、美しいソプラノが響き渡る。 「あ、目が覚めたんだ。ここは俺たちのホームだ」 「あ、あなたは、先ほどの……。助けていただきありがとうございました」 空から落ちてきた銀髪青眼の少女がペコリと頭を下げる。 「いや、いいよ。気にしなくて。ところで君。名前は?」 「名前……。えっと、確か、シル」 シル……花音じゃないじゃない。 「シル……。そっか。やっぱり、花音っていうのは俺の人違いだったみたいだな。ま、俺が<三級天使>のケノンで、こいつも同じく<三級天使>のテンカだ。よろしくな」 「よろしく」 ケノンの声に重ねて、わたしもそれに倣う。 シルは、三級天使?とそのワードにこめかみが疼いたのか、頭をおさえながら俯きがちに言った。 「こちらこそ、よろしくお願いします」 「そういや、記憶がないって言ってたよね。それ本当?実はわたし達もないんだよ。この世界で目覚めるまでの記憶が」 わたしが思い出したように指先でセミロングの黒髪を弄りながら、そう言うと 「あなたたちも、記憶がないのですか?わたくしもなんです。先ほど、ケノンさんに受け止められたときは混乱しつつも、僅かに記憶の残滓みたいなものがあったのですが……。今は、もう完全に何も思い出せないのです」 シルは驚いたように、また自分と同じ境遇の者がいたことによる安堵が混じったかのような声を漏らす。 「そう。年前ぐらいだったかな。わたしもケノンも気づいたらここにいたの」 「年前から……。わたくしは多分、何か重要な目的をもってここに来たのだと思います。何かずっと大切な……。でも、ダメ。やっぱりなにも思い出せない」 「そういや、空の上の世界から来たってのも本当!?まあ空から降ってきたんだし、別に疑っているわけじゃないんだけどさ」 ケノンが好奇心に目をキラキラ輝かせる。 「はい。わたくしは、ここよりずっと高いところにいた。そこで、ずっとこの<世界>を見守ってきた。おぼろげながらですが、そのことは僅かに記憶にあります」 「この<世界>を見守ってきた?」 シルの意味深な言葉に、わたしは怪訝な顔をしながら、オウム返すがケノンは細かいことはどうでもいいと言う様に先を促す。 「なあ、空の上の世界ってどんなところなんだ?にしてもやっぱりあったんだ!あの空の上には、まだ見ぬ世界が広がっているんだな!なあ、どんなところなんだ?もしかしたら、俺たちも、シルと同じように空から来たのかもしれないな!」 「確かとても静かで、それでどこまでも続いていて……。そこにはなんでもあって……でもそこには何もなくて……。確か今は何かの<ゲーム>を……」  げーむ? それは聞いたことのない単語だった。 「げーむ?なんだそれ。でもそれじゃあ、よく解んないな。何かほかにないの?」 「ごめんなさい。ほんとうに何も思い出せないの」 ケノンはがっかりしたように肩を落とすが、額を上げて、窓の外の星空に視線を向けるとキラキラ輝いた瞳で言った。 「でも、やっぱり空の上の世界はあったんだな。いつか行けるかな。行きたいな」 瞳をキラキラと輝かせるケノンを横目にわたしは、これから何かとてつもなく大きなことが始まるーー そんな確信めいた予感を感じていた。 xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx ??? 世界は、目が眩むほど白く輝く光に満たされており、地平線はどこまでも続いている。 目を凝らしてみても、その終点を視認することは出来そうにない。 まるで時が止まったかのように、静寂に包まれた世界に、どこからともなく神々しい声が響き渡る。 <ミカの造ったゲームに、不老不死というバグが発生してから、こちらの世界でも随分とたった。そのせいでこの『ゲーム』は永遠に終わらなり、ここの天使も激減した。しかしゲーム内で発生した内部事象はそれがこちらの世界に直接的な危害を加えない以上は絶対不干渉の取り決め下、またゲーム内監視員(オブザーバー)との協議の結果、とりあえず不老不死というバグを見送ったが、滅びたはずの悪魔の復活が観測された。そうなると話は変わってくる。ゲーム内のバグがこちらに直接的な危害を与え始めた。そしてそのことはゲーム世界に干渉可能になったことを意味する。急がねばならない。悪魔は明日にも悪魔は西の関門を突破する> 神々しい声は、メドルはあらんかという位の長身痩躯という言葉が似つかわしい男に語り掛ける。 しかし何よりも特徴的なのは、端麗な顔に浮かぶ、吊り上がった柳眉とその下にあるその地獄を連想させるかのような真っ赤に輝く瞳だ。 「大量の天使がログインしている結果、天界いる天使の数は激減、さらに現在、天界の戦力の実に80%を占める大天使のうち、体がログイン中……まさかこんなタイミングで悪魔が目覚めるとは……」 男は地獄の奥底から聞こえてくるような低い声でそう返して、続ける。 「消してしまわれるのですか?」 <現状ではそれも致し方ないことかもしれん。戦力、特に対の大天使は悪魔との戦いに必須だ。無論、ボタン一つの「リセット」は、こちらからの操作では出来ない。したがって、誰かが直接『あちら』へと赴かねばならんが。エマージェンシーログインによるゲームの中止か……おのれ。ミカの奴……。本当に面倒なことを……> 長身痩躯の男は、くくく、と悪魔的な笑みを浮かべる。 「それは、当然の仕様だと思いますよ。『こちら』の身勝手な都合で、急に何の前触れもなく、すべて『リセット』され、消える。それじゃあ、あちらの住人にはあまりにも酷すぎます。それはRPGでラスボスと戦っている最中にちょうど停電が起こるようなものですから。でも、この現状を作り出したのが、ゲームを制作した当のミカ本人だというのはジョークにしても、あまり笑えませんがねえ」くくく、と男は尚も低く嗤う。 <確かにな……ルシフェル。では、行ってくれるか?> ルシフェルと呼ばれた長身の美丈夫は、背後に設置された巨大な魔水晶(ラクリマ)に向かう。 その水晶には、「こちら」とは違う世界 ――異世界が映し出されている。 そして、ルシフェルが手をかざすと画面は、瞬時に切り替わった。 「ククク。なんの因果かあのゴミ溜めみたいな不自然で歪にゆがんだ吐き気のする世界に戻る日がこようとは……。ククク。まったく嫌な異世界転生だ。最優先捕獲対象は、ミカエル=神エル、ウリエル=空洞虚空(くうどうけのん)、ガブリエル=天上天下(あまがみてんか)……と」 ゲームを始めますか?(ゲーム開始後は、中途セーブ、及びリセットは出来ません) ルシフェルが、嗜虐的に嗤いながら魔水晶に手をかざしかけた折、突如として清澄なソプラノヴォイスがルシフェルの動作を制止させる。 「待ってください!ルシフェル様!そのお役目、わたくしに!」 銀色の長髪にライトブルーの瞳を宝石のように輝かせる少女がゼエゼゼと息を切らしながら、白い光の中から現界する。 ルシフェルは、突然の少女の登場にも全く微動だにせず、少女に対して格下の下等生物を見るような視線を向けると 「三級天使のお前が、直に向こう側に行くと?ミカだけでなく、その侍従もジョークの才がないらしいな。三級ならば最悪、記憶を失う可能性もある。それを理解して言っているのか?」 少女はルシフェルの危険な気配にも負けずにルシフェルに詰め寄る。 「お願いです。わたくしがやらなくてはいけないんです。ミカさまとゲームを共同開発したのは、わたくしですし。それにミカ様の側近としても!」 そういって、銀髪の少女はさらにルシフェルに詰め寄り、深紅の瞳にライトブルーの瞳をまっすぐに向ける。 ルシフェルは、少女の並々ならぬ気迫に押されたように観念した仕草をとると。 「チッ!分かったよ。だが、向こうでお前が動けないと判断したらすぐに俺様が向かう。神よ。それでよろしいでしょうか」 <構わない。だが、シル。お前が動けないと判断したら、すぐにルシフェルを向かわせるぞ。それだけに事態は緊急を要する> 「ありがとうございます!ありがとうございます!」少女は、姿の見えない相手に対し、何度も何度も深く頭を下げる。それから少女は、直ぐに魔水晶に手をかざす。   Angel Playerを起動中……  Now loading……            Now loading……         Now loading…… 生体認証を開始します  Grade 級  Player Name  高橋花音(たかはしかのん)  Real Name シル 初期ステータス B-(各項目への配分はアトランダムで行われます) ゲームを始めますか?(ゲーム開始後は、中途セーブ、及び、リセットは、出来ません) Now loading……    now loading……     nowloading…… error error error error error error error error エラーが発生しました。あなたは、すでにログインをし、ログアウトを終えています。 再度のプレイヤーとしてのログインは認められていません。 Cancelあるいは、emergency loginを選択してください。 なお、Emergency Loginは、内部時間、西暦年に天使の(テレズマ)及び天界における記憶の封印が何らかのバグにより、不完全なままゲームにログインしたプレイヤーネーム「イエス=キリスト」の強制ログアウト処置以降使用されておりません。(当時はオブザーバーシステムも存在しませんでした) 再実行するにはEnterキーを押して下さい。スタートアップ設定を表示するにはF8キーを押して下さい。 別のオペレーティングシステムを実行するにはFキーを押して下さい。 Emergency loginが選択されました。 これより、Emergency Login 許可事由に該当するバグを検索します。 Now loading……          Now loading……         Now loading…… 検索の結果、<不老不死による天界戦力の減少><大天使のゲームログインに伴う不在><悪魔の復活><オブザーバーシステムの処理能力超過>というつのワードが修正不可能なバグとしてシステム上に検出されました。 Emergency Loginを許可します。 また、Emergency Loginに関してはオリジナルの肉体にとってもログインに伴い様々な危険が生じます。 Emergency Loginはあくまでも最終手段です。 危険事由の確認は、お済みですか? YES← NO それではUSER IDとPASS WORDを入力してください USER ID   bjp0100 PASS WORD xxxxxxxxxx 認証が終了いたしました。 ただいまより、スーパーアカウントによるemergency login を行います。 データベースを再構築中……。 データ送信を開始いたします……。 青く輝く光が少女の肢体を覆い始め、その光が一瞬大きく光量を増したかと思うと、少女の姿は忽然と消えた。 xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx

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