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うっかり、暗黒王のおはします世界に異世界転生してしまった!?(月夜 涙)

第一章

テンカ

章  新世界より  新暦98(西暦3200年) 電脳世界 『プラズマ界』 東京西部郊外  (プロローグβ西暦2015年/神エルと悪魔ネビロスの邂逅から1000年後) テンカ  テンカ アマガミ村。 総勢74名の天使に一対の神様。12k㎡の面積。 北側は、広大な砂漠地帯が広がっているが、世界のちょうど真ん中位置する大河が世界を二分し、南部には天使たちの生息に適した草原や、森林、そして天使たちの居住の地である田園地帯が広がっている。  アマガミ村の周囲は、すっぽりと「黒金の壁」に囲まれており、悪それが魔の侵入を実に1000年もの間、防ぎ続けている。 村の中心には、白亜の大理石で構築された「中央神殿」があり、ここにこの世界を創造した神がいる。 そして中央神殿のすぐ隣には学園アカデメイアが存在し、天使たちはここで悪魔と戦うための実践的な剣術や、知識を身に着ける。 アカデメイアでのカリキュラムは大きく、<級天使過程> <級天使過程> <級天使過程> と分けられており<級>を卒業したのち、<大天使>の学位が授与されることとなる。そして天使は、晴れて一人前の天使となるのだ。 そしてアマガミ村という名称だが、それはこの世界で一番最初に目覚めたとされるはじまりの天使、アマガミドクソンの名をとったということらしい。(アマガミドクソンはアマガミ村の破壊を企てた罪で神様の手で500年の間、地下監獄に幽閉中) わたしとケノンは年前に、アマガミ村で目覚めたがそれ以前の記憶が無いため、今年でケノンが16歳、わたしが18歳になるのだが、それより年下の天使と一緒になって<級天使過程>で学んでいる。 この日のアカデメイアでの限目の授業は、<悪魔基礎学>だった。テキストである悪魔大辞典は約1000頁にもわたり、そこには、ところせましと様々な悪魔の特徴が、詳細に記されている。無駄に分厚いそれをうんざりしながら、適当に頁を繰り漫然と開いてみる。 <ネビロス> ネビロスは地獄の人の支配者ルシファー、ベルェビュート、アスタロトに仕える柱の上級精霊の1柱であり、少将にして総監督官である。 わたしはそこに記されたネビロスという悪魔の姿を想像してみたが、テキストの文言だけでは、その姿、形をうまく想像することができない。 次第に、本当にこんな恐ろしい生物が存在するのかという気にさえなってくる。 「ねえ、ケノンは、黒金の壁の外には本当に、ここに書かれているようなネビロスとかいう悪魔がいると思う?」 「そりゃあ、いるだろ。普通に考えて」 「普通ってなによ?」 自分の口が尖るのがわかった。 「だってさ。俺たちは、天使なんだぜ。天使がいるんなら、そりゃあ悪魔だっているよ。そうじゃないと俺たち天使の存在意義がなくなるだろ?」 「そういうもんかなー?」   仮に、悪魔が存在しないとなると、わたしたち天使の存在意義と言うものがなくなってしまうのだろうか。それは確かにそうかもしれないなと思った。 しかし、全ての生命に存在意義など存在するのだろうか。 存在意義の存在しない存在というのもあるのではないか。 例えば、今ケノンの血液を吸うべく、彼の鼻の先にとまった虫なんかには。 「大体さ、悪魔がいないなら俺たちは何のために朝早くからアカデメイアに来てるんだよ?それはいつか、悪魔と戦えるようになる知識と力を……」 鼻先に止まった虫には気づかないままケノンはそう言った。 「はいはい。解りました。そうよね。はいはい」   机に肘をついたままのわたしの気のない返事にケノンは不機嫌そうに、また呆れたように自分の頭を掻いてクシャクシャにする。 「全然、納得しているように見えないけれどな。大体、テンカ。お前、悪魔基礎学のたびに同じこときいてくるよな?こんなやり取り、もう何回目だよ?」   そんなわたしたちの<悪魔の証明>を聞いていた10歳年下の級天使イデアが、金色の髪をかき上げながら笑い声をあげる。 「そうだよ。テンカ。ケノンの言う通りだよ。悪魔がいるから、アタシたち天使がいるし、悪魔が、アタシたちを襲うから、アタシたちはアカデメイアで学ぶんだ」 「イデア。言ってる事、俺と全く同じな」 「でも、ケノンもイデアも悪魔を見たことはまだ無いんでしょ?わたし、自分の目で見たもの以外は信じないから」  何事も疑り深いのはわたしの悪い癖だと思うけれど。でも、こればかりはどうしようもない。 やがて始業を告げる鐘の音が大鐘楼から響くと同時にソフィスト(教授)が講堂に入ってきた。 そしてソフィストの号令のもと、わたしたちは一斉にテキスト頁に記されている<世界の歴史>について朗読を始めた。 もう見慣れたいつもの光景だ。 xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx かつて天使たちは<黒金の壁>の外の世界(天界)で争いもなく、平和に共存していました。 食べ物や、資源を公平に分け合い、平和な共同体を築いていたのです。 唯一の問題は、天使たちには生まれながら<天命>という病があり、すべての天使がおよそ、80年ほどで天に召される運命にあったことです。 しかしそれも優しい神様が魔法の力で治してくれました。天命を克服し、しばらくの間、何の問題もない本当に平和な時代が続きます。 しかし、ある時、地下の世界から一匹の悪魔が現れました。 驚いたことに、その悪魔が大声で叫ぶと、周りにいた天使たちは病気が伝染するかのように悪魔へとその姿を変えてしまったのです。 そして、悪魔となった天使は天使を食らい始めます。 なぜなら悪魔に食べられた天使は、悪魔になってしまうからです。そうやって、悪魔は急激にその数を増やしていきました。 そして、天界に存在した天使は悪魔が現れる前の100分のにまで減ってしまいました。 絶滅の寸前に陥った天使でしたが、そこに天からの救いの手が差し伸べられます。 なんと、天上の協会から神様が地上に降り立ったのです。 神様は、天使を救うべくその力で悪魔を焼き払いますが、多勢に無勢。悪魔のすべて焼き尽くすことは出来ませんでした。 困った神様はありったけの魔法の力をつぎ込んで、悪魔の侵入を防ぐ<黒金の壁>を創り出しました。 悪魔たちは<黒金の壁>に近づこうとすると頭に電流が走るように痛み、近づけないのです。 その壁の中で生き残った天使たちがアマガミ村を作りました。 しかし、かつての天界がそうだったように、いつ悪魔が<黒金の壁>を突破し、私たち天使を食らい始めるか解りません。 なので、我々は日々、アカデメイアにて学び、鍛え、悪魔と戦う術を身に着けなければならないのです。 xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx アカデメイアで行われる授業では、必ず、授業の初めに、この<世界の歴史>を朗読させられる。 それは全ての教科書の頁目に、大きく書かれている。わたしたち天使は、優しい神様によって度も救われたらしい。 その文言は何度も朗読し、もはやすらすらとそらで暗唱できるまでになっていた。 しかし何度も、同じことを繰り返すというのはどういった意味が込められているのだろうか? つはかつて、悪魔に敗れたことを教訓に、同じ惨劇を繰り返さないよう日々気持ちを新たにし、鍛錬に励むモチベーションを維持することがあげられるだろう。 でも、わたしには何度も繰り返すことで、「そうであった」と誰かに、あるいは、自分自身に言い聞かせているように聞こえてならなかった。      

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