ストライカーの直感だった。1-1の後半48分。マルティノスが左サイドをドリブルで持ち上がり、中央へパスを送った。球は相手に当たって、不規則な回転をしながらフワリと浮き上がる。興梠は「かぶる。相手がミスをしてくれそう」。相手DFとあえて競り合わず、後ろにステップを踏み直して留まった。その判断が全てだった。「冷静だった。疲れていたので、逆にリラックスして決められた」。フリーで右足インサイドを合わせた。ネットが揺れ、ゴール裏が沸騰した。土壇場で劇的な逆転弾。6戦ぶり白星。監督交代後、初勝利。エースの任務を全うして、自らの記録達成を素直に喜んだ。
J1通算140得点は、カズの139得点を抜いて歴代単独6位。さらに、福田正博が持つ浦和のJ1最多91得点に肩を並べた。興梠は「満足せず、もっともっと点を取りたい。10、20、30点。浦和レッズと言えば、興梠慎三と言われるように」。興梠だけの次なる道しるべは、はっきりと見えている。 (松岡祐司)