@chablis777
シャブリ

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(辛作)はい 出来た~。
(増野)いつも すみません。(辛作)いいんだよ。 ハハハハ…。
(増野)ありがとうございます。(勝蔵)父ちゃん 父ちゃん!
あっ 父ちゃん 大変だ!竹早で ボイコットだって。
ボイコット!? 何だい そりゃ。
(勝蔵)生徒が金栗先生を辞めさせるなって立てこもってんだよ!
(富江)不当解雇 反対!
(シマ)金栗先生 早くいらして。(四三)えっ?
先生の生徒が教室に立てこもりました。
こりゃ お母様のお帰りは遅くなりそうだ。なあ りく?
ばばっ!(孝蔵)<金栗先生主催の女子陸上大会で 生徒が靴下を脱いで出場>
<それが世間を騒がせ父兄たちは大激怒>
(大作)おてんばにするためではありません!
(校長)金栗四三先生の依願免職を求めると。
(溝口)パパを辞めさせるな!(学生たち)辞めさせるな~!
(校長)どなたか お答え下さい。
村田~!
梶原~!
ぬしら…腹ば減っとらんかね?えっ?
弁当食って もう8時間だけんね。
どぎゃんね? 今 出てきたら先生が 豚鍋ばおごるばい。
そんあと 大福でん バナナでんお好きなもんば食わしたるぞ。
(腹が鳴る音)あっ…。
(腹が鳴る音と笑い声)
お~い 村田 梶原 白石!
はよせんと 豚鍋屋 閉まってしまうけんはよ出てこい!
(白石)豚鍋…。(笑い声)
あっ パパ。パパ。
富江~! 富江~!ちょちょ ちょちょ…。
親に恥をかかせる気か!? お前は。
あとちょっとだったのに…。
出てきなさい!お父さんの言うことが聞けないのか!?
(窓をたたく音)
(学生たちのざわめき)何? 何?
ちょ… ちょっと ちょっと…。
えっ? 誰?
足袋屋のおかみさん。(ちょう)ほら 差し入れ持ってきたよ。ほら みんな食べて。(歓声)
(ちょう)うちもさ辞められちゃ困んのよ 金栗さんに。
いざとなったらさ ほら これ…。
持ってきたから これで戦って ほら。
これ バット。何か分かんないけど 持ってきた。
(大作)大人を甘く見るな!
おなごは運動など せんでいい!よって 運動ばかりさせてる教員はクビ。異論はなかろう。
あります。 女の体は男が思ってるほど やわじゃありません!
(大作)医者だぞ 私は。 医学的見地に立っておなごの体は運動に適してないと言ってるんだ!
それは鍛えてないからです!どんなに鍛えても 男にはかなわん!
だったら 証明してもらいましょう。
ねっ 金栗先生?はっ?
競走してもらいます お父さんと。
ばっ… えっ?(大作)ちょ… ちょっと待ってくれ。
この人はオリンピック代表だろう。
違います。 先生じゃなくて 相手は娘さん。
えっ?
(シマ)女は男にかなわないんですよね!?
ああ… ああ! もちろんだ!
(梶原)あんなこと言ってるわよ。
こう見えても 私は 町内会のリレーでアンカーを走ったこともある!
娘なんかに負けてたまるか!
私が勝ったら…金栗先生をクビにしないでくれますか?
ああ。
♪~
「よ~うっ!」(太鼓の音)
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
「よ~うっ!」(拍子木の音)
はい。 はい 皆さ~んランタンお持ち下さい。 はい。
おい 本当にやる必要があるかね?
もう みんな 外へ出てきてるんだ。解散でいいんじゃないのか?
すぐ済みますから。 ねっ?
富江! それ!あ~ 時間も遅かけんさっさと やりましょう。 ねっ?
さあ。こちらへ。
富江さん 頑張って!富江さん!
では 支度して~!
よ~い…。
(笛の音)
頑張れ~!富江さん 頑張れ!
♪~
(歓声)
(大作)もう一回だ! もう一回やらせろ!
もう一回だ。
(笛の音)
(声援)
ハァハァ… ハァハァ…。
もう一回だ! もう一回やらせろ!
えっ?(大作)もう一回だ!(学生たち)また?
やるぞ!支度して~。
よ~い…。(笛の音)
<このあと 村田親子は100m走を6本連続で行いましたが結果は ご覧のとおり>
ハァ… ハァ… アァ!
チクショー! くそっ。
お静かに お父様。
富江… お前 いつの間に。
鍛えてますから。
ハァ…。
(富江)はい。
立ってよ。 みっともないな。
(ため息)
はい。
みんな もう家に帰りなさい!
何時だと思ってんだ… 時計がない。
♪~
ごきげんよう パパ!
ハハハ… おう!(笑い声)
よかったわね~!ありがとう ありがとう。
(学生たち)先生~!おお おお… ハハハハハ。
ああ ありがとう!ありがとう ありがとう。
(一同)ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い!
(シマ)「親子で競走を」と私が提案してそしたら見事 娘さんが優勝されて。
…で 金栗さんが辞めずに済んだんです。(治五郎)ハハハハハ!
こいつは痛快だ!
いや~…。(客たち)おめでとう!あっ いやいや…。
すんまっせん。 ありがとうございます。
いや~ もう… シマちゃん先生のおかげでどうにか クビは免れたばってん今後は気を付けます。
な~に いずれ君が正しかったと分かる日が来るさ。
嘉納先生もお忙しいのに お元気そうで。
そこだよ そこ! んっ?(りくの泣き声)
えっ?
えっ… ばっ!? えっ まさか…。
夏には完成する。神宮競技場が… ええっ!?
そぎゃんですか おめでとうございます!(拍手)
ああ…。
あ~ 着工から足かけ5年。
ようやく世界に恥じないスタジアムが出来る。
これで 東京でオリンピックを開催する準備は万端だ!
はい。今度 3人で見に行こう。 私が案内する。
あっ もう是非! はい。フフフフ…。
じゃあこの子たちはスタジアムを走るんですね。
もう~ 何ば言うっとか。シマちゃんだって走っとばい。
そうだよ。 君は まだ若い。 諦めるな。
(泣き声)
あっ 何ね?うん? 泣くの?
来るか 来るか?だっこば してもらえ。
よいしょ!あ~ よか! よかね~。
おりゃ おりゃ おりゃ…。
(志ん生)すごく前向きな いいムードをぶった切るようで心苦しいんですがここで 少々 「東京おりん噺」を。
おい 「おりん噺」。(笑い声)
しょうがねえな あの野郎。(笑い声)
何だよ…。
(おりん)お父っつぁん お父っつぁん。はい。(亀次郎)えっ? ああ…。
これで全部かい?琴だのタンスだのあったじゃ…。
(孝蔵)し~っ し~っ… そんなもんはねえ。
とうの昔に質ぐさでさ。
(志ん生)<家賃がたまって1回目の夜逃げでございます。今度の家は 田端動坂の一軒家。といっても カカアの親父さんが借りてくれたんですけどね>
(小梅)引っ越すなら引っ越すって言ってくんなきゃ。
大丈夫?(ため息)
あたしゃ つくづく嫌になりましたよ。あの人ときたら 毎日毎日ほっつき歩いて 酒 かっ食らって家には一銭も入れないんですから。
あ~ だまされた。芸人の女房なんてこりごりだ。
何だって カカアってのはうちにいるんだろうな? なあ 清公?
(清さん)お前の帰りを待ってるからだろうよ。
そりゃ違うぜ。 俺がうちに帰るからあいつは カカアになっちまうんだ。
うん? 俺がうちに帰りさえしなけりゃあれで 案外 いい女なんだよ。
だったら おりんさん 別れちゃいなよ。
ええ… そうしたいですよ。
もうね かばいきれないよ。
あたしゃ 仲人だから孝ちゃんの肩持ってたけどさ大体 あんなひどい男はいないよ。
(志ん生)「別れちまいな とっとと。 別れろ」。
「あ~ せいぜい飲んだって2合か3合でしょ?」。
「だから どうした?」。 「だから…酒食い野郎なんて言うことないと思うの 私」。
「何だ? おい。お前が言いだしたんじゃねえのか おい」。
(美津子)フフ… 「厩火事」だね。
(五りん)えっ 何ですか? それ。
(今松)亭主の悪口を言いに来た女房に仲人がな「そんなら 旦那の前で わざと転んで…」。
旦那の前で わざと転んで大事にしてる瀬戸物 割ってさ女房の心配するか瀬戸物の心配するか試してみな。
「試してみな」って言うんだよ。
そうそう。絶品なのよ~ お父ちゃんの「厩火事」。
落語で ごまかさないで下さいよ。
(今松 美津子)えっ?女房ば~っかり働いて自分は酒ば~っかり飲んで。かっこいいと思ってるんですか?
おいおい 40年前の話だぞ?何 今 怒ってんだ。
(知恵)本当あきれちゃう。 ねえ おかあさん何で こんな酒飲みと一緒になったの?
だって 寒いんだもん。(知恵)おじいちゃんに聞いてない。
いや そうじゃなくて…別れない夫婦がいていつも けんかばかりしてんだよ。
何で別れないのかっちゅうたら お前「だって 冬 寒いんだもん」って。
この味が分かんねえか? お前ら。
・え~ 楽しみ~。
♪~(ピアノ)
あっ シマちゃん先生 シマちゃん先生!
今日 大丈夫ね?今日?
嘉納先生が神宮ば案内するて…。
あら? 伝えたつもりだったばってんが…。
今 初めて聞きました。あっ…。
今日は始業式でおしまいだから… ねえ?
ええ。 そのあと浅草オペラをご一緒しますの。
(梶原)パパも いかが?チケットが1枚余っておりますの。
お昼に浅草十二階 集合。
あ~ ばってん…嘉納先生と約束のあるし…。
ごめん! ごめん ごめん ごめん…。また今度。 ねっ?
はい。楽しんできて。はい。
へえ~ オペラねえ。
ちょっと早いけど お願いします。(泣き声)
(辛作)任しとき!
夕方には戻りますから。
(泣き声)いい子にしててね~ りく。
すいません じゃあ お願いします。
「お母しゃん 行ってらっしゃい」って。
(泣き声)
ああ…。
あっ!フフフフ…。
どうだ 金栗君! とつけむにゃあだろう。
あっ… そん言葉すら出んかったです。
ハハハハハ!メインスタジアムに 1万5,000人この芝生席に4万人計5万5,000人収容できる。
本当に造ってしまわれたんですね。
見える 見える… 競技場 本当に出来てる。
♪~
はあ~… ハハハ!
(写真を撮る音)よっしゃ~!
(志ん生)大正12年9月1日。
その日 私は 暇 持て余してまして。
毎月2日が寄席の月給日ですから9月1日といやあ噺家にとっちゃあですねとにかく 銭のねえ日で。
あっついな…。(猫の鳴き声)
(志ん生)<朝から変な天気でしたな。雨がパラパラッと来るがいやに暑苦しい。やむと 今度は風。おてんとさまと風と雨が運動会やってるみてえだ>
はい もうすぐ開場だよ~!はい 「お蝶夫人」始まるよ~!
はい 12時 12時始まるよ~。見てって 見てって。
はい 「お蝶夫人」見てって。はい もうすぐ始まるよ~。
雨宿りに浅草オペラ「お蝶夫人」12時だよ 12時。
早くしろよ 小梅!早くしろ 小梅! 早くしろ!
こんな雨の日に店開けたって客 来ないよ。
(太鼓の音)間もなく12時だよ~。 始まるよ~。
間もなく12時 始まるよ~。
ハッハッ… ンッ!
ヘヘヘッ。
ところで韋駄天はいくつまで生きるつもりだね?
はあ? あっ えっと… 俺は今 32だけんあと… 30年? うん。 62までは。
私は 今 62だが…150歳まで生きるような気がする。
決して願望ではない。
それぐらい生きなければ追いつかないという意味だ。
ここが完成したら すぐ東京でオリンピックを開催する。
だが それが最終目標ではない。
私が愛してやまない柔道を世界の隅々にまで広めるんだ。
それには どう考えても150歳まで生きなくちゃいかん。
フフフ…。
そのころには地球は…火星と交通しているかもしれん。
…はい。
そうなれば 火星人にも 柔道をたたき込まなければならん フフフ。
<またまた嘉納さん 訳の分からないことを言いだしましたが…>
お~い!
お~い!
お~い!
お~い!お~い!
お~い!お~い!
<私の方は…>
酒。 酒 ねえのかい?
ございません。うそつけ! あるだろうよ!
(志ん生)<頭 来たんで草履に片足引っ掛けた時…>
ばばばばばば…。おっ おっ おっ…。
グラグラグラッと来やがった!「何だ? おっと… ああっ!」。
(悲鳴)
(ちょう)あっ あっ… ちょっと!おい 何だ? おいおい…。何だ こりゃ!何これ!
(辛作)気を付けろ。 おい…。
小梅!(小梅)あんた~!あんた…。(清さん)小梅…。
♪~
(建物が揺れる音)
午前11時58分 どこの家も昼飯の支度をしてる頃合いでした。
裸電球が天井に こう向かってガチャン ガチャン…。
「こりゃ 大変だ! うわっ!」てんで勝手口見たら カカアの野郎が俺の湯飲み持って 七輪に…。
ハッ… 水かけてヨタヨタしてんだよ こりゃ。
あんた!
危ねえ! こっち来てろ!あんた!
(志ん生)<もうカカアのやつは タンスの陰に隠れて…>
あんた ここが一番安全だよ!
<…なんて言ってやがる。その時に どういうわけか私の頭の中にある考えが浮かんだんです。こりゃ モタモタしてると東京中の酒が地面に吸われちまうぞ>
財布よこせ!
あんた~!(志ん生)<…ってんで とにかく目についた酒屋に飛び込んだ!>
おい… 酒くれ!
銭なんか ようござんす!好きなだけ飲んで下せえ。
(志ん生)…で 私は転がってる四斗樽の栓を抜いてねグイグイ あおった。 もう ダバダバ…。
<ダバダバ飲んで もう止まりゃしねえ。その間にですよ揺れは こうやって続いてんだ。酒瓶が倒れて こんなもったいねえことはねえってんで2~3本 こう赤ん坊のように抱いちゃってね表へ出たんですけどバカみてえに飲んだもんだから足元がうまくねえんだ こりゃ。しかも 余震は続いてる。地面が揺れてんのかてめえが揺れてんのかすっかり ヘベのレケでね家に帰るまで こう…>
♪「あ~」…なんて 歌 歌っちゃったり。
<…で 家に帰るってえと>
こんな時に どこほっつき歩いてんの!<…なんて言ってやがる。「うるせえ 男がタンスの陰でじっとなんか していられるかい!」。「ちょっと あたしの身にもなってよ」。「おめえだって 俺の身になってみやがれこの野郎」>
酒と女房 どっちが大事なんだい!
そりゃ 女房に決まってんじゃねえかよ。
そりゃ… 本心かい?
当たり前だろ。おめえ… 女房に ケガでもされてみろ明日から 遊びほうけて お酒が飲めない。
あたしゃ… 身重なんだよ!
(志ん生)いや~ 驚いたのなんのってその時に みごもっていたのが長女の美津子さん。今じゃ 私の敏腕マネージャーです。
余計なこと言わなくていいのよ。
何で 大地震の最中にそんな重大なこと発表したんですかね?
辛作さん… 辛作さん! し…。
・(泣き声)
りくちゃん? りくちゃん!
あっ よかった…。りくちゃん! よかった…。
よかった よかった よかった…。よかったね。 みんな無事…。
金栗さん!あっ あんた…。辛作さん。
あ~ よかった~! よかった…。
あ~ 勝っちゃん。ねえ みんな無事だ… ほらほら。
(泣き声)うん よしよし… あっ お母さんは?
浅草オペラ見に行ってんの。あ~ そぎゃんでした。
ちょっと様子ば見に行ってきます。
おい 火事だよ~ 火事…。(半鐘の音)
火事だよ~!あっちだ。
(半鐘の音)
(孝蔵)<日が落ちてくるってえとだんだん見えてきたんです。東京の街が真っ赤に染まってんのが。大変なのは こっからだったんです>
♪~
(半鐘の音)
(孝蔵)こいつは駄目だ…あたしゃ そう思いましたね。
「富久」の噺どころじゃない。
浅草から日本橋 芝の方まですっかり燃えちまってる。
(吠え声)
「何じゃい?」。(鳴き声)
「あ~… 火事だ 火事だい。 えっ?火事だ 火事だ 火事だ 火事だ 火事だ。えっ?どけどけ どけどけ どけ!邪魔だ 邪魔だ 邪魔だい」。
「何だって そんなに走るんだい?」。
「火事なんだよ 火事」。
(増野)りく~! りく~!
(辛作)増野さん?(増野)りく~!
(辛作)増野さん!(増野)えっ? えっ?
(辛作)増野さん!(増野)あっ… 辛作さん!
辛作さん!増野さ~ん!
あの… りくは!? りくは!?
ちょう!(ちょう)あっ! ほら りくちゃん。お父ちゃんだよお父ちゃん 帰ってきたよ ほら。
りく… おいで…。
よかった よかった。あ~ りく~。
怖かったな~。 よかった。
百貨店は全焼でして…。
(りくの泣き声)
あれ? あの… うちのは?
それが… まだ帰ってきてねえんだ。金栗さんが捜しに行ってるよ。
(辛作)ま… 増野さん 増野さん!大丈夫だ! 大丈夫だから。
必ず見つかる。 大丈夫。大丈夫だから!
<地震そのものより火災による被害が大きかった>
♪~
中でもひどかったのは 吉原でしょうな。
周りが どぶに囲まれてるってんで大門に人が殺到する。
「おっ おっ おっ…」。
火の粉が飛んで 着物に燃え移る。
「熱っ バカ野郎。 熱 熱 熱…」。
ってんで 誰かが弁天池に飛び込んだ!
「俺も!」。 「私も!」。「あっ 俺が先だ この野郎!」。
「あちきが先でありんす」。「押すな この野郎!」。
「あたしも!」。 「俺も!」。 「あたたた…」。
ってんで みんなが助かりてえ一心で後に続いた!
下のやつは溺れる。 上のやつは焼ける。
はあ… あたしのなじみもいたんでしょうかね…。
♪~
いやいや… 見つかりっこありませんよね。
<南風に乗って火の手は広がり続けまして2日かけて東京をすっかり焼き尽くしちまった>
(騒ぐ声)
止まれ~!おい お前だ!はっ? 何か?
お前 日本人か?どこから どうやって来た?
いやいや… どぎゃんもこぎゃんも市電の走っとらんけん…。
お前 何だ… 何だ? その言葉。日本人じゃないな?
熊本! おるは熊本だけん!
熊本!?・(大作)先生!
待て 待て 待て…。金栗先生!
お父さん!娘の学校の先生だ。
先生!?うん。 日本人だ。
本当か!?大丈夫だ!
お父さん… ご無事で何より。
そちらこそ ご無事で。
自警団ですよ。自警団?
ええ。 この災害のどさくさで根拠のない流言飛語が出回ってる。
「大きな余震が来る」とか 「井戸に毒がまかれた」なんて とんでもないデマまで。
(富江)パパ! パパ!村田!
よかった… ケガは?
大丈夫? よかった よかった…。
(大作)どうした? どこが痛い?包帯… 包帯ありますか?
(大作)もっと こっちだ。はい。どこが痛い?
病院は全壊しました。
薬や包帯を運び出して 手当てなどしてますが とても追いつきません。おい 大丈夫か?しっかりして下さいね。
(富江)シマ先生 見なかった?
おるも捜しとると。
お前… 一緒じゃなかったとね?
十二階で 正午に待ち合わせしてたんです。
十二階…。
♪~
あっ… あっ…。
な~し… な~し こぎゃんこつが…。
♪~
浅草のシンボル 凌雲閣 十二階も8階んところでぽっきりと ぶった切られちまって残りのところも すっかり焼けちゃった。
♪~
浅草の町が たった2日で… 消えた。
浅草の町が たった2日で消えた。
(増野)竹早の増野シマさ~ん!
竹早の増野シマさ~ん!
シマちゃ~ん!(増野)竹早の増野シマ 知りませんか?
竹早の増野シマ 知りませんか?竹早の増野シマ 知りませんか?
(志ん生)<叫んでも見つからねえからってこんなふうに尋ね人の貼り紙をしたり…>
(泣き声)
母ちゃ~ん! 母ちゃ~ん!
増野さん… 増野さん… 増野さん。
もういっぺん 浅草行ってみましょう。
はい。
シマちゃ~ん!
シマちゃ~ん!
(増野)竹早の… 増野シマさ~ん!シマちゃ~ん!
すいまっせん すいまっせんご存じなかですか?
(増野)竹早の増野…。
シマちゃ~ん!(増野)竹早の…。
(泣き声)
(りくと増野の泣き声)
シマちゃ~ん!
諦めるしかないんでしょうか?
どこかで…諦めなくちゃいけないんだろうな 本当は。
もう 少し諦めかけてるし…。
諦めたらいかん… 諦めたらいかん!
なっ 増野さん! 諦めたらいかん!絶対見つかるけん!
朝…。(りくの泣き声)
初めて文句言ったんです あの日。
ごはんが… ごはんが かたいって。
やわらかいのが好きなんですよ。
我慢してたけどこれから ずっと一緒に暮らすんだし…言った方がいいと思って。
ごめん…ごめん… 言わなきゃよかった…。
ごはんなんて… どうでもよかった。
そぎゃんこつなか… そぎゃんこつなか!
夫婦だけん もっともっと言いたかことば言い合えるとばい!
(りくと増野の泣き声)ほら!
増野さん…。
ぬしが…ぬしが そぎゃんこつ言いよるけんりくちゃんだって泣いとるばい!
ほう!(泣き声)
あ~ ごめん ごめん。 ごめんな。
(泣き声)
りくっていう名前 シマが付けたんです。
陸上の… 陸上の… 「りく」。お母さん… 陸上好きだったもんな。
なっ。
走ってほしかったな… もっと。
増野さん…。
・あ~らよっと!増野さん…。
ごめんよ!ほっ ほっ あらよっと… ごめんよ!
清さん…。
(清さん)通るよ!清さん…。
日本橋方面 行く人今日は安くしとくよ!
清さん。
おっ 金栗さん!清さん 清さん 清さん…。
店も家も焼けちまったけどよ… うん。
死なずに済んだよ。
そぎゃんですか よかった。
よかった…。あ~ よかった。
韋駄天。
悪いな…。
喜びは喜びで思いっきり声に出さねえと…。
明るいニュースが少ねえからよ。
写真あんのかい?
貸しな。 うん 一緒に捜してやるよ。
ありがとうございます。
名前は何ていうんだ?増野シマです。
シマ? …よし。
ああ…。
酒。
こんな時に飲まなくたって。
こんな時だから飲むんじゃねえか。
ほ~ら あるじゃねえか!
湯飲みは全部 割れちまったよ。
あ~。
何で俺の着てんだよ。
だって寒いんだもん。
♪~
フフッ… ヘヘヘ…。
♪~
ただいま~。あっ お帰りなさい。
お疲れさまでした。かあちゃん 今夜一本つけてくれ。
(五りん)駄目ですよ 師匠。いいわよ 今日は飲ましてやってよ。
どっちよ~?寝酒なんだよ。
じゃあ 1本ですよ。寝つけねえ感じがしてな。
しかし 力 入っちゃうなあの地震の噺ってのは。
40年もたってんのに どうしてもね こう笑いの方へ引っ張れねえんだよな~。
あたしゃ 笑っちゃいましたよ。 もうおとうちゃんったらさ 怖がっちゃって。
何言ってんだよ。あん時は酒飲みたくて…。
あ~ うそ うそ うそ。もうね 怖くて逃げ出したの。
違うよ~。 だって東京中の酒がお前 地面に吸われちゃうんだよ?
俺は焦って出ていったんだよ…。
あんたんとこは? 五りん。地震 大丈夫だった?
あ~ ばあちゃんが被災したみたいです。
あら。そうか。
あっ いや でも そんなしんみりするようなことじゃないです。
俺 会ったことないし。
1万人 見つかってないんだもんね~。
あっ 写真は一応定期入れの中に持って歩いてます。
あら 年季入ってる ほら!えっ 何 何?
母ちゃんの形見なんで。きれいな人じゃない!
そうっすか?
うん? この人は? 仲人?
頭がすごい大仏みたいになってる この人。
これがお母さんだよな?(五りん)何言ってるんですか。
ねえ うちのはないの?ないわよ。 写真なんか撮らなかったもの。
ちゃんと しまっときなさいよ。大事なもんなんだから。
はい。 あっ ちょっと!お父ちゃんじゃなくて。
何やってんの…。だって 美津子が言ったから お前…。
何言ってるんですか。
大仏なんか要らねえよ。
五りん お前も飲むか?(五りん)あっ 僕 コーラで。
(幾江)そぎゃん時こそ 東京に残ってふんばらんで どぎゃんする!
<韋駄天は駆け抜けた>
見れば分かるだろ!? 今 忙しいんだわ!
(野口)我々ができるのはスポーツによる復興だけです!
(スヤ)バカの走りよるて皆 笑っとるだけたい。
<金栗四三編 クライマックス>
ついに ここまで来たばい!
観光客でにぎわう浅草。
今はひっそりとした裏道に明治時代のスカイツリーとも呼べる凌雲閣の跡地があります。
明治23年に建てられた凌雲閣は浅草十二階とも呼ばれ日本初の電動エレベーターや望遠鏡が備えられた展望室もあり浅草の名物でした。
しかし 関東大震災で8階から上が崩落しその後 解体されました。
去年2月 浅草の工事現場からその凌雲閣の一部が発見されたというニュースが報じられました。
(西村)のぞくと中から もう 基礎の部分のレンガがボロボロボロッと出てて…。
これが 実際のレンガです。
(西村)凌雲閣って 実物が残ってなかったから本物のレンガっていうのが出てきたところで やっぱあっ 本当に存在したんだっていう…。
雪男とか ああいう ネッシーとか…本当に見たみたいなそんな感じになりましたね。
現在は 新たな建物が建っている街の一角。
出土した凌雲閣のレンガが土台に展示されています。


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