穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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今回はパワーワード増量かもです。
あと、チラッと今まで出てなかったギルメンの断片とか。ようやくモモンガ様が光ったりとか(えっ?

それと割と甘めな味付けで。






第79話:””う~ん……リスペクトの差?

 

 

 

唐突だがお骨(モモンガ)様は、悩んでらっしゃる。

骨の身では脳味噌無いはずなのに一体どの部位で悩んでるのか……という根源的な疑問はさておき、とりあえず頭を悩ませる機会は存外多い。

個の力がどれほど強かろうと、面倒事というのは中々にままならない。

まずは漆黒聖典第九席次”疾風走破”ことクレマンティーヌ・メルヴィン・クィンティアの処遇である。

 

(とりあえず、どうすべきか……)

 

帝国兵に偽装し王国の村々を襲撃していた法国部隊”チーム・チンピラ”は、ガゼフに丸投げしたロンデス・ディ・クランプ一人を残して『元帝国兵が野盗化した集団』という妥当な名目で問答無用に処分した。

基本、遺体はカルネ村に住む食人系種族の御馳走になったが、装備は二束三文で売りに出され、例え売れ残りやら店側から買い取り拒否されたとしても遺品として法国に戻ることはないだろう。

モモンガがあずかり知らぬところではあるが……ロンデスは王都につき投獄されたが、予想通り本格的な尋問が行われる前に謎の失踪を遂げている。以後の消息は不明だ。

ついでに法国ではとある金持ちの家が普通の意味でも物理的にも取り潰されたようだ。噂では、その家にはペリュースという名のあまり評判のよくない息子がいたらしい。

 

陽光聖典は、全滅こそしたが少なくとも遺体は王国側に渡されることもなくツアーを通じて全て法国に戻された。

ネムに馬ごと縦軸で真っ二つにされたニグンを代表例として、遺体の損傷はそれなりに激しいので一般に唯一の蘇生魔法として認識されることが多い(人類が使える魔法は、普通第6位階までというのがこの世界の常識)第5位階の《死者復活/レイズデッド》では少々蘇生は厳しいかもしれない。

だが、法国には《オーバーマジック/魔法上昇》という使用可能な魔法位階を引き上げる儀式魔法があるので、本当にニグン達が必要なら復活させるだろう。

 

ただ、この2グループは扱いの差こそあれ『カルネ村に害をなす可能性の高い襲撃者の集団』だったことには変わりはない。

対してクレマンティーヌは、個人だった上にただ村の外側の草むらに潜んで様子を伺っていただけだ。

しかも一度、比喩ではなく死んだ身……これ以上、懲罰を課す意味はない。

交渉がまとまり次第、法国に返却するのが順当ではあるのだが……

 

(ちょっと返すの惜しいなぁ)

 

ネムとの一戦を見て素直にそう思ってしまったのだ。

”戦闘力5のスカウター”で確認したところ、暗殺者(アサシン)寄りの軽戦士(フェンサー)

正直、村では育ちにくいし育てにくい職業(クラス)Lvの持ち主だ。

現状、総合Lv29まで落ちてしまったが逆にまだまだ伸びしろはある。

装備を整え、竜王国でビーストマンあたりと戦わせれば、かなり面白い育ち方をしそうだ。

モモンガのコレクター魂が微妙に刺激される。

 

(いっそ懐柔の方向で動いてみるかな?)

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「モモンガ、どうした? 深く考え込んで?」

 

言い忘れていたが、今は我が家。広場に面した村で一番大きな山荘風のログハウスの中だ。

実は見かけ以上に中が広い……まあ、実を言えばユグドラシルの拠点用アイテム”グリーンシークレットハウス”にデータ・クリスタルをぶちこみ、快適な夫婦生活を送るために趣味にかまけて内装と外装を弄りたおしたものだ。

 

モモンガという男は決して自己顕示欲や承認欲求が低いわけじゃない(高いとも言えないが)。

だが、尊敬されるのは全然いいいのだが、”死を司る神(オーバーロード)”として過度に崇め奉られるのは好んではいないようだ。

 

現在の住居もなるほど確かに僻地の開拓村にある住居としては立派だが屋敷や館と呼ぶほどではなく、ましてや誰がどう見ても神殿や寺院、霊廟の類には見えない。

自分を”死の神”として信仰するのは許すが、『大袈裟にやって悪目立ちするのは村のためにならない』として住居以外に神殿を立てることを良しとはしなかったのだ。

 

その謙虚な姿に村人は酷く心打たれて感銘と尊敬を集めたが、かといってモニュメント、あるいはシンボルとして何もないのは寂しいという思いはあった。

なので村が豊かになるにつれ、それなり潤沢な公費も用意できたことだし奮発して建てられたのが、村の広場にある噴水の中央に鎮座する村在住ドワーフ衆(ルーン技工士集団)渾身の1/1スケール”死の神”像というわけである。

劣化防止などの複数のルーンが刻まれた黒く輝くオニキス製のボディに、目には大粒のルビーをあしらわれモモンガ玉はガーネットの宝珠で再現された中々の逸品である。

因みにこの像を盗もうとしたり悪さしようとしたりすると、ゴッツイ呪いがかかるという噂がある。例えば、『影に潜んでる悪魔に食べられる』、『ある日突然、アンデッドになる』とかなんとか。

 

もっとも死の神像は噴水に限らず村のそこかしこにあり、また多くの家で小さな神棚が置かれて祭られているのであるが。

共通項は黒色を基調とすることだが、中には稀に見受けられる『淡い緑色の優しい後光』を現したのか、ヒスイやカンラン石で再現したものもあるようだ。

将来、万が一にもカルネ村が観光開発を進める日が来たら、良い土産物になりそうではある。

 

「うん? ああ、クレマンティーヌをどう扱おうかと思ってね」

 

部屋着であるチャコールブラウンの上質なローブに身を包み、ロッキングチェアーに揺られながら何故だか酷く久しぶりに骨の体を堪能してる気がするモモンガは、定位置の膝の上に座る仮面を外した愛妻(キーノ)の髪を軽く撫でた。

 

「もしかして欲しくなったのか?」

 

モモンガはあえて直接的には答えず、

 

「悪くない才能だとは思うよ」

 

現在、総合Lv29のクレマンティーヌのデータはこんな感じだ。

 

 

 

クレマンティーヌ・メルヴィン・クィンティア

種族:人間

 

職業(クラス)Lv

アサシン(ジーニアス):Lv5 ← (2減少)

マスターアサシン:Lv3

ファイター:Lv5 ← (2減少)

ナイキ・マスター:Lv3

軽戦士(フェンサー):Lv3

ローグ:Lv3

シカケニン:Lv3

ウィザード:Lv2

ドクター:Lv2

総合Lv29

 

 

 

おそらくデスペナによるレベルダウンは、最も高い数値から優先的に起きたのだろう。

 

「一番高いのがアサシン系技能で、オマケに盗賊職の《ローグ》まで持ってるからな。例えば、これで斥候(スカウト)系の《ストーカー》とか取るだけでもかなり化けると思うぞ?」

 

するとキーノはフフッと笑い、

 

「随分とご執心じゃないか?」

 

「才能ある者を見ると、つい伸ばしたくなるだけさ。これもコレクターのカルマとかサガってものかもね」

 

「見た感じも中々可愛らしいしな。山猫っぽいというか野良猫っぽいというか」

 

苦笑するキーノに、『まあ、確かに猫っぽい……というか動きもネコ科の肉食獣っぽいし、”くれにゃんてぃーぬ”というのもアリと言えばアリか? 実際、本人同意ならワーキャットとかにもできなくはないんだが。敏捷上がるし』とか内心で思いながら、

 

「同意できなくはないな。とはいえ、この際容姿は割とどうでもいいんだ」

 

人のままであろうとネコ耳生やそうと、いずれにせよクレマンティーヌはモモンガの好みからは少々外れるようだ。主にサイズ的な意味で。

誤解のないように言っておくが、別にモモンガは人並みの審美眼がないわけじゃない。例えば、ラキュースを見れば綺麗だとも思うし、美人だとも思うだろう。

だが、彼はやはり綺麗より可愛いほうを好むし、グラマーな美人とちみっこいぺったん娘なら、後者をお持ち帰りする。

膝の上で現在進行形でスリスリ身をよせ甘えまくってる妻が妻なのだから、当然ともいえた。

モモンガの女性の基準は全てキーノなのだから仕方ない。

あと、その紳士としての土台を全力で作り上げた某ありんすちゃんの生みの親もほぼほぼ悪い。

蛇足だが……なんとなくだが、そのとばっちりで明らかなグラマーで美人系で声だけはロリな”とある肉棒娘”は、本人すら気づかぬ間に婚期を逃したっぽい。誰とは言わないが。

 

「モモンガは優しいな」

 

キーノはどこかうっとりした顔で呟いた。

 

「? どうしてそうなる?」

 

「わからないなら、それでいいよ」

 

(きっとモモンガは、自分が誰かを救おうなんて考えたことはないだろうから)

 

「ワタシもモモンガに救われたから」

 

するとモモンガは一掃優しく骨の指で柔らかな金髪を撫で、

 

「俺はそんな大それたことは出来ないさ。困ってる者は手が届く範囲で助けたいと思うけど、救うなんてことはできやしない」

 

”きゅっ”

 

モモンガはキーノを抱きしめ、そっと耳元で囁く。

 

「どんな存在であれ、救うなんてできないのさ。己を救えるのは自身だけだ」

 

「そっか……」

 

すっかり体を弛緩させたキーノは、

 

「ところでモモンガ……大切な事を忘れてやしないか?」

 

「?」

 

()()()()()()()

 

”ぎくっ”

 

「ネムは大人しく留守番もしていたし、おまけに”れべるあっぷ”まで果たしたんだ。褒美は与えてやらんとな」

 

「うっ……」

 

「約束は守るものだろ?」

 

『はぁ~』とモモンガは久しぶりに淡く翡翠色に光りながら深い溜息を突いて、

 

「おっしゃるとおりで」

 

「ふふっ。なんだったら選ぶの手伝ってやるぞ? ワタシはペロロンチーノ殿が残したコレクションは詳しいんだ」

 

「毎度思うが……キーノさんは、なんで俺よりペロロンチーノさんの遺物に詳しいんでせうかね? 直接会った事無いのに」

 

「う~ん……リスペクトの差?」

 

 

 

愛する妻は、未だにとても不思議がいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

モモンガさん的にはギルメンと過ごした時間は、既に過去の思い出と割り切ってます。
もう、転移してきてから一世紀だし、メガッさ濃厚な100年だったしね(^^

あと、某茶釜さんに合掌(笑
弟は焼き鳥にされても文句は言えないかも……

モモンガさん、薄幸……もとい。発光機能が標準装備のお骨様モードでも、原作より圧倒的に緑に輝く機会少ないです。
100年の時間が精神的許容量(キャパ)を徹底的に拡大させ、沈静化の機会が減ったとかそんな感じで。




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