2019年05月05日
その21薬
哲学青年がまた今度の土曜日に八王子の魔術師の医者に連れていってくれるという。
それはそうと、もうすぐカフェのマダムに子どもが産まれる。私はいつもの経堂の病院の帰りに赤ちゃんの肌にいいリネン類を買った。哲学青年との折半でお金を出した。ひとり2千円出して4千円の高級リネン類だ。病院のほうはいつも通りというところで、医者曰く私の薬は弱い精神安定剤だそうだ。医者とも長い付き合いなのでお互い中だるみしていた。この油断が事件のキッカケの一因となる。
病院から自宅に帰ってパソコンを開いた。八王子の魔術師の医者が私の飲んでいる薬を調べろと言っていたからだ。薬は精神安定剤で、非定型精神病の私は常に少量飲まなければいけない。この粉薬の精神安定剤にはもう少し事情がある。私は特異体質で普通の精神薬は飲めない。私が15歳の時、適当な精神薬を飲んだら危篤状態になり、広尾病院で集中治療と私に合う薬の研究をした。精神薬は普通錠剤なのに対し、私はブレンドした粉薬だ。この特殊治療を開発した医師は薬剤師の資格も併せ持ってしかも当時世界的に高名な医者だった。
私は精神病になっても医師たちには恵まれた。私の主治医だった人は日本を代表する医師で、よく世界中を飛んでいた。しかも温厚な人柄の医者だ。その医者は引退して、今は私の父の後輩の医者に診てもらっている。今の医者もなかなか優秀で薬のブレンドが上手い。
こんなに薬のことを書いてどうする?と思われそうだが、ここが事件のポイントだ。哲学青年は私が薬を飲むと急に黙る。
私は自分の薬の成分をインターネットで調べた。そしたら、副作用によって眼に若干ダメージのある薬があった。エーッ!ショック!どうしよう!今まで医者のことは全部信用していたし、疑うことは一切なかった。
その夜約束の場所で哲学青年に薬の副作用を話した。哲学青年は私の手を握りしめて、
「それは辛かったね。もう僕と八王子の先生がいるから大丈夫だよ。今度先生にこのことを正直に言ってごらん。僕は君が薬を飲むとき、君は苦しそうに飲んでいた。ずっとずっと友達時代から気になっていた。」
私、そんなに苦しそうに飲んでいた???いや、普通に習慣で飲んでいただけど……。このとき恋のロマンチズムで細身の哲学青年が逞しくみえた。恥ずかしながら当時私は恋に酔っていた。みんなの憧れの哲学青年と恋人になったばかりだもの……。