2019年05月19日
その31ビニール袋の中身
哲学青年に一晩中抱きしめられた感覚が忘れらない。親に頭が異常といわれて泣きながら哲学青年に抱きしめられたあの夜。朝が来て私は自宅に戻ったけど、家に居たくなかった。アトリエ仕事が終わってから私は哲学青年のアパートに行った。哲学青年のアパートの合鍵は持っている。まだ哲学青年は仕事中だ。
私は哲学青年が愛おしくてしょうがなかった。その愛に体が燃えそうだ。私は冷ますためにお風呂に入った。体は冷たくなったけど狂おしいほどの気持ちは収まらない。とりあえず英語の勉強をすることにした。当時私は20年間アメリカにいたカフェのオーナーに英語を習っていたからだ。
床にビニール袋がある。何だろう?その中身を見た。私は言葉を失った。さっきまでの火照る体が一気に氷のように凍った。
哲学青年と私は最後の一線は越えていない。哲学青年は紳士的だから私の嫌がることはしない。八王子の古本屋でのからかいの時以外は……。哲学青年は中性的な美貌の男性でもあった。それでも私は哲学青年がれっきとした男性であることをビニール袋の中身で理解した。このことについて私は哲学青年にメールを送った。哲学青年のメールの返答はもしものため。
そうか、もしものためか……。私と哲学青年が最後の一線を越していないのには理由があった。私が生理以外に出血したのだ。だから病院にいくまで控えたほうがいい。それは哲学青年にも説明した。
そうだよね、哲学青年も大人の男性だもの。私が彼に甘えすぎていたかもしれない。むしろ備えてあって当然だ。繊細で細身の哲学青年にも男性の欲望があることはあまり意識しなかった。哲学青年の持っている本棚にはエロ本ひとつ無い。下品なエロは嫌いと言っていたしね。その代わり哲学青年の部屋には中くらいのマリア像があった。そのマリア像は少し私に似ていた。マリアの絵や天使の絵が壁一面に貼っていた。
哲学青年にとってのエロスは普通の男性と意味が違っていた。彼のエロスの目的は魂の救済だった。哲学青年との付き合い始めに「聖娼」を読んでほしいと頼まれた。彼のエロスは高潔だった。欲望を満たすより魂の救済、そういえば哲学青年はゲーテが好きだった。
哲学青年は夜8時に帰宅した。いつもの哲学青年だ。私は彼を抱きしめた。