2019年06月05日
その36哲学青年の抱擁
2016年8月下旬、哲学青年と私は同じベッドで眠っていた。突然ベッドの中で哲学青年は私を強く抱きしめた。
「もう我慢できない、僕は君を略奪婚する!君を異常者と呼ぶ、君の両親に君を戻したくない!」
私は困惑した。どうすればいいのだろう……。哲学青年に愛されることはいいとして、両親をどうしよう……。そうだ、しばらく哲学青年のそばにいて、ほとぼりが冷めたら両親に挨拶しよう、と考えていた。哲学青年にこんなにも熱愛されることは永遠ではないはずだ。
しかし私も生きていてこんなにもひとりの男性に熱愛されたことは無い。過去に幾人の男性に恋されたことがあっても、ここまで私を激しく愛する男性はいるだろうか。哲学青年とはまだ男女の一線を越していない。それでも哲学青年は狂おうしく私を愛する。思えば私は哲学青年と友達の延長線で穏やかに愛し合いたかった。水のような愛を望んだ。でも実際は燃え上がる恋、一か月で体重が数キロ痩せる命がけの恋となってしまった。
いつもカフェで難しい本を涼しげで氷のような美貌で読む哲学青年。もの静かに文学哲学を語る哲学青年、しかしその青白い血の気の無い手で私の手を情熱的に強く握る、炎のような心を秘めた哲学青年。しかしその燃え上がる恋は破滅が待ち受けている。哲学青年に熱愛されている私は、一方哲学青年の破滅を恐れるようになった。
2016年8月下旬頃から哲学青年は略奪婚すると私に語るようになる。最初冗談かと思ったら哲学青年、本気です……。略奪婚は古代の歴史にあった文化だった。だけど、哲学青年、それを本当にやったら現代日本では犯罪です……。この頃の私はみっともないくらい無力だった。男性の恋心に翻弄される、恥ずかしい私だった。
gomafujin at 15:19│Comments(0)│有る事件の告白