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「トラブルメーカーズ・スクール」ワークショップに参加して/日本労働弁護団発行『季刊・労働者の権利』2018年1月号掲載原稿

清水直子(プレカリアートユニオン執行委員長)

 日本の労働運動に足りないのは、組織化、戦略(的思考)、オルガナイザーと次世代の育成。そして、これらを体系的に学ぶ場だと常々思っていました。
 2007年から非正規雇用が中心のいわゆる「若者ユニオン」の活動に参加し、2012年には労働組合のベンチャーを目指すかのようなプレカリアートユニオンを結成。集団的労使関係を築きにくい、という「若者ユニオン」の限界を越えたい。非正規雇用・不安定雇用・ブラック企業で働く比較的若い世代でも、非正規雇用が当たり前になったからこそ、個別案件の解決に終始するのではなく、職場に仲間を作って働きながら職場を変え、よりよい労働条件を実現したい。困難な仲間の個別の相談に対応し、解決しながらも、数の力で勝つ力を手にしたい。それができる組合を作りたいと、十数人の仲間たちと結成し、6年弱で組合員は350人を超えました。
 個人加盟の労働組合は、組合員300人くらいで頭打ちになり、創立メンバーや専従の高齢化に伴って、縮小するのはなぜか。
 方針が、単なる目標のようになっていて、具体的に、これをしたら、これが実現できるという見込みを持たずに、やるべきだから、とか毎年やっているから、やっているというように見える。
 労働組合、特に闘っているといわれる合同労組やユニオンは、次世代の担い手を仲間のなかから育てられず、限界集落ならぬ「限界組合」化しているのではないか。
 経営戦略の本はたくさんあるのに、労働運動は武勇伝か法律マニュアルばかりで、戦略や戦術を体系的に学んでトレーニングできるようになっていない。
 そんな、労働組合、労働運動の課題を解決するために、この3年ほど、組合活動にコミュニティ・オーガナイジングを活かす取り組みをしてきました。アメリカのナショナルセンター、AFL・CIOが組合の活性化にコミュニティ・オーガナイジングを活用していると知ったことがきっかけです(流派がいくつもあるそうです)。コミュニティ・オーガナイジングは、コミュニティの当事者自身が、仲間の力を引き出し、自分たちの力で社会を変える手法で、トレーニングが可能なようにその手法が体系化されています。

 昨年2017年11月に、アメリカの労働団体、レイバーノーツの活動家(ジェーン・スロータさん、レア・フリードさん)を招いて、日本で、職場の組織化を進めるためのワークショップ「トラブルメーカーズ・スクール・ジャパン」が行われました。プレカリアートユニオンも、6人のチームで参加。参加した組合員たちは、「これなら、自分たちで(ワークショップを)できるのではないか」という感想をもちました。
 テキストは、レイバーノーツの『SECRETS OF A SUCCESSFUL ORGANIZER』(『成功するオルグの秘訣』)の一部とのこと。翻訳が日本労働弁護団から『職場を変える秘密のレシピ47』として出版された本です。
 訳者の菅俊治弁護士もいくつかの場で指摘していますが、同書は、組織化を料理に例えています。うまくいくやり方をすればうまくいき、まずいやり方をしたらうまくいかない、人間相手なので、常にうまくいくとは限らないとしても、レシピを学ぶことは大切だ、と。
 ワークショップのプログラムは、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンやミッドウェスト・アカデミーのワークショップとも共通するものがありました。ワークショップはそれぞれ、人はどうしたら動くのか、活動を持続できるのかといった点など、様々な手法に心理学の知識が反映されているようです。
 トラブルメーカーズ・スクールは、戦略面を重視したワークショップを行っているミッドウェストアカデミーのワークショップを簡易にしたような印象を持ちました。
 レシピ、つまりその通りやればできるという具体的なやり方が提示されている。だから、自分たちもやり方を取り入れればできると思えるし、ワークショップもやり方をまとめたテキストがあれば自分たちで提供できるようになると思えたわけです。

 そもそも、職場の仲間にどう声をかけてよいか分からない。そんなときも、よい聞き手になることから始め、相手の(不正義に対する)怒りを使って、何とかしようとする決意を引き出し、不安や無力感を希望に変えるために具体的な対処法や計画を共有し、行動に駆り立て、参加を促すノウハウが示されています。
 経営側のデマに混乱した仲間の厳しい質問への答え方(肯定する、正しく簡略な答えをし、逃げたり推測で答えたりしない、方向転換させる)、上司の反撃に備えて仲間に免疫をつけるための議論の仕方、など、日頃の組合員とのやり取りのなかで、意識せずに行っていることが、体系化されてまとめられています。体系化されているということは、自分が学べるということでもあり、仲間を担い手として育てるときに、教えやすいということでもあります。
 職場のリーダーの見極め方を候補者である5人と数人の女性から選ぶトレーニングは、グループで、あらゆる可能性を想定しながら、真剣に話し合って決めました。ワークショップのテキストには、よいオーガナイザーの資質として重要なポイントが挙げられています。答え合わせをした印象としては、よいオーガナイザーは、すでに組織化をしているものなのだと感じました。
 職場の生産過程や労働者の通路、配置、人間関係を図にするマッピングや、職場の労働者のデータを盛り込んだ名簿化など、時につまみ食い的に活用している手法も、改めて、レシピとして、この通りにすればうまくいくことを、着実にやることが成功への道なのだと思い至りました。

 職場の課題を組織化する際、組織化するのふさわしい課題の選び方のポイントは、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンのワークショップで学んだポイントとも共通していました。多くの人が直面しているか、何かしないではいられないほど深刻に受け止められているか、勝てる課題であるか(勝ち得る根拠のある構想か、現在の力量に見合った構想か)、組合を強化し、リーダーを育てるか。テキストでは、勝つということについて、「勝つためには、意志決定者が『ノー』と言い続けることが困難な状況を作り出し、『イエス』と言わせる必要があります」と説明しています。
 ちなみに、ミッドウエスト・アカデミーの戦略ワークショップでは、「力とは、決定権を握る者に、彼らの好むと好まざるとにかかわらずYESと言わせる能力である」と定義しています。そして、誰が決定権を握るのか、どのようにしてYESと言わせるのかを分析して、戦略を考えていくわけです。ミッドウエスト・アカデミーの戦略ワークショップのことを、講師は、直接行動オーガナイジングと表現していました。
 レイバーノーツのモットーのひとつは、ストライキを含む直接行動を重視することです。力関係で不利な立場にある者が勝つには、決定権者にYESと言わせるには、直接行動は不可欠です。そんな直接行動を含む戦略を選ぶポイントも、目に見えるかといったことのほか、団結が強まるか、楽しいものになるかといったことが含まれています。みんなの力を高めるものであるかが大切なのです。

 直接行動を含む戦術をエスカレートさせていくことを目に見える方法として、活動温度計というものも登場。例として、教員たちが学校のカビ問題を解決するためにとった、小規模グループで集まる、から始まって、宣伝行動を実施する、記者会見する、一斉に会合を退席するというステップが挙げられていました。
「決まった日にスローガンや漫画を描いたTシャツや帽子をかぶる」「ストライキを打つ」「上司についての歌を歌う」「大人数で上司と会う」「ツイッターとフェイスブックのコメントを弾幕のように発信して経営陣を攻撃する」といったたくさんの戦術に加えて、試してみたい行動を次々上げて、活動温度計を埋めていきました。シミュレーションでも楽しいです。
 私たちのようなユニオンと呼ばれている個人加盟の労働組合は、比較的、創意工夫をしながら直接行動をしているところが多いようです。ただし、当事者の数が増え、力が高まっているかを意識して、行動の強さを上げているかを振り返る必要があると改めて思いました。
「トラブルメーカーズ・スクール・ジャパン」で使われていた運動計画作成書は、ミッドウエストアカデミーの戦略チャート図を簡単にしたようなものでした。ちなみに、ミッドウェストアカデミーで戦略を考えるときに使われる戦略チャート図は、A SEED JAPAN、? POWER共編『NGO運営の基礎知識』106ページに掲載されています。
 運動の山場を書き込む折れ線グラフのような図は、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンのワークショップで使われる、タイムラインの図と似ていました。
 ワークショップの全体を通して、具体的な成功事例が上げられており、オーガナイザーでありファシリテーターの組織化の経験が(時に失敗も)語られたのも特徴です。

 私は、料理が得意ではありません。というか、基本ができていないのに、適当な作り方をしたくなってしまい、放っておくと、冷蔵庫の残り物と残り野菜をぶちこんだ謎のおじや(それなりに美味しく食べられないこともありませんが)をばかりを作ってしまいます。
 そんな自分の壁を越えたいと思い、先日、米粉のホットケーキミックス2袋入りを買ってきて、1袋はレシピの通りに作ったところ、写真通りのホットケーキができました。もう1袋は、レシピの基本を外さないようにしながら、残っていたフルーツグラノーラをあくまでも適量をまぜて焼いてみました。美味しくできました。レシピを無視して適当に作るのと、レシピを踏まえてアレンジするのとでは、結果が変わってきます。
 そして、レシピは活用しなければ意味がありません。活用して、楽しく、成果を得て、力を得て、仲間と分かちあってこそのレシピです。
 ちょうど10年ほど前、年越し派遣村に取り組む少し前のことでした。私が、非正規雇用が中心の個人加盟の労働組合の活動に関わるようになったばかりの頃、ある筋金入りのオルグの方から、こう言われました。
「泳ぎを覚えるのに、陸でいくら泳ぎ方を教わっても泳げるようにはならない。泳げるようになりたければ、水に入って泳いでみるしかない。団体交渉をできるようになりたかったら、とにかく団体交渉をやることだ」。
 この言葉を真に受けて、最初の1回は、別の労働組合の方に同行してもらって団体交渉をして、その後は、さらに別の方の団体交渉に同席させてもらいながら、見よう見まねで団体交渉のやり方を学びました。今も学びの途中です。10年前に聞いた言葉は正しかったと思います。コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンのワークショップでも、転んでもいいから自転車に乗るチャレンジをすることが大事だと言われます。
 でもというか、だからこそ、労働組合の活動にチャレンジするハードルを下げるために、「俺の背中を見て育て」ではなく、何をどうすると、どんなことができるかを見通すことができ、体系的に学べるようにすることが必要です。精神論とパワハラは関係が深く、組織内のタテの関係とセクハラも関係が深いものです。不合理をなくすことは、労働組合組織内の根深い問題の解決にも役立つでしょう。

 菅弁護士たちのご尽力のおかげで、『SECRETS OF A SUCCESSFUL ORGANIZER』(『成功するオルグの秘訣』)の翻訳本『職場を変える秘密のレシピ47』が世に出ました。
 私たちも同書を活用しながら、日本ならではの法律に合った内容にアレンジしたいと考えています。また、過半数を組織しなくても、誰でも1人でも加入すれば、団体交渉権を得られる日本の素晴らしい労働組合法の強みを生かしつつ、ユニオンショップ協定の下、組合員になった自覚がないまま組合員になるということでもなく、個別の労使紛争の解決に終始して集団的な労使関係を築けないということでもなく、力を持てる組織化に取り組みたいです。
  人間工学や経営工学は、学問として成立しています。労働組合は、人事部でもビジネスでも自助グループでもありません。力を持てる労働組合の組織化の手法も、科学的に研究され、実践され、共有され、学べるようになってほしい。取り組んだことを振り返り、学び合い、励まし合える場がほしい。助け合って闘えるつながりがほしい。
 日本の労働運動に足りないのは、組織化、戦略(的思考)、オルガナイザーと次世代の育成。そして、これらを体系的に学ぶ場です。これができれば、ブレイクスルーするはずです。
 組織拡大は必ずしも、組織化ではなく、仲間の力を引き出し、高めながら、要求を実現、課題を解決する、そんな仲間を作っていくこと。これが実践できれば、職場も社会も変わるはずです。
『職場を変える秘密のレシピ47』を活用した組織化のワークショップを一緒に作ってみませんか。関心のある方は、日本労働弁護団の菅弁護士、今回のトラブルメーカーズ・スクール・ジャパンの呼びかけ人に声をかけてみてください。新しい動きがあると思います。
 

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