Tango対応スマホの「Phab 2 Pro」専用ケース制作者にインタビューしてきた
Google Tango対応スマホの「Phab 2 Pro」専用ケースを制作した木戸竜也氏にインタビューしてきました。同氏は、TVCMやインタラクティブコンテンツの企画から制作まで展開しているビービーメディア株式会社に勤務。開発現場を支援するテクノロジーデザイングループのグループ長です。
木戸竜也氏はどこでもドアをTangoスマホ内で表現したGoogle Tango Door ARの開発者であり、「Phab 2 Pro」専用ケースでは、前機種であるナイロン素材バージョンと最新作のアクリル版を制作。さらに、2017年3月には音楽祭・映画祭などを組み合わせた米国の大規模イベントSXSW 2017に参加しています。
そんな木戸竜也氏に、「Phab 2 Pro」専用ケースの製作費用や部品の購入先、工夫した点や施策、Tango対応スマホの長所、短所などについて聞いてきました。
「Phab 2 Pro」専用ケースを制作した人にインタビュー
「Phab 2 Pro」専用ケース写真:上からナイロン素材のバージョン1、同じくナイロン素材のスイッチスタイルのバージョン2、アクリル版のバージョン3
──「Phab 2 Pro」専用ケースのナイロン素材のバージョン1、アクリル版のバージョン3がありますね。真ん中のケースはなんですか?
木戸氏 バージョン2です。お蔵入りになりました。
──お蔵入りですか?
木戸氏 見た目が悪いのと、サイズの設計を一部間違えてしましたので。
──サイズを一部間違えたというと?
木戸氏 片方はしっかりと合致してTangoスマホを挿入できるのですが、もう片方が「Phab 2 Pro」のサイズと合いませんので入れづらいです。
──なるほど。
木戸氏 バージョン2は、スイッチスタイルで呼んでいます。某大手ゲーム会社から発売した小型で持ち運べるゲーム機のような形です。
バージョン2のスイッチスタイル
──いいネーミングですね。素材は何でできていますか?
木戸氏 ナイロンですね。DMM.makeで3Dプリントしました。社内にも3Dプリンタはあるのですが、最近ちょっと機械の調子が悪かったのでオンラインサービスを利用してみました。
──ナイロンとナイロンを繋いでいる素材はなんですか?
木戸氏 普通のゴムです。アマゾンで買いました。自転車のどこかの部位へ使用するための素材です。なるべく頑丈でサイズがベストなモノを探していたらこの素材を見つけました。安く抑えたいのであればヘアゴムでも問題ありません。
──首にかける部分の紐は?
木戸氏 ホームセンターで購入しました。
──なるほど。素材を一式揃えるのに、特別にどこかの企業にお願いするといったことはないのですね。
木戸氏 そうですね。素材のカットはDMM.makeに依頼したくらいですかね。
アクリルを活用したバージョン3
──バージョン3のアクリル版に貼ってある3つのテープはなんですか?
木戸氏 導電テープです。
──どういったことに使うのですか?
木戸氏 電気が通っている静電容量式のタッチパネルになっていて、それをタッチすることで間接的にスマホ操作ができます。電気が通る素材を探したときに、導電テープが簡単に実装できそうだと思いました。タッチセンサーが付いているホームボタンと戻るボタン、履歴表示ボタンに導電テープを添付して、指で押すとボタンに伴ったスマホの操作ができます。表面からは押せないようにしていて、アクリルとアクリルの隙間に貼っています。表に添付してしまうとユーザーに渡して体験してもらう時に、間違って押してしまいそうですので。これで間違えてホームボタンなどを押すことがなくなります。押す際は、1枚目と2枚目のアクリル板の間に指を入れてタッチすると反応します。ただ見た目の問題があるので、表のアクリル側にコンテンツ名のシールを貼って隠そうと思っています。
──ネジが5つありますが、これで固定しているのですね。
木戸氏 ケース左に位置する3つのネジと右の導電テープ付近にある2つのネジを緩めてTangoスマホを挿入します。入れた後ネジを締めると完成です。
──なぜネジ式にしたのですか?
木戸氏 作りやすさを優先しました。強度的にもいいかなと。
──3つのバージョンの中でどれが一番安価で制作できましたか?
木戸氏 バージョン3のアクリル版ですね。制作費も安く性能や持ちやすさは他のバージョンより良いと思います。
──バージョン3は全部でいくらかかりましたか?
木戸氏 人件費を抜かした場合ですが、アクリルが90cm×60cmで3,000円ぐらいで数個分作れます。あとはfabcafe(ファブカフェ)のレーザーカッターの使用料が1個あたりだったら数百円で素材を切れるので、紐やネジ合わせても3,000円くらいで作れると思います。バージョン3が見た目も一番綺麗で、一番安くて一番早く制作できました。ちなみにバージョン1、バージョン2はDMM.makeで3Dプリントしましたが、2つとも4,000円ほどでした。
木戸竜也氏
──なるほど。全部ご自身で?
木戸氏 バージョン1, 2は私が制作しました。バージョン3は弊社のデザイナーにお願いしました。やはりデザイナーが入ると質が違いますね。
──そうなんですか!
木戸氏 VRの情報はネット上にたくさんあって、開発者から企業まで盛り上がっているのですが、Tangoを使ったアプリ開発の記事はなかなかインターネット上では見かけません。ましてや専用ケースを作っている記事は海外メディアでも見たことがないです。
ナイロン素材を使用したバージョン1
──確かに情報が少ないかもしれませんね。「Phab 2 Pro」専用ケースを普及させていくにあたっての施策はありますか?
木戸氏 2017年6月28日から東京ビッグサイトで行われるイベントの先端コンテンツテクノロジー展に出展します。その展示会に「Phab 2 Pro」の専用ケースとTangoアプリのコンテンツとミニゲームを来場者に試してもらうことが第一ですね。
──ちなみにですが、初音ミクのミクさんぽで他社が「Phab 2 Pro」ケースを使っていたのを見かけたのですが。
木戸氏 そうですね、ケースを自作されているのは少しずつ見かけるようになってきました。元々はシンガポールでグーグル社とレノボ社が開催したイベント、アートサイエンス・ミュージアムで使われていたケースを見て「ああいうの欲しい!」と思って作り始めました。ただ似せるつもりは無かったんですけど、結局似てきてしまいましたね。。アートサイエンス・ミュージアムはコンテンツのほうも参考にさせてもらっています。
──そうですか。Tangoアプリの開発はなにを?
木戸氏 現在はミュージアムなどの屋内展示向けのARガイドアプリを製作中です。やはり視覚で情報を補足するほうが分かりやすいので、より楽しく、より知識を深められるものとして利用していただきたいと思っています。
──音声によるガイドが視覚化されるということですね。展示物にかざすと情報が表示されたり、矢印が出てきて案内したりすると?
木戸氏 はい、今現在開発中ですが、位置と連動したエリア説明、展示物にカメラを向けた時の補足情報の表示がベースになっています。展示物によっては3Dモデルやアニメーションも表示させることでより分かりやすくなります。あとはアプリなのでユーザーの年齢によって表示内容を変えたり、次に見るべきおすすめの展示物まで誘導してくれたりもできますし、どの展示がどのくらい見られているのか、エリアごとの滞在時間がどれくらいだったのかなども解析可能です。例えば経路表示の簡単なモックはYouTubeに投稿してあります。
──今回の先端コンテンツテクノロジー展でそのアプリを展示しますか?
木戸氏 ブースが狭いのでARガイドは狭い範囲での簡単なデモになります。あとは宝探しゲームを展示予定です。
──宝探しゲームですか?
木戸氏 空間に宝探しコーナーをマッピングして、そこでコインを集めるちょっとしたミニゲームになっています。イベントなどでの利用を想定していまして、2000x2000mm、3000x3000mmなどスペースに合わせたサイズの宝探しコーナーを設置できます。Tango対応端末だけで他に何もなくても楽しい宝探しゲームを手軽に導入可能です。スペースによりますが同じ場所で複数人が同時にプレイすることもできますね。
──楽しみにしています!
木戸氏 Tangoの技術はとても良いですが、普及には時間かかると思いますのでTangoを使った施策は基本的には貸し出しになってしまいます。将来的にはiPhoneに「Phab 2 Pro」と同じよう機能が搭載されるっていうのをどこかの記事で見たことがあります。そうなると一般ユーザーが自分のiPhoneで体験できるようになるので、iPhoneがそのような機能を搭載したのであれば、すぐにアプリもケースも対応できるようにしておこうかなと思ってます。HoloLensを始めとしたHMDデバイスのアプリ開発も視野にいれております。この先新しいデバイスが色々と発売されると思うので、その場にあったものを試しながら開発していきたいです。
──そうですか。「Phab 2 Pro」の良いところは空間を認識したりトラッキングができるなど沢山あると思うのですが、一番良い長所はなんだと思いますか?
木戸氏 画面が大きいのは長所ですね。
──というと?
木戸氏 見やすいですね。多くのクライアントの方に「Phab 2 Pro」を見せた時に「2017年夏にもっと小さいTangoデバイスが発売されますよ」と、お話しすると画面は大きい方がいいよと言われます。個人的には最初は大きいのがデメリットだと思っていたので意外でした。
──小さい方がポケットにも入っていいと思いますが。スマホとして見られていないのですかね。
木戸氏 たぶん「自分が持つもの」という視点ではなくて「貸し出しで使うもの」という認識のほうがまだ強いからだと思います。そうなると確かに大きいほうがいいですね。
──なるほど。
木戸氏 Tangoスマホは子供でも気楽に楽しめるのもいいですね。
──ちなみに短所はなんですか?
木戸氏 バッテリーですね。まだどのぐらい持続するかしっかりと計測はしてないんですが、長時間持続して画面が表示できないと思います。
──アプリにもよりますが、Wi-Fiなしで起動し続けたら3時間ぐらいはもつそうですけど、それよりもっと短いかもしれないんですけどね。
木戸氏 モバイルバッテリーをTangoスマホに接続して、モバイルバッテリーを交換しながら回すという案もありました。モバイルバッテリーを多く購入して、充電しながら楽しんでもらうと。Tangoスマホを沢山買って回すよりは安価で済むと思います。
──充電残量が減る方が早そうですね。
木戸氏 はい、そんな気はしています。。
──最後に、弊社のサイト訪問者に向けて、何か一言いただきたいです。
木戸氏 Tangoアプリや専用ケースだけではなく新しいモノを一緒に作りたい、勉強したいとかそういう人がもっと増えてくると嬉しいです。専用ケースやアプリのご相談や依頼などがあれば、ぜひ弊社にご一報いただければと思います。
関連サイト
・ビービーメディア株式会社